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こんばんは、ひろしです。

今日は、パスタ鍋の話をします。

家庭に、パスタ専用の鍋って必要ですか? と聞かれることがあります。

結論から言うと、ほとんどの家庭では、なくても困りません。

僕は自宅で、パスタ専用の鍋を一度も買ったことがありません。イタリアンの料理人を20年やってきて、です。

ただ、先に言っておきます。

これは「パスタ鍋はダメ」という話ではありません。毎日茹でる人には、便利な道具です。気に入った鍋を長く使うのも、いいことです。

必要かどうかは、その人の料理のスタイルで決まる。

その話を、順番にしていきます。

― 先に、結論だけ ―

家庭にパスタ専用の鍋は、なくても大丈夫。買うなら、パスタにも使える大きめのステンレス鍋をひとつ。

→ おすすめの鍋と、その理由はこの先で

店では、茹で麺器を使っていた

働いてきた店には、基本的に業務用の茹で麺器がありました。パスタボイラーと呼ばれるものです。

お湯が常に沸いていて、てぼに麺を入れて沈めるだけ。何人前でも、次々に茹でられる。

レストランは営業中、何度も何度も茹でます。だからこの道具は、圧倒的に便利でした。

ワイナリーの厨房で、縦長の鍋を買った

ワイナリーの専属シェフをしていたころ、その厨房には茹で麺器がありませんでした。

コンロは5口。手前に大きい火口が3つ、奥に小さい火口が2つ。

ここでパスタ用の大鍋を手前に置くと、大きい火口がひとつ、ずっと潰れます。ほかの調理がやりづらくなる。

それで、買い足したのが縦長のステンレス鍋でした。奥の小さい火口に、ちょうど置けるサイズです。そこに入る縦長の水切りも、一緒に用意しました。

毎朝厨房に入ったら、まずその鍋に水を張って、湯を沸かすところから仕事が始まる。パスタだけでなく、野菜のボイルにも使っていました。

ここで大事なのは、順番です。

縦長の鍋が優れていたから買ったのではありません。あの厨房のコンロの配置と、仕事の量に対して、あの形が合理的だったから買ったんです。

道具は、置かれた場所で選ぶものだと思います。

でも、自宅では一度も買っていない

そんな僕ですが、自宅にパスタ専用の鍋はありません。一度も買ったことがない。

必要性を、感じないからです。

少し大きめの鍋で、普通に茹でています。

手順は、これだけです。

  1. 大きめの鍋に、たっぷりの湯を沸かす
  2. 塩を入れる
  3. スパゲッティを入れる

「いや、その3番が問題なんだ」という声が聞こえてきそうです。

長い乾麺が、鍋に入りきらない。はみ出した部分が折れそうになる。だから縦長の鍋が要るんじゃないか、と。

そこで、次の話です。

普通の鍋で、スパゲッティをきれいに入れる方法

店でも家でも、僕はこうやって入れています。

  1. 乾麺を束のまま、両手で持つ
  2. 上と下を、軽く反対方向にひねる(雑巾を軽く絞る感じです)
  3. そのまま、鍋の中央に立てる
  4. 上側の手を、離す

すると麺が、円を描くようにパラパラと広がります。

湯に浸かった部分から柔らかくなっていくので、あとは順に沈めていくだけ。

実演してくれたのは、5歳の次男です。この日が、初めてでした。

ひねって、立てて、離す。初めてでも、この通りです

ひねってあるおかげで、麺が一方向に倒れず、鍋のふちに沿ってきれいに散る。くっつきにくくもなります。

「長いパスタが入る縦長の鍋でないと茹でられない」ということは、ないんです。

茹で上がったら、家庭ならシンクにザルを置いて、鍋ごとジャーッとあけて大丈夫です。

ソースの仕上げに茹で湯を使いたいときは、あける前に、必要な分だけお玉で取っておいてください。

ひろし

この入れ方、お店の大鍋でも同じです。特別な道具より、ちょっとした手つきのほうが効くことって、料理には結構あります。

どの鍋で茹でるにしても、大事なこと

ここまで鍋の話をしてきましたが、実は、どの鍋を使っても変わらない基本があります。

むしろ、こちらのほうが仕上がりを決めます。4つだけ、書いておきます。

湯は、たっぷり

麺の量に対して、湯はたっぷり。

目安は簡単です。鍋に入るギリギリくらいまで沸かすので、ちょうどいい。それくらいの気持ちで大丈夫です。

湯に余裕があるほうが、麺がゆったり泳げます。

塩は、目安1パーセント

湯2リットルなら、塩20グラム。

僕はもう少し濃いめにしますが、家庭なら1パーセントで、ちょうどいいと思います。

塩とアルデンテの話は、乾麺の記事の後半に詳しく書きました。

塩とアルデンテの話も、この中に【ブロンズダイスか、テフロンダイスか】料理人が店で本当に使ってきた乾麺パスタ

火加減は、微笑むくらい

イタリア人が、よく言います。

パスタは、微笑むように茹でる。

グラグラと煮立てたまま茹でない、ということです。表面がポコポコと沸くくらいの火加減を、キープする。

強火でグラグラやっても、湯の温度は同じ100度です。早く茹だるわけではありません。

変わるのは、麺の扱われ方のほうです。激しく沸かすと、麺同士や鍋にぶつかって、表面が傷つく。表面のデンプンが削れて湯がにごって、麺のハリと、つるっとした口当たりが失われていきます。

微笑むくらいの湯が、麺にはいちばん穏やかな場所です。

グラグラ煮立った鍋とポコポコの鍋の断面比較。温度はどちらも100度

そして、混ぜること

これ、やっていない人が結構いると思います。でも、めちゃくちゃ大事です。

特に、茹で始め。ひねって入れても、混ぜなければ、くっつきます。

最初にくっついた麺は、剥がすのが大変です。しかも、くっついたところは湯が入りにくくて、そこだけ固く仕上がってしまう。

だから、最初は頻繁に。麺が泳ぎ出したら、だんだん回数を減らしていく。

僕はトングで混ぜますが、菜箸でも問題ありません。道具は、何でもいいんです。大事なのは、くっつく前に、麺をほぐすこと。

混ぜなかった鍋とほぐした鍋の断面比較。くっついた所には湯が入らない

家庭なら、大きめの鍋がいちばんだと思う理由

パスタ専用鍋を家庭におすすめしない理由は、シンプルです。

用途が、限定されすぎるから。

一般の家庭は、毎日パスタを作るわけではありません。週に1回か2回、という家が多いと思います。

それなら「パスタにも使える、大きめの鍋」をひとつ持つほうが、ずっと便利です。

  • パスタを茹でる
  • カレーを作る
  • 肉じゃがを作る
  • 煮込み料理をする
  • 野菜をまとめて茹でる

ぜんぶ、同じ鍋でできます。

専用の鍋にお金を使うより、出番の多い大きめの鍋に、少しいいものを選ぶ。そのほうが合理的だと僕は思います。

毎日パスタを作る人なら、専用鍋もアリ

逆に言うと、毎日のようにパスタを茹でる人には、専用鍋は便利です。

中に水切りかごが付いているタイプなら、湯を切る動作がひとつ減ります。麺をよく茹でる家庭なら、その一手間の差は毎日効いてくる。

ワイナリーの僕が縦長鍋を買ったのと、同じ理屈です。使う回数が多いなら、専用の道具は仕事をしてくれます。

必要かどうかを決めるのは、道具の性能ではなくて、あなたの台所の事情です。

選ぶなら、この記事で紹介している鍋と同じ、ジオのパスタポットがあります。中に湯切りのかごが付いたタイプで、つくりも保証も、深鍋と同じです。

買うなら、パスタにも使える大きめのステンレス鍋

それで「大きめの鍋って、どれがいいの?」という話になります。

僕のおすすめは、ステンレスの多層鍋です。

アルミにもいいところはあります。軽くて、熱の反応が早い。でも、パスタも、カレーも、煮込みも、と幅広く使うなら、保温力があって丈夫なステンレスの大きめが使いやすい。

素材ごとの特徴は、フライパンの記事で詳しく書きました。考え方は鍋も同じです。

素材の話はこちらフライパンの選び方|料理人が現場で使い分けてきた、アルミ・鉄・ステンレス・テフロン

銘柄でいうと、フライパンの記事でも紹介した、宮崎製作所のジオ・プロダクト。その深鍋です。

日本製の7層構造で、保証が15年ついています。鍋は頻繁に買い替えるものではないので、その時点で自分に合ったいいものを買って、長く使う。高ければいいという意味ではなくて、長く付き合えるものを、という意味です。

家族が多いなど、もうひと回り大きいほうが良ければ、同じジオの両手鍋25cm。湯を多く張れるぶん、麺がゆったり泳ぎます。

道具にこだわることと、道具に依存することは、別

最後に、この記事でいちばん書きたかったことを書きます。

僕は、道具にこだわりがないわけではありません。

包丁は気に入ったものを使っていて、ケータリングにも必ず持って行きます。研いで、手入れをして、長く使っています。

でも、「この道具がなかったら仕事ができない」という料理人には、なりたくないんです。

このフライパンじゃないと、肉が焼けない。

この鍋じゃないと、料理できない。

それは、こだわりではなくて、依存だと思います。

道具にこだわることと、道具に依存することは、別。

料理人として大切なのは、その場にある道具を、どう使うかです。

好きな道具は、あっていい。でも、それが無い状況でも、手元にあるものの特徴を理解して料理できること。そちらのほうが、ずっと大事だと思っています。

スパゲッティをひねって鍋に立てるのも、その小さなひとつです。縦長の鍋が無くても、手の使い方ひとつで、同じことができる。

この記事で紹介したもの

この記事に出てきたものを、まとめておきます。

押すと、その説明のところまで戻ります。買うところではなく、まず説明を読んでもらえたらうれしいです。

まとめ

家庭に、パスタ専用の鍋は必要か。

ほとんどの家庭では、なくても大丈夫です。

必要なのは「パスタ鍋」ではなくて、自分の用途に合った鍋。

毎日茹でるなら、専用鍋が働いてくれます。週に何度かなら、大きめのステンレス鍋がひとつあれば、パスタも、カレーも、煮込みも、ぜんぶ引き受けてくれます。

道具に優劣はありません。あるのは、置かれた場所との相性だけです。

今日の1曲

今日の一曲は、ウルフルズの「ええねん」

この記事の結論を大阪弁にすると、こうなると思ったからです。

鍋は、なんでもええねん。

道具に優劣はなくて、あるのは置かれた場所との相性だけ。うまくいってもいかなくても、まず手を動かしてみたらいい。あの歌は、そういう肯定を、ずっと歌ってくれている気がします。

僕は大阪の生まれです。この言葉のやわらかさは、体で知っています。

後悔してもええねん
また始めたら ええねん
失敗しても ええねん
もう一回やったら ええねん
前を向いたら ええねん
胸をはったら ええねん
それでええねん それで

ウルフルズ「ええねん」(作詞・作曲 トータス松本)より

本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それでは、おやすみなさい。