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コーヒーの話の、第8回です。

先日、出雲の古民家で、お月見の会の料理をつくりました。コースの最後は、デミタス。その豆を買ったのが、今日の店です。

ストリングス コーヒー ロースターズ(STRINGS COFFEE ROASTERS)。出雲の住宅地にある、小さな焙煎所です。ロゴも、かっこいい。

クラフト紙の豆の袋に押された、STRINGS COFFEE ROASTERS のロゴ。IIJIMA CF.CO.、2007、IZUMO JAPAN の文字
豆の袋に押された、ストリングスのロゴ。

僕はここに、十年通っています。いまのところ、ここがいちばん。自分に合っている、と思える店です。

今日は、その店と、店主の飯島さんの話です。

― この記事について ―

途中の「寄り道」は、たたんであります。気になったところだけ、開いてみてください。

ストリングス コーヒー ロースターズの店の前に停めた、白いフィアット500
店の前。前の愛車のフィアット500と。2021年3月。

妻が、教えてくれた店

島根に来たのは、2016年の1月でした。

その年の、夏の手前だったと思います。出会って間もなかった妻が、出雲のおすすめの店を、一緒に回って教えてくれました。そのなかの一軒が、ストリングスでした。

一畑電車の川跡駅から、歩いて2分。住宅地のなかに、その店はあります。

ガレージの、焙煎所

ご自宅のガレージを改装した店です。

5、6人も入れば、いっぱいです。基本は、豆を焼いて、売る店です。平日だけ、店の中でコーヒーを飲むことができます。

これが、いいんです。豆を選びながら、店の人とゆっくり話せる。

飯島さんは、民芸に造詣が深い人です。試飲で出てくるカップは、ひとつひとつ、焼かれた土地が違う。島根の出西窯や湯町窯、森山窯のうつわもあります。椅子も、民芸のものです。島根は、民芸がさかんな土地でもあります。

豆のショーケースのあるカウンター越しに笑う、店主の飯島さん。奥に手書きの黒板メニュー
カウンター越しの飯島さん。2024年4月。

店には、小さなアップライトピアノもあります。昔はなかったのに、いつの間にか置いてありました。ボールドウィンの、すごくコンパクトで、かわいいピアノです。譜面台には、ストリングスのロゴの札。

うちの子どもたちは、行くといつも、何かを弾いて帰ります。

小さなアップライトピアノを弾く子どもの後ろ姿。譜面台に STRINGS COFFEE ROASTERS のロゴの札
譜面台に、ストリングスのロゴ。2025年7月。
並んで、何かを弾いていた日。2024年3月。音を出すと、ピアノが聞こえます。

最初の日、マデリン・ペルーが流れていた

はじめて入った日のことは、よく覚えています。店に流れていたのが、マデリン・ペルーでした。

ノラ・ジョーンズのような、ジャズの、女性の声。流れてくる音楽が、どれも、僕の好みのど真ん中でした。

マデリン・ペルーの『Half the Perfect World』というアルバムに、トランペットが入っている曲があります。店で流れていたそのアドリブが、どう聴いても、ティル・ブレナーにしか思えなかった。調べたら、本当にそうでした。そういう、小さな答え合わせをした店でもあります。

スピーカーの話もあります。店のスピーカーは、小さいのに、いい音がする。聞いてみたら、「自分で作った」と。音楽之友社のムックの付録になっている、スピーカーのキットでした。僕も、同じシリーズのキットを買って、作りました。

自作した小さなスピーカー。MDFの箱に黒いフレームのマークオーディオのユニットがついている
同じシリーズのキットで作った、僕のスピーカー。

小さいのに、ほんとうに音がいい。いいものを、教えてもらいました。飯島さん、ありがとうございます。

寄り道スピーカーのキット、いまから作るなら?タップで開きます

飯島さんが作ったのは、前の版。僕が作ったのは、そこから少し進化した2020年版です。どちらも、もう売っていません。

音楽之友社のムック「これならできる特選スピーカーユニット 2020年版 マークオーディオ編」の表紙。付録は6cmフルレンジのOM-MF4
ユニットが付録になっていたムック。箱のキットも、同じシリーズでした。

シリーズは、そのあとも少しずつ進化していて、同じマークオーディオの6センチのユニットと、それに合う箱のキットは、2022年版がいまも買えます。

本は、二冊で一組です。一冊目は、ユニット(スピーカーそのもの)が付録の本。二冊目は、そのユニットに合わせて設計された、箱のキットが付録の本。どちらも二台分が入っているので、二冊そろえると、ステレオの一組になります。

二冊あわせて、定価で1万6,775円(税込み・2026年9月)。左右ひと組のスピーカーとしては、めちゃくちゃ安い。この値段でスピーカーを買うなら、僕は、これを買って作るほうをすすめます。安くて、音がよくて、小さい。三拍子そろっています。

いまは、Macにつないだオーディオインターフェイスから、この一組を鳴らしています。CDとMDとレコードは、前に書いたONKYOのほう。使い分けています。

機関車みたいな、ギーセン

奥に、焙煎機があります。ギーセン。オランダの焙煎機です。

艶消しの、真っ黒な鉄のかたまり。はじめて見たとき、めちゃくちゃかっこいい、と思いました。

ひろし

機関車やん。

僕はずっと、ドイツの機械だと思い込んでいました。この記事を書くのに調べたら、オランダでした。ただ、2006年までは、ドイツの焙煎機メーカー、プロバットの組み立てや整備を請け負う工場だったそうです。ドイツと思い込んでいたのも、まるっきり外れではなかったのかもしれません。

レンガの壁の前に置かれた、艶消しの黒のギーセンの焙煎機。飯島さんと、見上げる子どもたちの後ろ姿
奥に置かれた、ギーセンの焙煎機。2024年4月。

ちゃんと、焼き切っている

豆の話をします。

はじめて飲んだとき、素直に、おいしいと思いました。ここの豆は、ちゃんと焼き切っている。そう感じた。

焼き切っている、というのは、深煎りという意味ではありません。浅煎りか深煎りか、ではなくて、豆の中心まで火が通っているかどうか。その話です。

富山で手網焙煎を教わったとき、火から離して、時間をかけて中まで火を入れた豆は、浅く焼いてもおいしかった。浅煎りのおいしさを知ったのは、そのときです。第7回に書きました。

ストリングスに通いはじめたころ、浅煎りが流行りはじめていました。そのころ飲んだ浅煎りには、こんなふうに焼いたのかな、と感じる豆も少なくなかった。強めの火で、短い時間で焼く。中まで火が入りきる前に、止める。そのうち、そういう豆と一緒に、ある淹れ方をよく見かけるようになりました。ペーパーを濡らして、最初からお湯をたっぷり入れて、いいところだけをさっと引き出す。そういう淹れ方があるのは知っていますし、否定するつもりもありません。ただ、僕はあまり好きではなかった。

ストリングスの豆は、中心まで、ちゃんと火が入っていた。浅煎りでも、深煎りでも、それは変わらない。浅煎りが流行っていたころに、それがうれしかった。

よく買うのは、グアテマラと、ブラジル。最初は、飯島さんのおすすめか、深煎りを買っていました。だんだん、中煎りも買うようになりました。いまも、深煎りが中心です。

ブラジルは、僕の定番です。袋に手書きで、「サンアントニオ プレミアムショコラ」。安心する味です。

「Brazil サンアントニオ プレミアムショコラ」と手書きされた、クラフト紙のコーヒー豆の袋
手書きの袋。ブラジル、サンアントニオ、プレミアムショコラ。2021年6月。
店の手書きの値札。Brazil、100g 680円、200g 1,300円
店の値札。これも手書き。2021年5月。

ゲイシャの、値段

飯島さんの人柄がわかる話を、ひとつ。

ゲイシャという、高い豆があります。あるとき、そのゲイシャが、ふだんより安く並んでいました。

「生豆を、特別に安く仕入れられたから、安く売ってる」

飯島さんは、そう言いました。

ひろし

言わんかったら、普通に高く売れるのに。正直な人だなぁ。

飯島さんらしいな、と思いました。

元バンドマンの、飯島さん

飯島さんは、僕より少し年上です。知り合ってからずっと、ロン毛に帽子でした。それも素敵だったのですが、少し前に、バッサリ切った。すっきりして、印象が変わりました。もともと、男前の人です。

すごく、いい人です。僕は大好きです。うちの子どもたちは、「イイジマン」と呼んでいます。

もとは、プロのミュージシャンでした。作詞も作曲もして、ギターを弾いて歌う人です。

東京で、事務所に入っていたころの話を、聞いたことがあります。バンドのリーダーでした。事務所から最初に、まとまったお金をもらった。それで買ったのが、フェンダーのテレキャスター。

活動のお金は毎月入っていた。それでも足りなくて、バイトもしていた。

契約を解くとき、そのテレキャスターは、事務所に返した。お金がなかったから、仕方がなかった。それでも、手放したことを、いまも後悔していると言います。「非常にいいギターだった」と。

やがてバンドの活動をやめて、福岡へ移った。そのあと、出雲へ戻ってきた。

いまも地元で、「トスカペレカ」というバンドをやっています。検索しても何も出てこない言葉だから、この名前にした。そう聞きました。

2023年の秋、出雲大社のそばの芝生に組まれたステージで、トスカペレカのライブを観ました。ステージで歌う飯島さんを観たのは、そのときがはじめてでした。

この日の写真は、僕と次男で撮りました。次男は、まだ2歳でした。重たいはずの大きなカメラに大きなレンズをつけて、ファインダーをのぞいて、一生懸命でした。そうまでして、イイジマンのかっこいいところを、撮っておきたかったんだと思います。動画は、長男が全部撮ってくれました。

大きな望遠レンズのついたカメラのファインダーをのぞく、子どもの横顔のアップ
ファインダーをのぞく次男。2023年11月。
青い幕の屋外ステージで演奏するトスカペレカの3人。ギターを弾いて歌う飯島さん、ドラム、花飾りの衣装のベース
トスカペレカ。ご縁つながるフェスタ2023のステージで。2023年11月。
ライブの20秒。長男が撮りました。音を出すと、歌が聞こえます。2023年11月。

トスカペレカの曲は、Apple MusicやYouTubeで聴けます。

飯島さんが歌う、岡林信康さんの「君に捧げるラブ・ソング」が、YouTubeにあります。この雰囲気が、すごく好きです。飯島さんに聞いたら、博多時代の後輩がアップしたものだそうです。知り合いの結婚式の二次会で歌ったもので、本人いわく、もうベロベロだった、と。ベロベロにしては、めちゃくちゃうまい。それが、正直な感想です。

僕も一度、「ストリングスさんへ」と、この曲を歌わせてもらったことがあります。

店に行くと、音楽の話で盛り上がります。音楽がどんぴしゃなのは、たぶん、そういう人の店だからです。

はじまりは、飯島コーヒー

ストリングスのはじまりは、2007年の「飯島コーヒー」です。

2014年、ガレージを改装して、焙煎所とお店をひらきました。そのときに、いまの名前になった。STRINGS には、弦楽器のように毎日を彩り、糸のように人と人をつなぐ、という思いが込められているそうです。元バンドマンの飯島さんらしい名前です。

昔の豆の袋を、覚えています。袋の真ん中に、ストリングス コーヒー ロースターズのハンコ。余ったところを裏にくるっと巻いて、シールで留めてあります。僕が通いはじめたころ、そのシールは、まだ飯島コーヒーのころの、ローマ字のシールでした。いまは、ストリングスのシールに変わっています。

ハンコにある「IIJIMA CF.CO. 2007」は、はじまりの名前と年です。名前が変わっても、はじまりは、ちゃんとロゴに残っている。

SRで、行く店

僕は、ヤマハのSR400に乗っています。ストリングスにも、SRで行くことがある。

海沿いの小さな漁港の道ばたに停めた、黒いヤマハSR400。奥に漁船と防波堤、右に切り立った岩(モノクロ写真)
僕のSR400。2017年の夏、島根の海沿いで。

飯島さんは、昔、SR400のエンジンを650ccくらいまでボアアップして乗っていた人です。僕がSRで行くたびに、「SR、いいなぁ」と言っていた。

その飯島さんが、何年か前、ついに、新型のSR400を買いました。僕のはキャブレター。飯島さんのは、最新のインジェクション。まだ、一緒に走ったことはありません。新旧のSRで、いつかツーリングに行きたいと、勝手に思っています。

朝6時の、焙煎

お月見の会の日の朝、豆を買いに行きました。

飯島さんのおすすめは、グアテマラ アンティグア。練習の分も入れて、300グラム。

聞くと、焙煎はその日の朝。ストリングスの豆は、ほとんどが、その日の朝に焼いたものだそうです。焼き加減だけじゃない。鮮度も、これ以上ない。開店は11時。でも焙煎は、朝6時からやっている。

ひろし

朝の6時から。

ギーセンの焙煎機のそばに立つ飯島さんと、子どもたち
焙煎機のそばで。2024年4月。

その日、デミタスはネルで淹れるつもりでした。ネルは、あるおじさんからいただいたもの。そう話したら、飯島さんも、同じおじさんのネルを何本も持っていました。「今日、やっと出番が来ました」と言ったら、喜んでくれました。

そのおじさんの話は、別の記事に書きました。

お月見の夜は雨で、月は見えませんでした。それでも、最後のデミタスは、みなさん「おいしい」と飲んでくれました。

お店のこと

  • ストリングス コーヒー ロースターズ(STRINGS COFFEE ROASTERS)
  • 島根県出雲市武志町764-1。一畑電車 川跡駅から歩いて2分
  • 営業日や時間は、お店に確かめてください。電話番号は、公式サイトにあります

ストリングスを取材した記事も、いくつかあります。さすがプロの仕事で、店の空気がよく伝わってきます。

この記事で紹介したもの

この記事に出てきたものを、まとめておきます。
押すと、その説明のところへ飛びます。買うところではなく、まず説明を読んでもらえたらうれしいです。

今日の一曲

はじめてストリングスに入った日に流れていた、マデリン・ペルー。そのなかから、「スマイル」を。

もとは、チャップリンの曲です。映画『モダン・タイムス』のために書いたメロディに、あとから言葉がつきました。マデリン・ペルーは、2006年のアルバム『Half the Perfect World』で歌っています。

さっき書いた、ティル・ブレナーのトランペット。このアルバムで彼が吹いているのは2曲で、そのうちの1曲が、この「スマイル」でした。

マデリン・ペルーの曲は、どうしてあんなに心地いいんだろう、とずっと思っています。歌が始まる前、音が鳴った瞬間から、もう気持ちがいい。歌声はもちろんですが、ギターも、すごく心地いい。ミックスなのか、何なのか、何かひみつがあるんじゃないか。

寄り道あの心地よさは、誰の仕事?タップで開きます

この記事を書くのに、少し調べました。このアルバムを作ったのは、ラリー・クラインというプロデューサーです。ギターはディーン・パークス。ミックスは、ヘリク・ハダーという人でした。三人とも、たくさんのレコードを陰で支えてきた人です。ひみつが何なのかは、まだわかりません。でも、あの心地よさには、この人たちの仕事も入っているんだと思います。

この曲には、思い入れがあります。

相羽崇巨さんが、コロナでライブができなかったあいだ、YouTubeで続けていた配信が「If you just smile」でした。その名前は、この曲から来ています。僕も一度、出させてもらいました。

七尾旅人さんは、その配信の名前の候補のひとつから、「if you just smile(もし君が微笑んだら)」という曲を作りました。あとから、チャップリンの「Smile」の詞を引いていることに気づいた、とnoteに書いています。

相羽さんにも、「If you just smile」という曲があります。この曲は、僕が編曲させてもらいました。相羽さんの2枚目のアルバム『朱夏の約束』(2022年)に入っています。

その曲を僕が歌ったものが、自分のチャンネルにあります。恥ずかしいですが、貼っておきます。

「スマイル」の歌の終わりの、この二行が好きです。

You'll find that life is still worthwhile
If you just smile

マデリン・ペルー「Smile」(作曲 チャールズ・チャップリン/作詞 ジョン・ターナー、ジェフリー・パーソンズ)より

捨てたもんじゃないぜ、この世も。笑ってりゃいいのさ、ベイビー。

本日もお読みいただき、ありがとうございました。