包丁研ぎは、失敗しても、やり直せる
こんばんは、ひろしです。
今日のテーマは、包丁の研ぎ方について。
結論から言うと、家庭の包丁は、中砥(なかと)という砥石が1本と、面直し(めんなおし)という砥石がひとつ。このふたつがあれば十分です。
そしてもうひとつ。
研ぎは、失敗しても、やり直せます。
ぼくが20年かけて遠回りしてきた話と一緒に、説明していきます。
(思い出話が長いので、おすすめの道具だけ知りたい人は、ここから飛べます)
トマトが、教えてくれる
研げていない包丁は、トマトを切るとわかります。
皮に、刃が入っていかない。
すっと引いても表面で滑って、身がつぶれる。まな板の上で、トマトがすこし逃げる。
あの感じです。
切れる包丁なら、置いた刃がそのまま、すっと沈んでいきます。
まずはこれが、いちばんわかりやすい目安だと思います。
3000円の三徳と、ゴリゴリするやつ
ぼくは大学を出て、未経験のまま料理の現場に入りました。
包丁の研ぎ方なんて、まったく知りませんでした。
家にあったのは、ホームセンターで買った3000円くらいの三徳包丁が1本だけ。しばらくは、それでやっていました。
そのあと、先輩に教わって買ったのが、ミソノのペティナイフ。ぼくの、初めての仕事道具です。
(このときの話は、ミソノの包丁の記事に書きました)
で、当たり前のことですが、使っていれば包丁はだんだん切れなくなっていきます。
最初は、家にあったアレで済ませていました。
刃を溝にあててゴリゴリするだけで、あっという間に研げるという、あのよく見るやつです。
たぶん、どこの家にもあるやつです、、、笑
でも使っているうちに、やっぱり違うなぁと思いはじめました。
それで、現場の先輩たちに聞いてみることにしたんです。
教わっても、しっくりこなかった
シェフは、研がない人だった
最初のお店のオーナーシェフは、じつはぼくと同じ、大学を出てそのまま現場に入った人でした。
だから包丁にはあまり詳しくなくて、研いでいる姿も、ほとんど見たことがありません。
スチール棒で、シャッシャッとやるくらい。

シェフの包丁は、調理学校を出た先輩が研いでいました。
最初に教わった研ぎ方
その先輩に、教えてもらいました。
長い包丁は何回かに分けて、中砥でひたすらゴシゴシ研いでいくやり方です。
- 右手で柄を持ち、包丁を砥石に対して斜め45度くらいに構える
- 刃の浮かせ方は、10円玉3枚分(だったと思います)
- その角度を固定して、切れるようになるまで研ぐ
- 裏返して(刃を向こう側に向けて)、今度は10円玉1枚分の角度で研ぐ
このやり方が間違っているとは、いまも思いません。
ただ、ひとつだけ弱点がありました。
何回も研いでいるうちに、包丁の先っちょが、だんだんコンコルドみたいになっていくんです。
格好悪いし、切りにくくなっていく。
次に教わった研ぎ方
そのあと別のお店で、また調理学校出身の先輩に聞きました。
お店の包丁を全部研いでいた人だったので、今度こそ間違いないと思ったんです。
教わったのは、まったく逆のやり方でした。
包丁の長さに関係なく、刃の全体を、1回で砥石に当てる。
砥石の横幅は5センチくらいしかないので、長い包丁ほど角度をつけて構えて、1往復で砥石の右端から左端まで全部使って、刃の全体を一度に研ぐ。
砥石の真ん中だけが凹んでいかないように、という理由でした。
なるほど、これが正しい研ぎ方なのかと思って、やってみました。
でも、あんまりしっくりこなかった。
それに正直なところ、その先輩の研いだ包丁が、そんなに切れるようになっているとも、感じられなかったんです。
ということで、振り出しに戻りました。
自分で考えることにした
教わってだめなら、考えるしかありません。
洋包丁の刃の仕組みから考えて、根元から先端まで1回で研ぐのは、まぁ違うだろうと思って、すぐやめました。
いろいろ試して、いま落ち着いているのが、この研ぎ方です。
- 牛刀なら、刃を4カ所くらいに分けて、場所ごとに研ぐ
- 角度は、よく言われるより気持ち寝かせ気味に(ぼくは切れ角があまりない方が好みなので)
- 表と裏は、7対3。表を7回研いだら、裏は3回。表を14回なら、裏は6回
- 先端のカーブから先だけは、砥石の右端を使って、別で研ぐ
回数を7の倍数と3の倍数で数えるのは、割合を守るためです。
数えるだけなので、誰でもできます。
そして先端だけ別で研ぐようにすれば、コンコルドになりません。
研ぎ終わりの合図
どこまで研いだらいいのか、という合図もあります。
研いでいると、研いでいる面の反対側の刃先に、ごく小さな金属のめくれが出てきます。
バリとか、返しとか呼ばれるものです。
ぼくは7の倍数で研ぎながら、ときどき、包丁の背(みね)の側から刃先へ向かって、指の腹をそっと滑らせて確かめます。
触るときはかならず、背の側から刃先の方向へ。刃に沿って横へ滑らせると、切れます。
ざらっと引っかかる感じが出てきたら、その面は研げた合図です。
裏に返して、7対3の、3の側の回数だけ研ぐ。
するとたいてい、また反対の面に小さなバリが出てくるので、最後にそれをそっと取って、爪で確認して、中砥はおわりです。
水と、黒い汁のこと
それと、水の話も。
砥石は、研ぐ前にしっかり水につけておきます。
沈めると、こぽこぽと気泡が出てきます。それが出なくなるまで。だいたい10〜15分です。
乾いた砥石は、刃が引っかかって、うまく滑ってくれません。砥石にも、刃にも、よくない。
水を吸わせておくと、刃がなめらかに走るようになります。
研いでいる途中も、表面が乾いてきたら、水を少しかけてやります。
そして、研いでいると出てくる、あの黒い汁。
砥石の粒と、削れた金属が混ざったものです。
汚れに見えるので、つい流したくなりますが、流さないでください。
じつは、この黒い汁が、包丁を研いでくれています。
紙やすりの粉のようなもので、これが刃と砥石のあいだにあるから、よく研げる。
だから途中の水は、流すのではなく、足す。
乾いてきたら少し足して、黒い汁は、最後まで砥石の上に残しておいてあげてください。
これでしばらく、うまくいっていました。
でも、まだ何かが残っていたんです。
砥石は、平らなままではいてくれない
どんなに気をつけて研いでも、砥石は、絶対にまっすぐのままではいてくれない。
あるとき、そのことに気づきました。
それでいろいろ調べて、面直しという砥石があることを知って、買いました。
砥石を研ぐための、砥石です。
それからは、研ぐ前に砥石をしばらく水につけて、まず面直しで、砥石の表面を平らにすることから始めるようにしました。
そうしたら。
包丁が、まんべんなく研げるようになりました。
切れ味も、良くなりました。
もっと早く知りたかったです、、、

研ぎ方をいくら工夫しても、土台が歪んでいたら、報われない。
砥石も、そういうことでした。
面直しをしたあとの砥石の角は、びっくりするくらい尖っています。手を切りやすいので、角も面直しで軽くこすって、丸めておいてください(面取りといいます)。
仕上げ砥と、最後のひと研ぎ
いまは、中砥のあとに仕上げ砥もかけるようにしています。
そうすると、切れ味が全然長持ちするからです。
やり方は、中砥と同じです。7対3で研いで、バリを確かめて、爪で確認。
それと、いちばん最後に知った技をひとつ。
寝かせて研ぎ終わったあと、最後に包丁をけっこう立てて、ほんの少しだけ研ぎます。
やっていて、ちょっと怖いくらいの角度です。
力は、ほとんど入れません。
包丁の重さだけで、数回、そっと滑らせるイメージです。
こうすると、浅い角度でついた刃の先に、もうひとつ小さな刃ができます。
ピンピンに研いだときより食い込みはすこし落ちますが、切れ味が、ものすごく長持ちするようになります。
角度の目安は、洋包丁なら20度くらいを、両側に。和包丁なら30〜40度で、表の片側だけです。

ただしこれは、仕上げ砥まで使う場合の話です。中砥だけで研いでいるなら、この最後のひと研ぎはやらない方がいいと思います。家庭では、寝かせて研ぐところまでで十分です。
そして、最後の最後。
丸めた新聞紙を、包丁で切ります。
切れ味の確認と、残った細かいバリを取るのを兼ねた、昔ながらのやり方です。
すっと切れたら、完成です。
YouTubeで、答え合わせ
ここまでのやり方は、ぜんぶ自分で考えて、たどり着いたものでした。
だから長いあいだ、これで合っているのか、確かめようがありませんでした。
何年もあとになって、YouTubeで日本包丁研ぎ協会の「ここまで研いで委員会」というチャンネルを見つけました。
研ぎの専門家の、チャンネルです。
見ていて、思いました。
ぼくのやり方は、間違ってなかった。
答え合わせに、ずいぶん時間がかかりました笑
家庭では、ここまでで十分
ここまではお店の話でしたが、家庭では、そんなに構える必要はないと思っています。
やる気に合わせて、3つのコースを用意しました。
どれを選んでも、大丈夫です。
まずはこれだけ(中砥+面直し)
家でやるなら、道具はふたつで十分です。
- 中砥が、1本
- 面直しが、ひとつ

中砥は、迷ったらこれ、という定番です。
使う前に10〜15分、水につけてから研ぎます。やわらかめの砥石で、刃が当たっている感覚がわかりやすい。最初の1本に向いていると思います。
上の写真の、茶色いうちの中砥も、たぶんこれです。
面直しは、中砥とセットで。
やわらかい砥石ほどよく凹むので、この記事で書いてきたとおり、面直しの方が主役かもしれません。
研げたかどうかの確認は、ぼくは爪でやっています。
刃を爪にそっと当てて、引いてみて、動かなければOK。
おかげで、たくさん研いだ日は爪が傷だらけになります笑
研ぐ頻度は、ぼくは店の包丁を週に1回くらい。
家庭なら、トマトで気になったときで十分です。
研ぐのが楽しくなってきたら(仕上げ砥)
もし研ぐのが楽しくなってきたら、仕上げ砥を足してみてください。
切れ味の長持ちが、全然違います。
仕上げ砥まで使うようになったら、さっき書いた「最後のひと研ぎ」もどうぞ。
ここまできたら、もう立派な研ぎ好きです笑
ぜんぶ面倒くさい、という人へ
ここまで読んで、やっぱり面倒くさいなと思った人へ。
最初に出てきた、あのゴリゴリするやつ。
じつは、あれでもいいんです。
プロを目指すぼくには違いましたが、切れない包丁をがまんして使い続けるより、ずっといい。
定番は、京セラのロールシャープナーです。2,000円しないくらいで、水もいりません。
ただし、ひとつだけ約束してください。
たまには、近所のスーパーや金物屋さんでやっている包丁研ぎに、出してあげてください。
シャープナーだけでは戻れないところまで、職人さんの研ぎは、ちゃんと戻してくれます。
ひとつだけ、注意してほしいことがあります。片刃の和包丁の裏側は、まっすぐではなく、じつはすこし凹んでいます(裏スキといいます)。ここを、表と同じように角度をつけて研いでしまうと、研ぎでは、もう挽回できません。仕上げ砥に裏をぴったり平らに当てて、ごく軽くバリを取る「裏押し」という研ぎ方もありますが、守ることはひとつだけ。角度をつけず、平らのまま、ごく軽く。それが守れる自信がないうちは、裏には触らないのがいちばん安全です。シャープナーも両刃用なので、片刃には使えません。和包丁のことは和包丁の記事に書いています。
失敗を恐れないで
最後に、いちばん伝えたいことを。
ぼくは20年研いできて、包丁をダメにしたことは一度もありません。
逆に言えば、研ぎに失敗しても、また研ぎでなんとかできる、ということです。
昔、先輩がものすごく時間をかけて包丁を研いだのに、逆に全然切れなくなってしまって、まわりから顰蹙を買っていたことがありました。
それですら、研ぎ直したら、ちゃんと切れるようになりました。
金属の部分がある限り、大丈夫です(洋包丁なら、ですが)。
ぼくの研ぎも、教わって、しっくりこなくて、振り出しに戻って、自分で考えてたどり着いたものです。
だから、怖がらずに研いでみてください。
トマトが、すっと切れるようになった日。
料理が、すこし楽しくなります。
まとめ
家庭の包丁は、中砥と面直しがあれば十分。
砥石を平らにしてから、研ぐ。
そして研ぎは、失敗しても、やり直せる。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それでは、おやすみなさい。
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この記事を書きながら、頭のなかでずっと流れていた曲があります。
誰も知らない景色を探す旅へと出ようか
そう何度でも 何度でも
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そう思ってんだ 変えていくんだ
きっと出来るんだ
そう何度でも 何度でも僕は生まれ変わって行ける
そしていつか捨ててきた夢の続きを
研ぎに失敗しても、また研ぎ直せば、包丁は生まれ変わる。
包丁だけの話では、ないのかもしれません。




