おろし金と、グレーター|「おろす」と「削る」は、別の道具です
こんばんは、ひろしです。
今日のテーマは、おろす道具。
おろし金と、グレーターの話です。
グレーターは、英語の grater。「おろし器」のことです。
日本では、チーズやレモンの皮を削る、西洋のおろし器を、こう呼ぶことが多いです。
結論から言うと。
このふたつは、同じ「おろす道具」に見えて、まったく別の仕事をします。
おろし金は、おろす(潰す)。
グレーターは、削る。
そして、その使い分けを知ると、料理はもっと美味しくなります。
説明していきます。
― 先に、結論だけ ―
まず一本なら、マイクロプレーンのゼスターグレーター。
汁が欲しい和の料理には、おろし金を一枚。
→ 家庭でのそろえ方を見る
→ この記事で紹介したもの(一覧)へ
途中の「寄り道」は、たたんであります。気になったところだけ、開いてみてください。

皮が、雪のように落ちた

まず、僕がマイクロプレーンに出会った日の話を。
あれは、知り合いのお店に、ヘルプで手伝いに行ったときのことです。
厨房で、そのシェフが、細長い道具でレモンの皮をおろしていました。
「、、、何それ?」
見たことのない道具でした。
使わせてもらって、僕は衝撃を受けました。
それまで、レモンやオレンジの皮は、普通のアルミのおろし金で、必死に削っていたんです。
力を入れて、時間をかけて。
それが、その細長い道具だと——皮が、雪のように、ふわっと落ちる。
体感で、10分の1以下。
あの苦行のような皮おろしが、あっという間に、終わってしまう。
その日のうちに、僕は買いました。
そして、自宅用にも、もう一本。
それくらい、衝撃的だったんです。
道具ひとつで、こんなに変わるのか、と。
マイクロプレーンにたどり着くまで
その道具が、マイクロプレーンでした。
そこにたどり着くまで、僕もいろいろな「削る道具」を使ってきました。
- 上がすぼまった、四角い箱型のボックスグレーター(多くの飲食店が使っている、あの形)
- 半円筒形の、小型のもの
- イタリア人が教えてくれた、回転式(ハンドルをクルクル回して、上の口からチーズの塊を入れる)
回転式は便利でした。
でも、チーズを小さめに切らないと、入り口に入らない。
そこが、少しだけ、微妙でした。
マイクロプレーンは、それらと比べて——
- コンパクトで
- 切れ味が良く
- 目詰まりしない
圧倒的に、使いやすかった。
だから、知ってすぐに買って、今も使っています。

なぜ、こんなに切れるのか——道具の秘密
これには、理由があります。
はじまりは、木を削るヤスリ
マイクロプレーンは、もともと木を削るヤスリでした。
作っているのは、アメリカの会社。
もとは、コンピューター用のプリンターの、小さな金属の部品を、「エッチング」という技術で作っていた会社です。
1990年ごろ、その技術で、木工用のヤスリを作った。
それが、はじまりです。
転機は、1994年。
カナダのある主婦が、アルメニア風のオレンジケーキを焼こうとして、手持ちのおろし器では皮が引きちぎれてばかりで、うまくいかなかった。
そこで、旦那さんの作業場にあった、新しい木工用のヤスリを持ち出して、オレンジをすべらせてみた。
すると——皮が、雪のように舞い落ちた。
僕が厨房で見た、あの光景と、同じですね。
旦那さんは、木工道具のお店をやっている人でした。
お店のカタログに、そのヤスリは「柑橘の皮にも」と書き足されて、料理をする人たちのあいだに、広まっていきました。
こうして、木を削る道具は、料理の道具に生まれ変わりました。

エッチングの刃と、プレスの刃
なぜ、そんなに切れるのか。
刃の作り方が、違うんです。
- マイクロプレーン(エッチング):薬品で金属を溶かして、刃の形と、鋭い刃先を作る。無数の小さな包丁が並んでいるようなもの
- 打ち抜き(プレス)のおろし金:金型で金属を打ち抜いて、刃を起こす
マイクロプレーンの会社の説明では、打ち抜いただけの刃は、鈍い。
だから、食材を「引きちぎる・すりつぶす」。
エッチングの刃は、食材を「切る」。
この違いが、そのまま——「削る」と「おろす」の違いになります。
ちなみに、日本の銅のおろし金は、また別の道具です。
職人さんが、鏨(たがね)で、一目ずつ刃を起こしていきます。


何を、何で削るか
僕がマイクロプレーンで削っているものを、いくつか。
- パルミジャーノ(チーズ) — 細かく切らなくても、塊のまま削れる
- レモンやオレンジの皮(ゼスト) — 出会いの、あの感動の作業
- にんにく・しょうが — 厳密には「おろす」とは違う形になるけれど、力が要らず、早い
- ナツメグ — これは、小さいタイプが使いやすい
僕は、大きいゼスターグレーターと、小さいスパイス用の、2本を使い分けています。
形や大きさが違うので、削るものに合わせて持ち替える。
それだけで、仕事が速くなります。

寄り道「ゼスターグレーター」って、どういう名前?タップで開きます
グレーター(grater)は、英語で「おろし器」。辞書を引くと、日本語でも「おろし金。チーズや香辛料をすりおろす道具」と出てきます。
この記事で「おろし金とは、別の道具」と書いているのは、料理人としての、使い分けの話です。
ゼスト(zest)は、柑橘の皮の、色のついた、香りの部分のこと。それを削る道具が、ゼスター(zester)です。
昔ながらのゼスターは、先に小さな穴が一列に並んでいて、皮を細いひも状に削ります。
マイクロプレーンの「ゼスターグレーター」は、英語の商品名「Zester/Grater」から。皮も、チーズも、細かく削れる、という名前です。
下の商品カードの「プレミアムシリーズ」は、アメリカの公式の説明では、もとの「クラシック」をよくしたもの。持ち手がやわらかく、先に台を傷つけない足がつき、刃を守るカバーもついてきます。削る力は、そのままだそうです。
それから、日本の正規品は「マイクロプレイン」と書かれています。この記事では、よく耳にする「マイクロプレーン」で書いています。
ナツメグのような、硬いスパイスの話は、こちらに書いています。
柑橘の皮の、たったひとつのコツ

レモンやオレンジの皮を削るとき、大事なことがひとつ。
白いワタは、削らない。
香りのいい、色のついた表面だけを、かなり薄く削る。
白いところは、苦いからです。
使うのは、香りのある表面だけ。
ここだけは、気をつけてください。ワタまでいくと、苦くなります。
ちなみに、例外もあります。
カンディータ(砂糖漬けの皮)は、あの白いワタごと甘く煮るから、美味しい。
寄り道カンディータって、なに?タップで開きます
カンディータは、オレンジやレモンの皮を、砂糖のシロップで、ゆっくり煮たもの。
ふだんは苦い白いワタが、甘く、ほろ苦くなります。
イタリアでは、パネトーネなどのお菓子に入っていたり、チョコレートをかけて、そのまま食べたりします。

でも、料理に「香り」として使うときは、表面だけ。
そして、チーズも同じ発想で——使う直前に、削る。
削ってから時間が経つと、香りが飛んでしまいます。
マイクロプレーンは、万能ではない

ここまで、マイクロプレーンの話をしてきました。
でも、正直に書きます。
マイクロプレーンは、万能ではありません。
さっき言った通り、マイクロプレーンは食材を「削る」道具。
おろし金は、食材を「おろす」——つまり、潰す道具です。
そして、潰したほうがいい料理も、あるんです。
たとえば、しょうがの搾り汁が欲しいとき。
僕の経験では、マイクロプレーンで削ると、繊維が残って、汁が取りにくい。
こういうときは、おろし金でおろしたほうが、潰れる分、汁がよく取れます。
わさびも、そうです。
刺身を、お醤油で食べるとき。
あのわさびは、マイクロプレーンで削るよりも、おろし金——それも、鮫皮のおろしでおろすほうが、ずっと合う。
鮫皮の目は、金属よりも、もっと細かい。
わさびの細胞がよくこわれるから、辛みと香りが、しっかり立つ。
口当たりも、ふわっと、なめらかになるんです。
寄り道わさびは、なぜ、細かくおろすと辛くなる?タップで開きます
わさびの辛みは、根の中に、はじめからあるわけではありません。
細胞の中には、辛みのもと(シニグリン)があります。すりおろして細胞がこわれると、わさびが自分で持っている酵素(ミロシナーゼ)とふれて、辛みと香りの成分(アリルからし油)ができるんです。
だから、細かくおろすほど、辛みが増す。
わさびの産地、静岡県のおすすめは、こうです。
- 目の細かい、おろし金で
- ゴシゴシせず、ゆっくり、ねばりが出るように
- おろしたら、3分ほどふたをしてから食べる
ちなみに、「鮫皮」のおろし板には、エイの皮を使ったものも多いです。
- おろし金 = おろす(潰す):しょうがの搾り汁、大根おろし、わさび。潰れて出る水分や辛み、食感が主役のとき
- マイクロプレーン等 = 削る:チーズ、柑橘の皮。繊維を潰さず、香りをふわっと立てたいとき
道具に、ひとつの正解はありません。
「何をしたいか」で、選ぶ。
大根おろしを、ふんわりさせたいなら、銅のおろし金。
さっき書いた、職人さんが鏨で刃を起こす道具です。
* * *
家庭では、どうそろえるか

そんなにたくさんは、要りません。
まず一本、と言われたら——マイクロプレーンのゼスターグレーターです。
チーズ、柑橘、にんにく、しょうが。
これ一本で、料理の香りが、ぐっと立つようになります。
いま、3千円台で買えます(2026年10月)。
それに、マイクロプレーンは、軽い力で削れます。
うちの幼児でも、簡単に削れるくらいに。
できたてのパスタやリゾットに、自分で、好きなだけチーズを削って食べる。
この上ない贅沢です。
(かけすぎて、お母さんに怒られていますが。笑)
※刃は、鋭いです。小さな子が使うときは、大人がそばで見ていてください。
メーカーは、子ども向けに、チーズを台に置いて、刃を下に向けたグレーターを上から滑らせる削り方をすすめています。指が、刃にふれにくい持ち方です。
寄り道マイクロプレーンは、どう洗う?タップで開きます
メーカーの案内などを、まとめておきます。
- 使ったら、すぐにお湯で流す。乾くと、こびりつきます
- 残ったら、少し水につけてから、ブラシで、刃の向きに沿ってこする。スポンジなら、持ち手のほうへ動かす
- 食洗機は、多くの商品で上の段ならOK(カバーは不可)。ただ、切れ味を長くたもつなら、手洗いがすすめられています
- しまうときは、ついてくるカバーを。刃も、指も、守ってくれます
刃を研ぎ直す案内は、メーカーにはありません。銅のおろし金なら、職人さんに目立てを頼めます。
そのうえで、和食もよくやるなら、おろし金を一枚。
しょうがの汁や、大根おろしのために。
ちなみに、僕が家で使っているのは、地元・島根の石見焼のおろし器「もとしげ」です。
陶器の表面に、砕いたセラミックの粒がついていて、金属のおろし金より、早くおろせる。
底には滑り止めがついていて、片手で器を押さえなくても、ずれません。
アメリカの料理雑誌(Milk Street)が、しょうがのおろし器を比べたときも、陶器のおろし器でいちばんの評価だったのは「Motoshige」。同じ窯元のおろし器でした。
焼物の産地に住んでいると、こういう道具に、ふつうに出会えます。

チーズを削るなら
チーズを削る道具(チーズおろし器)も、いろいろあります。
場面で分けると、こうなります。

回転式のチーズグレーターは、食卓で「自分で削る楽しさ」がある道具。
パルミジャーノを、みんなで削りながら食べるのは、楽しいものです。
どのチーズを、どう使うか。チーズの話は、こちらに書いています。
この記事で紹介したもの
この記事に出てきたものを、まとめておきます。
押すと、その説明のところまで戻ります。買うところではなく、まず説明を読んでもらえたらうれしいです。
削る道具
柑橘の皮、チーズ、にんにく。まずこの1本マイクロプレーン ゼスターグレーター↓ナツメグなど、硬いスパイス用マイクロプレーン プレミアムシリーズ スパイス↓おろす道具
家庭ならまずこれ。石見焼のおろし器もとしげ おろし器 織部 18cm↓大根もしょうがも、ふんわり。銅の本職道具大矢製作所 純銅おろし金 箱型↓刺身のわさびは、鮫皮で鮫皮おろし板 長次郎↓まとめ

おろし金は、おろす。
グレーターは、削る。
同じように見えて、生まれも、仕事も、違う道具です。
潰して汁を出すのか。
繊維を切って、香りを立てるのか。
その違いを知っているだけで、いつもの料理が、少し変わります。
そして、マイクロプレーンのゼスターグレーターは——
もし一本も持っていないなら、いちど使ってみてほしい。
あの、皮が雪のように落ちる感覚を、味わってほしいんです。
削ったチーズをかける、パスタの話と、刃物つながりで、包丁研ぎの話も、置いておきます。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それでは、おやすみなさい。
道具の記事を、まとめて
料理の道具の歩き方おろし金とグレーターのほかにも、道具の記事をまとめています。今日の1曲
今日の1曲は、Mr.Childrenの「終わりなき旅」。
この歌には、鉋(かんな)で命を削っていく、というたとえが出てきます。
鉋は、木を削る道具です。
木を削るヤスリから生まれた道具の話を書いた日に、ふと浮かんだ曲でした。
カンナみたいにね
命を削ってさ
Mr.Children「終わりなき旅」(作詞・作曲 桜井和寿)より
















