【ブロンズダイスか、テフロンダイスか】料理人が店で本当に使ってきた乾麺パスタ
こんばんは、ひろしです。
今日は、乾麺パスタの話。
僕は20年、イタリア料理の現場でパスタを作り続けてきました。
正直に言うと——使ってきた銘柄は、時期によって、ずいぶん変わってきました。
「これが正解」という一本が、ずっとあったわけじゃない。
だから今日は、ランキングというより、僕が現場で使い分けてきた話として、書きます。
でも、迷っている人のために。答えは、先に置いておきます。

― 先に、結論だけ ―
順位ではなく、役割で分けると、こうなります。押すと、その説明に飛びます。
迷ったら、ツルッと派バリラ No.4テフロン|1.6mm↓迷ったら、ソースを絡めたい派ディ・チェコ No.11ブロンズ|1.6mm↓いま、仕事でも家でもアルチェネロブロンズ|1.6mm↓ちょっといい日にグラニャネージブロンズ|1.8mm↓ブロンズを気軽にモンスーロ No.118(カルディ)ブロンズ|1.7mm↓パーティーの日にモリサーナの、イカ墨スパゲッティ1.7mm↓途中の「寄り道」は、たたんであります。気になったところだけ、開いてみてください。
僕が使ってきた、乾麺パスタの変遷


最初は、ディ・チェコ。
次に、バリラ。
そして、グランフィーロ。モリサーナ。
いまは、アルチェネロ。仕事でも家でも、これです。
途中には、グラニャネージ、ディベッラ、ダルクオーレ、モンスーロも。
どれも、この先で出てきます。
ここぞ、というときは、タンマ。
もっと特別な日には、ミナルドのスパゲッティ。
なぜ、こんなに変わってきたのか。
それは「ブロンズダイスか、テフロンダイスか」という、麺の作り方の違いと関わっています。
そもそも、何が違うのか ― ブロンズダイス と テフロンダイス


乾麺パスタは、生地を「ダイス」という型から押し出して作ります。
この型が、青銅(ブロンズ)か、テフロンか。それで、麺の表面がまるで変わる。
ブロンズダイスの麺は、表面がザラザラしています。
だから、ソースが絡みやすい。
テフロンダイスの麺は、表面がツルツル。
だから、つるっとした、いい食感が出る。
お店で見分けるなら、袋の表示を見てください。
「ブロンズダイス」、イタリア語なら「trafilata al bronzo」と書いてあれば、ブロンズです。
麺の色も、ちがいます。ブロンズは白っぽくて、つやがない。テフロンは黄色っぽくて、つやがある。
僕の使ってきたものでいうと——
ディ・チェコはブロンズ。バリラはテフロン。グランフィーロもテフロン。
モリサーナは両方(種類による)。モンスーロも、アルチェネロもブロンズ。
※各社、商品によってどちらもあります。
ここで、勘違いされがちなこと。
「ソースが絡む方が、いいに決まってる」と思いますよね。
——でも、違うんです。
大事なのは、ソースとの相性。そして、好み。
絡めばいい、というものじゃない。
自分が、その一皿で、どんな絡み方を目指すのか。それで変わる。
僕の使い分けは、こうです。
ツルッと食べたいものは、テフロン。アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノとか、ペスカトーレとか。
麺にしっかりソースを絡めたいときは、ブロンズ。
どちらが正解、ということもない。それで、店の個性が出る。
家庭で買うなら、この乾麺パスタ

とはいえ、家庭で何本も常備するのは、現実的じゃない。
「まず一本」を選ぶなら、という目線で、僕が本当に使ってきた中からおすすめします。
迷ったら、ツルッと派:バリラ No.4(1.6mm)
「いちばん手に入りやすいのは?」と聞かれたら、バリラ。
スーパーでも、たいてい置いてある。テフロンダイスの、つるりとした優等生です。
テフロンならバリラ、ブロンズならディ・チェコ。
迷ったら、ソースを絡めたい派:ディ・チェコ No.11(1.6mm)
僕が、最初に使った一本。
1.6mm——正確には、スパゲッティーニ(スパゲッティより、少し細い)。
この太さが、日本人にはいちばんしっくりくると思う。
ブロンズダイスの、世界標準。どこでも手に入る。迷ったら、これ。
いま、仕事でも家でも:アルチェネロ(1.6mm)
二、三年前から、アルチェネロです。
きっかけは、スペルト小麦。スペルト小麦のパスタを使ってみたくて、ついでにスパゲッティも試してみたら、とても良かった。
有機の小麦で、ブロンズダイス。1.6mm。
通販で手に入るし、仕事用には5kgの袋もあります。
ひとつだけ、注意。全粒粉のほうは、香りはいいけれど、プツプツと切れやすい。
扱いが難しいので、最初はふつうのスパゲッティから。
ちょっといい日に:グラニャネージ(1.8mm)
高めだけど、本当に美味しい。
茹でただけで、美味しい。
山の上にあった頃のviva la vitaでは、このスパゲッティを茹でただけの「釜揚げ」で出していました。チーズは、パルミジャーノを別添えで。
それで一皿になる麺です。

グラニャーノIGP。ブロンズダイスで、ゆっくり乾かしてあります。
ブロンズを気軽に:モンスーロ No.118(1.7mm)
ナポリ近くの町、グラニャーノのパスタ。ブロンズダイスで、低温でじっくり乾燥させている。
本格的なのに、カルディなんかで気軽に買える。ブロンズの入り口に、ちょうどいい。
パーティーの日に:モリサーナの、イカ墨スパゲッティ(1.7mm)
イカ墨を練り込んだ、黒い乾麺。ふつうのより少し高いけれど、美味しい。
最初は、試しに一袋買ってみただけでした。
家で作ってみたら、子どもたちが、すごく気に入って。そのときのソースが、たまたま魚介でした。
次のパーティーの買い出しのとき。
子どもたちは、ちゃんと覚えていたらしく、自分たちで、このイカ墨のパスタを選びました。
それからは、我が家のパーティーの定番。このイカ墨スパゲッティに、魚介のソース。仕上げに、ペコリーノ。
めっちゃ美味しいです。

ほかにも、使ってきた乾麺
店によって、時期によって、ほかにも使ってきました。
ディベッラ(テフロン・1.75mm)。
ダビデが、好んで使っていました。テフロンで、コシが強くて、アルデンテが長持ちする印象。
ダルクオーレ(ブロンズ・1.7mm)。
ピソリーノの後期に、僕が好んで使っていた。食感がよくて、香りがいい。これもグラニャーノIGP。
タンマ(ブロンズ・No.4)。
プーリアの、1907年から続く老舗。
表面がザラついて、もちっと強いコシ。特別な一皿に。
ガロファロ(ブロンズ・1.7mm)。
もう少し、いいものを。という日は、ガロファロ。
グラニャーノのIGP——本場の名産地の名前を背負った、ブロンズの一本です。
モリサーナのふつうのスパゲッティ(中価格で、コシがしっかり)や、グランフィーロ(テフロン)も、一時期よく使いました。
そして、僕の「特別な日」のパスタ ― ミナルドのスパゲッティ
これは、買いやすさで選ぶ一本じゃありません。
シチリアのミナルドという作り手が、古代小麦と、ミネラルウォーターだけで作り上げるパスタ。
日本に輸入しているのは、僕の友人の、ルーチョ。
品切れのときは、次の入荷まで待ちです。
でも、香りが、最高なんです。
ちなみに——同じ店のオリーブオイルも、僕は愛用しています。
これがまた、最高。香りが、ぜんぜん違う。
本当は、ソースで麺を変えるべき


ここまで「銘柄」と「ダイス」の話をしてきたけど、本当のことを言うと——
パスタは、合わせるソースで、形ごと変えるべきなんです。
現場では、こう使い分けます。
| 料理 | 合わせる麺 |
|---|---|
| アマトリチャーナ | ブカティーニ(穴あきの太麺) |
| グリーチャ | リガトーニ(太い筒) |
| ペスカトーレ | リングイネ(楕円の断面) |
| 冷製パスタ | カッペリーニ(極細) |
ソースの濃さ、絡み、食感。それぞれに、いちばん合う形がある。


だから、家庭で選ぶなら、食べやすい1.6mm か 1.8mm を基本に。
たまに「今日はペスカトーレだから、リングイネ」と一本足す。
そのくらいが、ちょうどいいと思います。
「パスタ料理は、パスタを食べるものだからね」
これは、修行時代の話。
あるイタリア人に、こう言われた。
「パスタ料理は、パスタを食べるものだからね」
最初は、意味がよく分からなかった。当たり前じゃないか、と。
でも、たぶん認識の違いだった。
僕はどこかで、ソースは少し多めに——と思い込んでいた。たぶん、日本人っぽい感覚で。
向こうの正解は、こうだ。
パスタを食べ終えたとき、ソースもちょうど、なくなっているくらい。
皿にソースが残らない。麺が、ソースを着ているだけ。
主役は、あくまでパスタ。ソースは、それを引き立てるもの。

今回の写真を見返していて、思い出した。
本場で撮った一皿は、どれも、皿の上でソースが泳いでいない。
たぶん、あの一言は、こういうことだったんだと思う。
どんな高級パスタも台無しにする「茹で方」の話

最後に、いちばん大事な話を。
よく「アルデンテは、表示時間より●分早く上げる」と言われます。
——でも、本当は、違うんです。
何分早く、なんて決まりはない。
どんなソースと、どう合わせるか。そのとき、どれだけ火を入れるか。それで、全然変わる。
たとえばカルボナーラなら、早めに上げる。
ソースと和えるときに、まだ火が入っていくから。
アルデンテは、時間じゃない。仕上がりから、逆算するもの。
塩は、どのくらい?
通説では、「湯の1%」と言われます。
湯2リットルに、塩20グラム。
正直に言うと、僕には、少し少なく感じます。
僕は、たぶん1.5%か、もう少し濃いくらい。2%近いかもしれない。
(いつも量ってるわけじゃなくて、味で確かめているので、正確じゃないけれど。)
寄り道塩を濃くすると、何が変わる?タップで開きます
茹で汁の塩には、二つの意味があります。
ひとつは、塩味。
もうひとつは、食感。
(食感は、本当は水の硬さ——硬水か軟水か——の方が関わると思っていますが、日本の家庭の水なら、そこは気にしなくていい。)
濃いほうが、食感にメリハリが出る。
でも、その分、ソースの塩分も計算しないといけない。
乳化のために足す茹で汁の塩も含めて、ぜんぶで調整する。だから、少し難しい。
家庭でなら、1%が、ちょうどいいのかもしれません。
僕は、食感と塩味のバランスを取って、少し濃いめにしています。
修行時代に、よく言われた言葉があります。
「塩味は、足すことはできても、引くことはできない」
濃すぎたら、もう、戻せない。
だから、最初は控えめに。味を見ながら、決めていく。
これは、パスタだけじゃなく、料理ぜんぶに通じる話です。
この記事で紹介したもの
この記事に出てきたものを、まとめておきます。
押すと、その説明のところまで戻ります。買うところではなく、まず説明を読んでもらえたらうれしいです。
迷ったら
テフロンの代表。つるっと軽いバリラ スパゲッティ No.4(1.6mm)↓ブロンズの世界標準。どのソースにもディ・チェコ No.11 スパゲッティーニ(1.6mm)↓いま、仕事でも家でも
有機、ブロンズ。通販で手に入るアルチェネロ 有機スパゲッティ(1.6mm)↓ちょっといい日に
茹でただけで美味しい。グラニャーノIGPグラニャネージ スパゲッティ(1.8mm)↓パーティーの定番。魚介とペコリーノでラ・モリサーナ イカ墨スパゲッティ(1.7mm)↓ブロンズを気軽に
カルディで買える。グラニャーノモンスーロ スパゲッティ No.118(1.7mm)↓ほかにも、使ってきた乾麺
テフロン。コシが強く、アルデンテが長持ちディヴェッラ No.8 スパゲッティ(1.75mm)↓ブロンズ。食感と香りダル クオーレ スパゲッティ(1.7mm)↓ブロンズ。もちっと強いコシタンマ スパゲッティ No.4↓グラニャーノIGP。スーパーでも見かけますガロファロ スパゲッティ(1.7mm)↓特別な日に。ルーチョさんの店でミナルドのスパゲッティ↓まとめ

プロでも、使う銘柄は変わる。唯一の正解はない。
ブロンズか、テフロンか。優劣じゃなく、ソースとの相性で選ぶ。
家庭なら、テフロンはバリラ、ブロンズはディ・チェコを基本に。いまの僕は、アルチェネロ。
そして、茹で方。アルデンテは時間じゃない。塩は、引けない。
道具も、食材も、結局は「自分が、どうしたいか」。
そこから選ぶと、失敗しません。

今日の一曲
今日の一曲は、ボビー『炎のたからもの』。
ルパン三世『カリオストロの城』の——あの、ルパンと次元が、山盛りのスパゲッティを奪い合うように頬張る、あの場面の歌です。
僕が「パスタって、こんなに旨そうなものなのか」と最初に思ったのは、たぶん、あのシーンだった。
何の変哲もない、ミートボールのスパゲッティ。それが、世界でいちばんおいしそうに見える。
銘柄だ、ダイスだ、塩分だと——さんざん理屈を書いておいてなんだけど。
いちばん旨いパスタは、案外、ああいう一皿なのかもしれません。
誰かと、笑いながら、奪い合うように食べる。
たぶん、それが、いちばんのレシピです。
ひとりではなく、ふたりで——この二行も、いちばんのレシピとおなじことを歌っています。
凍てつく夜も
二人で渡って行きたい
ボビー「炎のたからもの」(作詞 橋本淳/作曲 大野雄二)より
本日もお読みいただき、ありがとうございました。




















