【ブロンズダイスか、テフロンダイスか】料理人が店で本当に使ってきた乾麺パスタ
こんばんは、ひろしです。
今日は、乾麺パスタの話。
ぼくは20年、イタリア料理の現場でパスタを作り続けてきました。
正直に言うと——使ってきた銘柄は、時期によって、ずいぶん変わってきました。
「これが正解」という一本が、ずっとあったわけじゃない。
だから今日は、ランキングというより、ぼくが現場で使い分けてきた話として、書きます。

ぼくが使ってきた、乾麺パスタの変遷

最初は、ディ・チェコ。
次に、バリラ。
そして、グランフィーロ。モリサーナ。
最近は、モンスーロをよく使っています。
ここぞ、というときは、タンマ。
もっと特別な日には、ミナルドのアネレッティ。
なぜ、こんなに変わってきたのか。
それは「ブロンズダイスか、テフロンダイスか」という、麺の作り方の違いと関わっています。
そもそも、何が違うのか ― ブロンズダイス と テフロンダイス

乾麺パスタは、生地を「ダイス」という型から押し出して作ります。
この型が、銅(ブロンズ)か、テフロンか。それで、麺の表面がまるで変わる。
ブロンズダイスの麺は、表面がザラザラしています。
だから、ソースが絡みやすい。
テフロンダイスの麺は、表面がツルツル。
だから、つるっとした、いい食感が出る。
ぼくの使ってきたものでいうと——
ディ・チェコはブロンズ。バリラはテフロン。グランフィーロもテフロン。
モリサーナは両方(種類による)。モンスーロはブロンズ。
※各社、商品によってどちらもあります。
ここで、勘違いされがちなこと。
「ソースが絡む方が、いいに決まってる」と思いますよね。
——でも、違うんです。
大事なのは、ソースとの相性。そして、好み。
絡めばいい、というものじゃない。
自分が、その一皿で、どんな絡み方を目指すのか。それで変わる。
だから、ぼくも使い分けてきたし、時期によっても変わってきました。

家庭で買うなら、この乾麺パスタ
とはいえ、家庭で何本も常備するのは、現実的じゃない。
「まず一本」を選ぶなら、という目線で、ぼくが本当に使ってきた中からおすすめします。
迷ったら:ディ・チェコ No.11(1.6mm)
ぼくが、最初に使った一本。
1.6mm——正確には、スパゲッティーニ(スパゲッティより、少し細い)。
この太さが、日本人にはいちばんしっくりくると思う。
ブロンズダイスの、世界標準。どこでも手に入る。迷ったら、これ。
本格派なのに、買いやすい:モンスーロ
ナポリのパスタ。ブロンズダイスで、低温でじっくり乾燥させている。
本格的なのに、カルディなんかで気軽に買える。最近のぼくの定番です。
しっかりコシ:モリサーナ
中価格で、コシがしっかり。種類によって、ブロンズもテフロンもあります。
ちょっといい日に:タンマ
プーリアの、1907年から続く老舗。
表面がザラついて、もちっと強いコシ。特別な一皿に。
どこでも買える、安心の定番:バリラとガロファロ
「いちばん手に入りやすいのは?」と聞かれたら、バリラ。
スーパーでも、たいてい置いてある。テフロンダイスの、つるりとした優等生です。
もう少し、いいものを。という日は、ガロファロ。
グラニャーノのIGP——本場の名産地の名前を背負った、ブロンズの一本です。
そして、ぼくの「特別な日」のパスタ ― ミナルドのアネレッティ
これは、買いやすさで選ぶ一本じゃありません。
シチリアのミナルドという作り手が、古代小麦と、ミネラルウォーターだけで作り上げるパスタ。
(アネレッティは、小さな輪っかの形。シチリアの郷土料理に使う麺です。)
日本に輸入しているのは、ぼくの友人の、ルーチョ。
人気で、入荷も少なくて、なかなか手に入らない。
でも、香りが、最高なんです。
ちなみに——同じ店のオリーブオイルも、ぼくは愛用しています。
これがまた、最高。香りが、ぜんぜん違う。
本当は、ソースで麺を変えるべき

ここまで「太さ」の話をしてきたけど、本当のことを言うと——
パスタは、合わせるソースで、形ごと変えるべきなんです。
現場では、こう使い分けます。
| 料理 | 合わせる麺 |
|---|---|
| アマトリチャーナ | ブカティーニ(穴あきの太麺) |
| グリーチャ | リガトーニ(太い筒) |
| ペスカトーレ | リングイネ(楕円の断面) |
| 冷製パスタ | カッペリーニ(極細) |
ソースの濃さ、絡み、食感。それぞれに、いちばん合う形がある。
でも——家庭で、料理ごとに何種類も常備するのは、現実的じゃないですよね。
だから、家庭で選ぶなら、食べやすい1.6mm か 1.8mm を基本に。
たまに「今日はペスカトーレだから、リングイネ」と一本足す。
そのくらいが、ちょうどいいと思います。
「パスタ料理は、パスタを食べるものだからね」
これは、修行時代の話。
あるイタリア人に、こう言われた。
「パスタ料理は、パスタを食べるものだからね」
最初は、意味がよく分からなかった。当たり前じゃないか、と。
でも、たぶん認識の違いだった。
ぼくはどこかで、ソースは少し多めに——と思い込んでいた。たぶん、日本人っぽい感覚で。
向こうの正解は、こうだ。
パスタを食べ終えたとき、ソースもちょうど、なくなっているくらい。
皿にソースが残らない。麺が、ソースを着ているだけ。
主役は、あくまでパスタ。ソースは、それを引き立てるもの。
今回の写真を見返していて、思い出した。
本場で撮った一皿は、どれも、皿の上でソースが泳いでいない。
たぶん、あの一言は、こういうことだったんだと思う。
どんな高級パスタも台無しにする「茹で方」の話

最後に、いちばん大事な話を。
よく「アルデンテは、表示時間より●分早く上げる」と言われます。
——でも、本当は、違うんです。
何分早く、なんて決まりはない。
どんなソースと、どう合わせるか。そのとき、どれだけ火を入れるか。それで、全然変わる。
たとえばカルボナーラなら、早めに上げる。
ソースと和えるときに、まだ火が入っていくから。
アルデンテは、時間じゃない。仕上がりから、逆算するもの。
塩は、どのくらい?
通説では、「湯の1%」と言われます。
湯2リットルに、塩20グラム。
正直に言うと、ぼくには、少し少なく感じます。
ぼくは、たぶん1.5%か、もう少し濃いくらい。2%近いかもしれない。
(いつも量ってるわけじゃなくて、味で確かめているので、正確じゃないけれど。)
茹で汁の塩には、二つの意味があります。
ひとつは、塩味。
もうひとつは、食感。
(食感は、本当は水の硬さ——硬水か軟水か——の方が関わると思っていますが、日本の家庭の水なら、そこは気にしなくていい。)
濃いほうが、食感にメリハリが出る。
でも、その分、ソースの塩分も計算しないといけない。
乳化のために足す茹で汁の塩も含めて、ぜんぶで調整する。だから、少し難しい。
家庭でなら、1%が、ちょうどいいのかもしれません。
ぼくは、食感と塩味のバランスを取って、少し濃いめにしています。
修行時代に、よく言われた言葉があります。
「塩味は、足すことはできても、引くことはできない」
濃すぎたら、もう、戻せない。
だから、最初は控えめに。味を見ながら、決めていく。
これは、パスタだけじゃなく、料理ぜんぶに通じる話です。
まとめ
プロでも、使う銘柄は変わる。唯一の正解はない。
ブロンズか、テフロンか。優劣じゃなく、ソースとの相性で選ぶ。
家庭なら、ディ・チェコや、モンスーロを基本に。
そして、茹で方。アルデンテは時間じゃない。塩は、引けない。
道具も、食材も、結局は「自分が、どうしたいか」。
そこから選ぶと、失敗しません。
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今日の1曲
今日の1曲は、『炎のたからもの』。
ルパン三世『カリオストロの城』の——あの、ルパンと次元が、山盛りのスパゲッティを奪い合うように頬張る、あの場面の歌です。
ぼくが「パスタって、こんなに旨そうなものなのか」と最初に思ったのは、たぶん、あのシーンだった。
何の変哲もない、ミートボールのスパゲッティ。それが、世界でいちばんおいしそうに見える。
銘柄だ、ダイスだ、塩分だと——さんざん理屈を書いておいてなんだけど。
いちばん旨いパスタは、案外、ああいう一皿なのかもしれません。
誰かと、笑いながら、奪い合うように食べる。
たぶん、それが、いちばんのレシピです。
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