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こんにちは、ひろしです。

今日は、チーズの話をします。

これは書き始めたら、20年ぶんの引き出しが、一気に開いてしまった話です。

答えだけ知りたい人のために、先に置いておきます。

イタリアチーズの選び方ボード。削る(パルミジャーノ・グラナ・ペコリーノ)、青カビ(ゴルゴンゾーラ)、フレッシュ(モッツァレラ・ブッラータ・リコッタ)、吊るして熟成(カチョカヴァロ)。まず2つ、家に4つ
塊で買って、直前に削る。それだけで、香りがちがいます。

― 先に、結論だけ ―

まず揃えるなら、パルミジャーノとペコリーノ・ロマーノ。

この2つがあれば、料理の世界がぐっと広がります。

余裕があれば、モッツァレラとゴルゴンゾーラ・ドルチェを足して、4つ。

→ 詳しくは、この先で

途中の「寄り道」は、たたんであります。気になったところだけ、開いてみてください。

イタリアチーズ9種類、早見表

この記事に出てくる9つのチーズを、使いどころで並べました。

★ 仕上げに削るパルミジャーノ・レッジャーノ硬い・牛|仕上げに削る。パスタビアンカ↓★ 羊の塩気と香りペコリーノ・ロマーノ硬い・羊|カーチョ・エ・ペペ、カルボナーラ↓★ そのまま、カプレーゼにモッツァレラフレッシュ・牛|カプレーゼ、ピッツァ↓★ 溶かしてソース、はちみつとゴルゴンゾーラ青カビ・牛|ペンネ、はちみつと。家庭はドルチェ、好みはピッカンテ↓混ぜ物の中にグラナ・パダーノ硬い・牛|詰め物・混ぜ物の中に↓特別な日に、そのままモッツァレラ・ディ・ブッファラフレッシュ・水牛|そのまま。特別な日のカプレーゼ↓とろりと主役にブッラータフレッシュ・中にクリーム・牛|切って、流れ出るクリームごと↓焼いて香ばしくカチョカヴァロ・アフミカート吊るして熟成+燻製・牛|そのまま、軽く炙って↓家で作る、デザートにもリコッタフレッシュ・牛のホエイ|家でも作れる。ラヴィオリ、デザート↓

★=家庭で、まず持っておきたい4つ。押すと、そのチーズの話に飛びます。

9つのイタリアチーズの地図。横はやわらかいから硬いへ、縦は牛・水牛・羊のミルク
横がかたさ、縦がミルク。

家庭で、まず持っておきたい4つのチーズ

家庭でまず持っておきたい4つのチーズ。パルミジャーノは削って仕上げに、ペコリーノは羊の塩気、モッツァレラはそのまま、ゴルゴンゾーラ・ドルチェは溶かして
役割がちがうから、4つ。

先に、家庭で、まず持っておくならこの4つ、というものを挙げておきます。

これは、僕が実際に、家でも常備しているチーズです。
(もちろん、粉チーズやスライスチーズではなく、の話です。)

1. パルミジャーノ・レッジャーノ

削れば、ふだんのパスタが、別物になります。
仕上げの一撃、として、まずこれ。ブロックで買って、直前に削るのが基本。

2. ペコリーノ・ロマーノ

パルミジャーノとは、また違う世界を教えてくれる、羊乳のチーズ。
カーチョ・エ・ペペや、カルボナーラの本場の味を、家で試したくなったときに。

3. モッツァレラ(できれば、水牛のもの)

カプレーゼ、マルゲリータ、そのままオリーブオイルと塩で。
(合わせるオリーブオイルの選び方はこちらに。)
ここは、少しだけ贅沢しても、後悔しません。

4. ゴルゴンゾーラ・ドルチェ

そのまま、はちみつをかけて。
ペンネ・ゴルゴンゾーラのソースにして。
家庭で使いやすいのは、ドルチェ。(僕個人の好みは、ピッカンテですが。)
100gあれば、家庭では十分。

うちの子どもたちは、こないだのお誕生日会で、初めてゴルゴンゾーラを買ってパーティーをしてから、ゴルゴンゾーラにハマっています。
しかも、ピッカンテ(笑)。

カビがどうこうという情報に踊らされず、純粋に、味が気に入ったみたいです。

— この4つがあれば、家庭のイタリアンは、ぐっと広がります —

パスタには、どのチーズ?

パスタとチーズの組み合わせ。カーチョ・エ・ペペ、カルボナーラ、アマトリチャーナ、魚介はペコリーノ。ボロネーゼとパスタビアンカはパルミジャーノ。ペンネはゴルゴンゾーラ
家では、入れ替えても大丈夫。店では、別物。

家庭で使うなら、ペコリーノとパルミジャーノは、入れ替わっても大丈夫。代用も効きます。
個人的には、魚介にはペコリーノ。
カルボナーラも、カーチョ・エ・ペペも、アマトリチャーナも、ペコリーノ。ボロネーゼには、パルミジャーノ。

ひろし

羊乳のクセが大丈夫なら、常備するならパルミジャーノよりもペコリーノのほうがいい、とさえ思っています。

店で出すなら、話は別。パルミジャーノとペコリーノの味わいは別物なので、そこは使い分けるべきだと思っています。

どこで買っているか

チーズは、ふだんは業者から仕入れています。家庭用は、地元の、いろいろ揃っている業務用スーパーのような店で買っています。

* * *

ここから先は、僕とチーズの、20年の話です。

チーズとの出会いの年表。学生のころの850円のカプレーゼ、粉チーズの時代、最初の店、ダビデ、ナポリピッツァの店、ルーチョ
料理人の階段には、そのたびに、新しいチーズがいました。

850円のカプレーゼ、その語感と衝撃

いちばん最初の、チーズの記憶をたどると、
僕がまだ料理を始める前、ジャズ研の学生だった頃にまでさかのぼります。

ライブを聴きに、あるおしゃれなカフェに入ったときのこと。
メニューに「カプレーゼ」というものがありました。

僕は、それが何かも知らずに、
ただ、その語感だけを頼りに注文しました。

値段は 850円。
学生で、お金もなかった。
当時は、外食も今よりずいぶん安かった時代です。
「850円もするのか」と、まず、そこで一度びっくりしました。

出てきたのは、
トマトと、チーズの、サラダ。

カプレーゼのイラスト。トマトとモッツァレラとバジル
記憶のなかの、850円のカプレーゼ。

「これで、850円⁉」
それが、二度目のびっくり。

生のトマトは、小さい頃から大好きでした。
でも、そのカプレーゼは、トマトも、モッツァレラも、
正直に言って、たいして美味しくなかった。

これが、僕とチーズの、最初の出会いです。

僕は、クラフト時代を長く生きた

その後、MONDO GROSSO の曲に出会って、なぜか料理に興味を持ちはじめた頃の話。
(このあたりの話は、姉のピアノと、父のレコードとという記事に書いています。)

僕が自分で料理をつくりはじめても、
当時、パルミジャーノ・レッジャーノなんていうチーズの存在は、まったく知りませんでした。

使っていたのは、クラフトの、緑の筒に入った「パルメザンチーズ」の粉。
モッツァレラも、スーパーで手に入る、クラフトの丸いやつ。

本を片手にレシピを見ながら、フレッシュトマトとバジリコとモッツァレラのパスタや、
カプレーゼを、そうやって作っていました。

クラフトの緑の筒のパルメザンチーズと、スーパーのフレッシュモッツァレラのイラスト
僕の「クラフト時代」の相棒たち。

クラフトのモッツァレラを、悪く言うつもりはないんです。
でも、はっきり言って、生で食べても、あまり美味しくなかった。
パスタに混ぜて、少し火を入れると、まあ、それなりに美味しい。
というか、ソースで、ある程度ごまかせるんです。

今思えば、僕のチーズの世界は、ずいぶん長い間、
その「クラフト時代」の中にありました。

寄り道「給料は要らないので、教えて欲しい」タップで開きます

ここで、少しだけ余談を。

そんな僕が、初めて「料理を仕事にしたい」と思って、お願いに行った店があります。

そのお店では、募集なんてしていませんでした。
でも、味が美味しかった。
それだけを理由に、閉店後に、アポなしで訪ねていって、
「給料は要らないので、教えて欲しい」と、頼みに行きました。

結果は、丁重に断られました。
そりゃそうです。
店にとって、なんの得もない話でしたから。

僕も、まだ、若かったんです。

でも余談ですが、このオーナーシェフには、
このあと、たくさんお世話になることになります。
(その話は、また別の機会に。)

ようやく雇ってもらった店で、本物のチーズと出会う

そうして、ようやく未経験で雇ってもらった、次のお店。

ここで、僕は、本物のイタリアの食材と、
どんどん出会っていくことになります。

そのなかでも、チーズの記憶は、いくつも残っています。

パルミジャーノ・レッジャーノとの、初対面

パルミジャーノ・レッジャーノのイラスト:味わい・製法・おすすめの使い方

まず、パルミジャーノ・レッジャーノ。

今まで緑の筒の粉しか知らなかった僕にとって、
本物のパルミジャーノ・レッジャーノは、まったくの、別物でした。

そして、そのとき、初めて知ったんです。
「パルメザンチーズ」って、パルミジャーノ・レッジャーノの英語名だったのか、と。
えっ、あの緑の筒のパルメザンと、この塊が、同じ名前⁉
その驚きは、今でも覚えています。

ブロックで買って、使うたびに、削る。
それだけで、香りが、まったく違います。

お店では、パスタを賄いで作るとき、
「パスタビアンカ」というものを、よく食べていました。

茹でたパスタに、削りたてのパルミジャーノを、たっぷり和えるだけ。
それだけの料理です。

それだけなのに、これが、最高に美味しかった。
賄いの中で、いちばん好きだったかもしれません。
(ちなみに、乾麺パスタの選び方はこちらの記事に書いています。)

ひろし

パスタと、削りたてのパルミジャーノだけ。シンプルなものほど、素材の力がそのまま出ます。

パルミジャーノは、必ずブロックで買って、直前に削るのが基本です。
ランチなど、忙しくて回らないときは、ランチタイム直前に、
その時間で使う分だけを、まとめて削っておく。
そういう工夫はしますが、それでも、削り置きの時間は、できるだけ短く。

そこにだけは、こだわり続けてきました。

ちなみに、今もサンヨーエンタープライズさんで、素性のはっきりした、素晴らしいパルミジャーノが買えます。
ヴァルセレーナ社の、ブラウンカウ(茶色い牛)のミルクだけで作った、36ヶ月熟成のパルミジャーノ。
ヴァルセレーナ社は、パルマでいちばん古い酪農家のひとつ。自分たちの牧場で育てた、ブラウンカウのミルクだけで作っています。
約250gで、5,633円(2026年10月3日・税込)。素性が完全に分かっているものを、ちょっと贅沢に、というときに。

ヴァルセレーナ社 ブラウンカウのパルミジャーノ・レッジャーノ 36ヶ月熟成
ブラウンカウのパルミジャーノ。(画像提供:サンヨーエンタープライズ)
三角に切り分けられたパルミジャーノ・レッジャーノ ヴァルセレーナ社 ブラウンカウのパルミジャーノを見る サンヨーエンタープライズ|36ヶ月熟成・約250g shop.sanyo-ep.jp

ちなみに、グラナ・パダーノについて

よく似たチーズに、グラナ・パダーノがあります。
これも、DOP認定の、イタリアの硬質チーズです。

正直に言うと、僕の印象と使い方でいえば、
グラナ・パダーノは、パルミジャーノ・レッジャーノの、少し下位互換的な立ち位置です。

美味しいんですが、パルミジャーノと比べると、少し物足りない。

混ぜ物の中に入れるとき、
たとえば、ポルペッティーニ(イタリアの肉団子)や、リピエノ(詰め物)の中身のときは、グラナ・パダーノ。
仕上げに、料理の上に削ってのせるときは、パルミジャーノ・レッジャーノ。

そんな使い分けを、ずっとしてきました。
値段が、けっこう違うので。

パルミジャーノ と グラナ・パダーノ(料理人の目で)

同じ硬質チーズでも、パルミジャーノ・レッジャーノは、生乳のみ・最低12ヶ月熟成・添加物ゼロという厳しい規格で作られる「濃さ」の代表格。

グラナ・パダーノも生乳で作りますが、卵白から取るリゾチーム(保存のための添加物)を使うことが認められていて、熟成は9ヶ月から。値段は控えめで、味わいもマイルド。

卵のアレルギーがある方は、グラナ・パダーノの表示を見てください。

仕上げに削るなら、パルミジャーノ。
日々の料理に溶かし込むなら、グラナ。
同じ「イタリアの硬質チーズ」でも、役割はきちんと違います。

パルミジャーノ・レッジャーノとグラナ・パダーノの違い。どちらも生乳。パルミジャーノは何も足さず12か月から、グラナは卵白のリゾチームが認められ9か月から
同じ硬いチーズでも、役割はちがう。

リコッタチーズは、家でも作れます

リコッタのイラスト:味わい・製法・おすすめの使い方

お店で教わったことのなかで、
「これは絶対に、家で真似したい」と思ったのが、
リコッタチーズを、自分で作る、というやつでした。

リコッタは、牛乳とレモン汁(もしくは酢)と塩、それだけで、家でも作れます。
牛乳をあたためて、レモン汁を加えて、静かに混ぜて、しばらく置く。
すると、白い塊が浮いてきます。
それを、キッチンペーパーやガーゼで、そっと濾すだけ。

正確に言うと、リコッタ(ricotta)は「再び煮る」という意味で、
本場のものは、チーズを作るときに出る乳清(ホエイ)を、再加熱して作ります。
だから、牛乳から作る家庭版は、厳密には、本物とは少し違う。
でも、味の方向はちゃんとリコッタで、そして、じゅうぶんに美味しいんです。

家で作る、リコッタチーズ

  1. 牛乳 500ml を鍋に入れ、塩ひとつまみを加える。
  2. 弱火で、ゆっくりあたためる。沸騰の直前(80℃前後)で火を止める。
  3. レモン汁 大さじ2(または酢 大さじ2)を加える。ひと混ぜだけして、静かに置く。
  4. 白い塊(カード)と、透明な水分(ホエイ)に分離してきたら、キッチンペーパーやガーゼで濾す。
  5. できあがり。冷蔵で 2〜3日保存可能。

できたてのリコッタは、本当に、やさしい味です。
そのまま食べても美味しいし、
はちみつをかければ、そのままデザートになる。
パスタに絡めても、リゾットに加えても、詰め物にしても。

店でよく作っていたのは、
生パスタの中に、リコッタとほうれん草を詰めた、ラヴィオリでした。

リコッタとほうれん草のラヴィオリ
リコッタとほうれん草の、ラヴィオリ。

手軽なのに、感動的に美味しい。
これは、ぜひ、家でも作ってみてください。

ひろし

牛乳とレモンだけでチーズが作れると知ったときは、ほんとうに感動しました。お子さんと一緒に作るのも楽しいですよ。

市販のリコッタも、もちろんおすすめです。
イタリアのGalbani(ガルバーニ)社のものは、日本でも手に入りやすく、品質も安定しています。

イタリアから、空輸で届く、生モッツァレラ

モッツァレラのイラスト:味わい・製法・おすすめの使い方

お店で、初めて口にした、本物のモッツァレラ。

それは、イタリアから、毎週、空輸で届く、生のモッツァレラでした。

クラフトのモッツァレラとは、まったく、別のチーズだった。
生で食べても、火を入れても、最高に美味しい。
とろけるような、ミルクの香りと、コク。

これが、モッツァレラだったのか、と、しみじみと思いました。

モッツァレラの一皿。サルサヴェルデとフェンネルの花を添えて
モッツァレラの一皿。フェンネルの花を添えて。

そして、このモッツァレラの仕入れ先は、
たしか、サンヨーエンタープライズだった、と思います。

スパイスの記事でも書いたのですが、
サンヨーエンタープライズは、イタリア食材を扱う、小さな商社さんです。
新米の頃の僕を、丁寧に扱ってくださった、
社長ご夫妻の記憶が、いまも残っています。

あの生モッツァレラも、あの記憶の中に、たしかに、あります。

いまのサンヨーさんでは、水牛のモッツァレラは予約制です。締め切りとお届けの日が決まっていて、そのなかに、「トレッチェ・ディ・ブッファラ」という、朝一度だけ絞った濃厚なミルクで作る三つ編み状のブッファラもあります。(2026年10月現在)
機会があれば、ぜひ。

トレッチェ・ディ・ブッファラ 三つ編み状の水牛モッツァレラ
トレッチェ・ディ・ブッファラ。(画像提供:サンヨーエンタープライズ)
編み込まれた白いモッツァレラチーズ トレッチェ・ディ・ブッファラ(予約制)を見る サンヨーエンタープライズ|水牛のモッツァレラを編んだもの・250g shop.sanyo-ep.jp
寄り道チーズではないけれど、サンダニエーレの生ハムタップで開きます

同じ頃、初めて口にしたのが、
サンダニエーレの生ハム、いわゆる「プロシュット・ディ・サン・ダニエーレ」でした。

これも、サンヨーエンタープライズから仕入れていました。

サンダニエーレは、イタリア北東部・フリウリ地方の、生ハムの名産地。
パルマ産の生ハムと並んで、二大生ハムとして知られています。

パルマよりも、少しだけ甘みがあって、しっとりしている、というのが、僕の印象です。
薄く切って、そのまま食べる。
それだけで、ワインが、いくらでも飲めます。

プロシュートとメロン。イタリア・アッシジのレストランで
プロシュートとメロン。イタリア・アッシジで。

ゴルゴンゾーラの、衝撃

ゴルゴンゾーラのイラスト:ドルチェとピッカンテの違い・おすすめの使い方

そして、ゴルゴンゾーラ。

あの、カビの生えたチーズが、こんなに美味しい、と知ったのも、この頃です。

初めて口にしたときは、少しびっくりしましたが、
食べれば食べるほど、癖になる。

そのままでも美味しい。
はちみつをかけると、また、まったく違う顔になる。

そして、忘れられないのが、
ペンネ・ゴルゴンゾーラでした。

茹でたペンネに、ゴルゴンゾーラと生クリームで作ったソースを絡めて、
最後に、パルミジャーノを削って仕上げる。

その一皿を、初めて食べたとき、
「こんな料理があるのか」と、ほんとうに衝撃を受けたのを、覚えています。

ゴルゴンゾーラには、
やさしい甘みのある「ドルチェ」と、
辛口でパンチの効いた「ピッカンテ」の二種類があります。

僕個人の好みで言えば、おすすめは、ピッカンテです。
青カビのピリッとした刺激と、コクの深さが、ぜんぜん違う。

ただ、家庭で使いやすいのは、やっぱり、ドルチェかなと思います。
やさしい甘みで、青カビが初めての人でも、すっと入れる。
はちみつとの相性も、ドルチェのほうが素直です。

まずはドルチェから。
ハマったら、ピッカンテへ。
そんな順番が、いいかもしれません。

そのうち、賄い担当になり、
発注担当になり、
ワインのことを任されるようになり。

ひとつずつ、少しずつ、任される仕事が広がっていきました。

前菜の盛り合わせ。生ハム、カプレーゼ、テリーヌ
前菜の盛り合わせ。生ハムも、カプレーゼも。

未経験の僕を、雇ってくれたオーナーシェフには、
今でも、感謝しています。

そこで学んだこと、覚えたことが、
今の僕の、料理人としての、いちばん根っこにあります。

ローマ人から教わった、ペコリーノ・ロマーノ

ペコリーノ・ロマーノのイラスト:羊乳チーズの味わい・製法・おすすめの使い方

そのお店を卒業して、少し経った頃。

ローマ出身のダビデから教わったのが、
ペコリーノ・ロマーノというチーズでした。

これは、羊のミルクで作った、ローマの伝統的なチーズです。
(”Pecora” が、イタリア語で「羊」の意味。)
いまは、その9割以上が、サルデーニャ島で作られています。

牛乳のチーズよりも、少しだけ塩気が強く、独特のクセがあります。
最初は、そのクセに戸惑うかもしれません。
でも、慣れると、これがとても美味しい。

パルミジャーノとペコリーノの違い。牛と羊、塩気、香り、合う料理
牛と、羊。

そして、彼が教えてくれたのが、
カーチョ・エ・ペペという料理でした。

カーチョ・エ・ペペ ─ シンプルの、極み

カーチョ・エ・ペペ(Cacio e Pepe)。
イタリア語で「チーズと胡椒」という意味です。

茹で上がったパスタに、削りたてのペコリーノ・ロマーノと、黒胡椒を、絡める。
それだけの、料理です。

信じられないくらいシンプルなのに、
これが、ものすごく美味しかった。

パスタの茹で汁で、チーズをうまく乳化させて、とろりと絡める。
シンプルなだけに、技術がそのまま出る料理でもあります。

ひろし

チーズと胡椒だけで、こんなに美味しいのかと。イタリア料理の「引き算」を教わった一皿です。

ローマの伝統では、パルミジャーノを混ぜるのは邪道とされ、
ペコリーノ・ロマーノ 100% で作るのが本式です。

本物のカルボナーラと、答えられなかった質問

そのローマ人から教わったことで、もうひとつ、忘れられない話があります。

本場ローマの、カルボナーラの話です。

日本では、カルボナーラに、生クリームを入れることが多いですよね。
でも、本場ローマのカルボナーラに入るのは、

先に書いておくと、これは生クリーム入りが間違いだという話ではありません。生クリームのカルボナーラには、あれはあれの美味しさがあります。日本で広く愛されてきた歴史もあります。

卵黄。ペコリーノ。グァンチャーレ(豚ほほ肉の塩漬け)。黒胡椒。
以上、です。
本場のカルボナーラの4つの材料。卵黄、ペコリーノ、グァンチャーレ、黒胡椒
本場ローマのカルボナーラは、この4つ。
本場のカルボナーラ。卵黄・ペコリーノ・グァンチャーレ・黒胡椒のみ
本場のカルボナーラ。クリームは、入っていません。

「なんでクリームを入れるんだい?」

そう聞かれた僕は、うまく、答えることができませんでした。

彼は、こうも言っていました。

カルボナーラは、その名のとおり、炭焼き職人(カルボナイオ)などの、肉体労働者が食べるもの。
だから、カロリーが、大事なんだ、と。

寄り道カルボナーラの名前は、どこから?タップで開きます

カルボナーラの名前の由来には、いくつかの説があります。

ローマに近い山で、炭を焼いていた人たちの料理だったという説。
黒胡椒が、炭の粉のように見えるからという説。
戦争のあと、アメリカ兵が持ってきたベーコンと卵から生まれたという説も。

料理の名前として記録に出てくるのは、20世紀のなかばから。どれが本当かは、分かっていません。

料理の名前の後ろには、それを食べてきた人たちの、暮らしがある。
そのことを、教わった気がします。

カチョカヴァロ・アフミカート、燻製の衝撃

カチョカヴァロのイラスト:プレーンとアフミカート(燻製)の違い

カチョカヴァロ・アフミカートを知ったのも、この頃です。

カチョカヴァロは、南イタリアの、紐で吊るして熟成させる、紡糸チーズ。
その名前は、”cacio a cavallo”(馬に乗ったチーズ)から来ていると言われます。
たしかに、2つのチーズが紐でつながれて吊るされている姿は、馬に振り分け荷物を乗せたようにも見える。

アフミカートは、それを「燻製にしたもの」。

チーズを燻製にする、という発想が、当時の僕には、まったくなかった。

初めて口にしたとき、
チーズの香りに、ふわっと薫香が重なって、
「なんて美味しいんだろう」と、素直に感動しました。

薄く切って、そのままつまんでもいい。
軽くフライパンで炙ると、また香りが立ちます。

CHEESE STANDの渋谷の店舗 CHEESE STAND のスモーク カチョカヴァッロを見る 国産の燻製カチョカヴァロ。藤川さんの店のもの(約1,500円・2026年10月) cheese-stand.com
寄り道赤ワインをコーラで割ると、美味しいタップで開きます

ぜんぜん、チーズと関係ない話なのですが。

そのローマ人が、教えてくれたことで、もうひとつ。

「赤ワインを、コーラで割ると、美味しいよ。」

え?と思いますよね。
でも、これが、本当に美味しいんです。

スペインの「カリモーチョ」という飲み方が有名ですが、
イタリアでも、こういう飲み方をする人がいるらしい。

やったことのない人は、ぜひ、一度お試しを。
安い赤ワインでも、驚くほど飲みやすく、甘くなります。

ナポリピッツァの店で、水牛のモッツァレラ

モッツァレラ・ディ・ブッファラのイラスト:水牛のミルクの特徴・製法・おすすめの使い方

その後、勤めることになった、ナポリピッツァのお店で出会ったのが、
モッツァレラ・ディ・ブッファラでした。

これは、水牛のミルクで作られる、モッツァレラです。

牛乳のモッツァレラとは、また、まったく違う。
希少なぶん、値段は高い。
でも、それだけの価値がある、独特のコクと風味がありました。

一口食べて、一瞬で、とりこになりました。

ナポリピッツァのマルゲリータ
ナポリピッツァの、マルゲリータ。

マルゲリータには、本場ナポリでは、モッツァレラ・ディ・ブッファラを使うことが、ひとつの正解とされています。
(もちろん、牛乳のモッツァレラで作るマルゲリータも、ナポリピッツァの正式な決まり(STG)に入っていますが。)
(マルゲリータとオレガノの話は、スパイスの記事にも少し書きました。)

モッツァレラの仲間。牛のモッツァレラ、水牛のモッツァレラ、ブッラータ、トレッチェ、カチョカヴァロ。どれもお湯で練って伸ばすチーズ
どれも、お湯で練って、伸ばして作るチーズです。

ルーチョと、ブッラータの出会いは、同時だった

そして、ブッラータ。
このチーズは、ちょっと、特殊な出会い方をしました。

スパイスの記事にも登場した、シチリアの食材を輸入している、ルーチョ。
彼との出会いと、ブッラータとの出会いは、じつは、同じ場所での、同時の出来事でした。

あの日、たまたま同じ場所に居合わせて、ルーチョと話しはじめました。
気がつくと、僕の隣に座っていた人が、じつはルーチョの奥さんだ、と分かって。
年も僕と近くて、なんだか関西弁だな、と思っていたら、
なんと、僕と同郷でした。

そこから、また、さらに話が盛り上がって、
ルーチョとも、あっという間に打ち解けました。

そのとき、テーブルに出されたのが、ブッラータでした。

ブッラータは、モッツァレラを袋のように成形して、
中に、モッツァレラをほぐしたものと、生クリームを詰めたチーズ。
切ると、なかから、とろりと、白いクリームが流れ出します。

ブッラータのイラスト:味わい・製法・おすすめの使い方

ものすごく、美味しかった。
しかも、それは、イタリア産ではなく、日本で作られたものでした。

ブッラータをのせたピッツァ
ブッラータを、ピッツァにのせて。

東京・渋谷にある、「チーズスタンド」というメーカーが作ったもの。
今でこそ、フレッシュチーズの専門店として、すっかり有名なお店になりましたが、
当時の僕は、その存在を、まだ知らなかった。

じつは、あの日。
その話の輪の中には、チーズスタンドの代表・藤川さんも、いました。

そして、あとで分かったことですが、
藤川さんは、僕の高校の同級生と、大学が一緒で、
しかも、イタリア修行の時期まで、同じだった。

世界って、狭いんです。

CHEESE STANDの渋谷の店舗 CHEESE STAND 公式オンラインショップを見る 東京・渋谷でつくられるフレッシュチーズ cheese-stand.com

この記事で紹介したもの

この記事に出てきたものを、まとめておきます。

押すと、その説明のところまで戻ります。買うところではなく、まず説明を読んでもらえたらうれしいです。

まとめ ─ 9つの出会いを、ふりかえって

まとめ。チーズは4つの使い方。削って、溶かして、そのまま、作って

こうして書き出してみると、
僕の料理人としての階段には、そのたびに、あたらしいチーズが、待っていてくれた気がします。

クラフトの粉から始まって、
パルミジャーノ、グラナ・パダーノ、リコッタ、生モッツァレラ、ゴルゴンゾーラ、
ペコリーノ、カチョカヴァロ、水牛のモッツァレラ、ブッラータ。

その一つひとつが、僕の料理の世界を、少しずつ、広げてくれた。

— この記事のまとめ —
削って、パスタや料理の仕上げに。
溶かして、ソースや煮込みに。
そのまま、ワインの相棒に。
そして、家でも、作れるものは作ってみる。

チーズは、僕の料理の世界を、たしかに、広げてくれました。
それは、僕が、20年をかけて、少しずつ、教えてもらったことです。

今日、この記事を読んでくれたどなたかにも、
何かひとつ、あたらしい出会いがあれば、うれしいです。

今日の一曲

今日の一曲は、正直、悩みました。

候補のひとつは、最初の店で、いつも流れていたカンツォーネ。
でも、この記事の締めくくりは、やっぱり、この曲しかありませんでした。

藤岡藤巻と大橋のぞみ「崖の上のポニョ」。

カーチョ・エ・ペペと、本物のカルボナーラを教えてくれた、あのローマ人。
彼が知っている、唯一の日本の歌が、ポニョでした。

日本人のお客様が来ると、彼は、陽気に歌うんです。

「ポーニョポーニョポニョ さかなの子」のところを、
「ポッリポッリ ナナナナナナナ」と。

— 藤岡藤巻と大橋のぞみ「崖の上のポニョ」(作詞 近藤勝也/補作詞 宮崎駿/作曲 久石譲)より

お客様は、みんな、笑っていました。

ポッリ(polli)は、イタリア語で「鶏」。
彼はもしかして、あれを、鶏の歌だと思っていたのかな。笑

本物のカルボナーラを教えてくれた人が、
ポニョを、鶏の歌として、歌っていた。

そういう、ぜんぶをひっくるめて、
僕の、チーズの記憶です。

本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それでは、おやすみなさい。