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こんばんは、ひろしです。

今日は、フライパンの話。

「結局、どの素材がいいの?」

料理をしていると、一度はぶつかる疑問だと思う。

先に、ぼくの結論を書きます。

どれが一番、じゃない。ぜんぶ使う。
用途で、使い分ける。

20年、イタリア料理の現場で、アルミも鉄もステンレスもテフロンも、毎日握ってきました。

その上で「家庭ならこう選ぶ」を、正直に書きます。

プロは、どう使い分けているか

まず、現場の話から。ぼくがそれぞれを、何に、なぜ使ってきたか。

アルミ ―― 煮込みと、パスタの相棒

アルミ鍋は、基本的に煮込み。トマトソース、ミートソース、煮込み系は全般これ。

アルミのフライパンは、焼き物には使いません。出番は、パスタとソースの「合わせ」。

火入れが早くて、軽くて、振りやすい。手数の多い仕事に、いちばん向いている。

トマトソースのキタッラ

トマトソースで和えた、キタッラ。

ステンレス ―― 水もの・出汁もの、そして仕込み

ステンレス鍋は、まず仕込み。ベシャメルソースやカスタードクリームのように、ホイッパーでガシガシ混ぜる仕事です。(アルミ鍋だと、鍋のほうが削れて負けてしまう。)

そして、水ものに強い。パスタの茹で、鶏や魚のブロード(出汁)――水を使うものは、ステンレスがいい。

アルミでやると、黒ずんでくるんです。

しっかりしたステンレスは重いけれど、アルミよりじっくり、鍋全体に火が入っていくイメージ。煮込みや出汁を、落ち着いて炊けます。

ひとつ、大事なコツがあります。ステンレスは「予熱」が命。冷たいまま食材を入れるとくっつくので「くっつく鍋」と誤解されがちですが、ちゃんと予熱すれば、驚くほどくっつきません。

やり方は、こう。

  1. 中火で空焼きして、水を一滴落としてみる。
  2. ジュッとすぐ蒸発するうちは、まだ早い。
  3. 水が玉になってコロコロ転がるようになったら、適温のサインです(ライデンフロスト現象、といいます)。
  4. そこで油を入れて鍋全体に回し、それから食材を入れる。

この「予熱→油→食材」の順番さえ覚えれば、ステンレスはぐっと使いやすくなります。

ひろし

この予熱のひと手間だけで、「くっつく」が「くっつかない」に変わります。だまされたと思って、ぜひ。

鉄 ―― 焼き物と、強火

鉄のフライパンや鍋は、焼き物。肉、魚、揚げ物。とくに強火でガツンと火を入れたいときは、鉄が必須です。

基本、何にでも使える頼もしさがある。

ただし、水を入れて沸かすのは、やめておいたほうがいい(あとあと、手入れが面倒になります)。

使い始めと、ふだんの手入れ。本来の鉄は「空焼き」で被膜を作る儀式が要りますが、リバーライト極のような窒化加工のものは、それが不要(最初からそのまま使えます)。それでも使い始めは、油を多めに「油返し」(油を入れてなじませ、余分を戻す)をひと手間かけると、くっつきにくい。

ふだんの手入れはシンプルです。

  1. 使ったら熱いうちに、お湯とたわしで洗う。
  2. 火にかけて、完全に乾かす。
  3. 薄く油を塗る。

これだけ。洗剤は油の被膜を落とすので、昔ながらの鉄なら避けたいところ(窒化加工のものは使ってもOK)。

水気さえ残さなければ、そうそう錆びません。万一錆びても、磨けば戻る。使うほど油がなじんで黒く育ち、どんどんくっつかなくなる――それが、鉄の面白さです。

鴨むね肉のロースト

鴨むね肉のロースト。皮目を焼いて、脂を引き出す。

テフロン ―― 家庭の主役、現場の脇役

テフロンは、くっつかなくて、とても便利。家庭ではいちばん使うけれど、現場ではいちばん使わない。理由は、耐久性。

魚のソテーやポワレ、ドルチェなど、くっつかせたくない場面で限定的に使うことはあるけれど、基本は「消耗品」として扱っています。

現場での出番は、だいたい アルミ → ステンレス、鉄 → テフロン の順。

でも家庭では、たぶん逆。テフロンが主役で、鉄やステンレスはたまに、になると思う。

どちらが正しいという話じゃなくて、作るものと、量と、回数が違うだけ。

その前に――「体に悪い」のウソ・ホント

素材の話をすると、必ず出てくるのが「○○は体に悪いらしい」。

気にしている人が多いと思うので、調べられる範囲で、事実を整理しておきます。

「アルミは認知症の原因」→ ほぼ、デマ。でも、なぜ広まったのか

アルミの鍋やフライパンが認知症(アルツハイマー)の原因になる、という科学的な根拠は、今のところありません。

ではなぜ、この不安はこれほど広まったのか。出発点は、三つの研究でした。

  • 1965年、ウサギの脳にアルミを注射したら、アルツハイマーに「似た」変化(神経のもつれ)が起きた、という実験。
  • 1973年、亡くなったアルツハイマー患者の脳から、アルミが多く見つかった、という報告。
  • 1989年、水道水のアルミ濃度が高い地域ほど、アルツハイマーが約1.5倍多い、というイギリスの調査(医学誌ランセットに掲載)。

この三つ、特に最後の「水道水」の話が新聞やテレビで大きく取り上げられて、一気に「アルミ=危険」のイメージが広がりました。

身近な鍋やアルミホイルが、あの怖い病気に繋がる——という話は、どうしても人の記憶に残る。「便利なものが、実は体を蝩んでいる」という当時の空気にも、合っていたんだと思う。

でも、その後の研究で、土台が次々と崩れていきました。

  • ウサギの脳にできた「もつれ」は、人間のアルツハイマーのものとは、構造がまるで別物だった。
  • 脳のアルミは「原因」ではなく、病気の「結果」としてたまった可能性が高い。
  • 大規模で精度の高い調査を重ねても、アルミとの関連は確認できなかった。

こうして、今では研究者の多くが、この説を手放しています。WHOやアメリカのFDA、日本の国立長寿医療研究センターも、因果関係は認めていません。

(一部に「やはり関係あるのでは」と考える研究者も残っているので、「絶対に無関係」とは断言しません。でも、ふつうにフライパンを使う範囲で、過度に怖がる必要はない——これが今の主流の見方です。)

ひろし

こういう話、つい気になりますよね。ぼくも一度ちゃんと調べて、ほっとしました。

「アルミが溶け出す」→ 溶けるのは本当。でも、量の話

トマトや酢、梅干しのような酸の強いものを長く煮たり、入れっぱなしにすると、アルミは少し溶け出します。これは本当。

ただ、「溶ける=危険」ではありません。調理器具から摂るアルミは、安全の目安(耐容量)の10分の1ほど。しかも、ぼくたちが摂るアルミの大半は、フライパンじゃなくて、ふくらし粉(ベーキングパウダー)を使ったお菓子やパンの方からなんです。

気をつけるなら、酸の強い料理をアルミ鍋に入れっぱなしにしない。それだけで十分。

(腎臓の弱い方や乳児は前提が違うので、その場合は別の配慮が要ります。)

「テフロンは発がん性がある」→ これも誤解

怖がられているのは、昔コーティングを作るときに使われていた「PFOA」という別の物質です。コーティングそのもの(テフロン本体)とは違う。そのPFOAも、今のフライパンには使われていません(国内では2021年に原則禁止)。新品を普通に使う分には、問題視されていません。

ただ、ひとつだけ本当の注意点。

空焚き(からだき)だけは、絶対にしないこと。
油も食材も入れずに強火にかけると、軽いフライパンは数分で危険な温度(350℃前後)に達して、有害なガスが出ます。食材が入っていれば200℃以下に収まるので、ふつうの料理は大丈夫。「予熱しすぎ」「空焚き」だけ、気をつければいい。
(鳥を飼っている家は特に注意。インコなどは、このガスにとても弱いです。)

「鉄で鉄分が摂れる」→ ちょっとだけ、本当

鉄のフライパンで料理すると、鉄が少し溶け出すのは事実です。特に、酸のあるものを長く煮込むと多くなる。

ただし、摂れる量は「おまけ」くらい。レバーや赤身肉のような鉄分源とは、桁が違います。

(それと、溶け出すのは「非ヘム鉄」。「ヘム鉄が摂れる」と書いてあるサイトもありますが、それは間違いです。)

鉄分のために、と気合を入れるより――長く使えて、コーティングが剥がれる心配がない。そっちが、鉄の本当の魅力だと思う。

素材4種、ざっくり比較

素材 強み 弱み 得意なこと
アルミ 軽い・火が速い 酸に弱い・素のままはIH不可 煮込み・ソース・パスタの合わせ
ステンレス 錆びない・一生もの・万能 重い・予熱にコツ 仕込み・パスタ茹で・煮込み
高温に強い・育つ・一生もの 手入れ必須・酸や卵が苦手 揚げ物・ステーキ・炒め物
テフロン くっつかない・軽い・安い 寿命1〜3年・空焚き厳禁 卵・繊細な食材

熱源で、火の入り方は変わる

素材の話をしたら、もうひとつ。あまり語られないけれど、同じフライパンでも、何の火で熱するかで、火の入り方はまるで違います。

これは正直、感覚でしか言えない部分もあります。だから、ぼくのイメージに、調べられる範囲の理屈を添えて書きます。基準は、使い慣れたガス火。

薪と炭で熾した炉のグリルの火床
薪から熾した、炭火のグリル。

炭火は、ガス火よりも「中に入っていく」イメージ。同じくらいの火力で、同じくらい表面を焼いても、炭火のほうが中心まで温まっている気がする。

――これはたぶん、遠赤外線(輻射熱)の働きです。炭は強い赤外線を出していて、その熱が食材の表面に、ムラなく・力強く届く。赤外線そのものが中まで深く染み込むわけではないけれど、表面が一気に・均一に焼けるぶん、結果として「中までしっかり火が入った」仕上がりになりやすい。ただ、火加減はとても難しい。

燃え上がる薪の炎
燃え上がる、薪の炎。

薪火は、ガス火と炭火の中間。

ガス火は、火が見えているところしか熱源がない。でも薪は、炎が出ていなくても、赤くなっているところ(熾火)がぜんぶ熱源になる。その全体から熱が来るので、まるごと包んで火が入っていくイメージです。

ガス火は、いちばん扱い慣れている。炎が当たるところが主な熱源で、火加減を目で見て、すぐに調整できる。フライパンを振る・傾ける料理とも相性がいい。

IHは、ぼくにとってほぼ未知数。「湯が沸くのが早いな」くらいのイメージしかありませんでした。

これには理由があって、IHは火で鍋を温めるのではなく、磁力で鍋そのものを発熱させる仕組み(誘導加熱)。だから効率がよくて、お湯が早く沸く。

逆に言うと、熱源は「鍋の底」だけ。炎のように、まわりや側面をあぶる熱がありません。だから――

  • 沸く予兆がなく、急に沸く(鍋が直接、効率よく発熱するから)
  • フライパンを斜めに傾けて、ふちで火を入れる――あれができない(底が離れると、熱が来ない)
  • フランベができない(そもそも炎がない)

たとえば、イタリアンの基本中の基本「アーリオ・エ・オーリオ」。オリーブオイルに刻んだニンニクを入れて、鍋を傾け、ふちの油だまりでニンニクを泳がせながら弱火で香りを移していく――あの火入れが、IHだと鍋を傾けた瞬間に底が離れて熱が止まり、できないんです。

ちなみに、初めてIHのお宅へケータリングに行ったとき。「ティファールの鍋なら大丈夫だろう」と持っていったら――まったく使えませんでした。結局、その家の鍋を借りて料理した(笑)。

※IHは、底が磁石につく素材の鍋でないと反応しません。だから「IH対応」と書かれていないと、使えないんです。

どれが優れているという話じゃなくて、それぞれ別物。本当は、熱源によっても、道具と火の入れ方を変えるのが理想なんだと思います。

ひろし

火の話は、語り出すと止まらなくて(笑)。家庭ならガスかIH、そこだけ押さえれば大丈夫です。

家庭なら、どう選ぶか

ここまで現場の話をしてきたけれど、家庭は前提が違う。毎日大量に作るわけじゃないし、手入れの時間も限られる。

だから、ぼくの現実的なおすすめはこうです。

普段使いに、テフロンを1枚。焼き物用に、鉄を1枚。

この2枚があれば、家庭の料理はほぼ回ります。

テフロンは消耗品(1〜3年)と割り切る。くっつかず、軽くて、ラク。

鉄は、ステーキや餃子を香ばしく焼きたいとき。育てれば一生もの。

もう一歩こだわるなら、ステンレスの多層鍋を1つ。コーティングの寿命を気にせず、煮込みもソースも焼きもこなせて、ずっと使える。重さと予熱のコツは要るけれど、本命になり得る一本です。

パスタやソースを、店みたいに作りたい人は、アルミ。軽くて、火に俊敏。ただしガス火向き。

そして――IHの家は、必ず「IH対応」を選ぶこと。ぼくみたいに、現場で恥をかかないように(笑)。

おすすめのフライパン

ここまで読んでくれた人へ。現場の感覚で「これなら」と思うものを、素材ごとに置いておきます。くり返しになりますが、優劣ではなく、用途です。

迷ったら、まずこの2枚

テフロン|ティファール インジニオ・ネオ IH(取っ手の取れる6点セット)

毎日の卵焼き、炒めもの、魚。くっついてほしくないものは、これ一枚で十分です。取っ手が取れるので、収納も楽。IHの家は、この「IH対応」モデルを選ぶこと。

鉄|リバーライト 極JAPAN 26cm

焼き物がうまくなりたいなら、鉄を一枚。最初の面倒な油ならしも要らず、錆びにくい加工なので、初心者でも扱いやすい。育てれば、一生ものです。

一生ものを1つ:ステンレス多層

ステンレス|ジオ・プロダクト ソテーパン 25cm

コーティングがないから、剥がれる心配も、削れる心配もない。蓄熱がよくて、煮る・焼く・炒めるを一枚でこなす万能選手です。ひとつだけ一生ものを、と言われたら、ぼくはこれ。

パスタ好きに:茹でる深鍋と、ソースのアルミ

ステンレス(深鍋)|ジオ・プロダクト ポトフ鍋 22cm

パスタを茹でる、出汁をひく、ブロードを取る。水ものはステンレスがいい(アルミだと、だんだん黒ずんでくる)。深さがあるぶん、茹でものがぐっと楽になります。

アルミ|遠藤商事 TKG 鋳造アルミ フライパン 27cm(IH対応)

アルミは熱の回りが速くて、ソースの煮詰まり具合が色で見える。現場で使う薄くて軽いアルミはIHでは使えないけれど、この鋳造アルミなら、IHでもプロの感覚に近づけます。パスタのソース合わせに。

※どの素材も、IHの家は「IH対応」の表記を必ず確認してください。

まとめ

フライパンに、唯一の正解はない。あるのは、「自分が何を、どう作りたいか」。そこから選べば、迷わない。

素材の優劣じゃなく、用途。これは、包丁のときも、パスタのときも、同じでした。

道具は、目的から選ぶ。

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ハナレグミの「家族の風景」が昔から好きです。フライパンのことを考えると、いつもこの“フライパンマザー”を思い出します。永積さんにしか書けない、とても素敵な歌詞だと思います。

キッチンにはハイライトとウイスキーグラス

どこにでもあるような家族の風景

7時には帰っておいでとフライパンマザー

どこにでもあるような

家族の風景