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こんばんは、ひろしです。

今日は、出張ケータリングの持ち物の話をします。

書く前に、少し調べてみました。ケータリングの記事は、たくさん出てきます。ただ、そのほとんどは、頼む側に向けたもの。作る側が現場に何を持っていくかを書いたものは、ほとんど見つかりませんでした。

だからこの記事では、実際に現場に立っている料理人の持ち物を、そのまま書きます。何を持っていくかだけでなく、なぜ持っていくのか。どんな失敗が、いまの形に変えたのか。

最初に、いちばん意外に思われるかもしれない話からいきます。

― 先に、結論だけ ―

お皿は持っていきません。鍋と包丁は、自分のものを持っていきます。一人で回すので、火入れを任せられる道具見ていてもらうThermoPro TP-16 料理用温度計だけは連れていきます。

→ この記事で紹介したもの(一覧)へ

僕は、お皿を持っていかない

個人のお宅への出張ケータリングでは、基本的にお皿を持っていきません。その家庭にある器を、使わせていただきます。

「うちには、料理に出せるようなお皿がありません」と言われることもあります。でも、そんなことはありません。

たとえばスープなら、スープ皿でなくていい。マグカップでいいんです。

それぞれの家庭にある器を見て、その場で料理との組み合わせを考える。実はそれ自体が、僕の楽しみのひとつです。

以前、ご両親と、娘さんふたりと、おばあちゃんというご家族のケータリングをしました。

盛り付けの段階で、その家にある器を見ながら、自分で選んで使いました。

すると食卓で、こんな声が上がったんです。

「これ、お姉ちゃんに買ってもらったお皿だ」

「これは、おばあちゃんの誕生日に買ったもの」

ちがう器が並ぶ食卓を、家族5人が囲んで一枚の皿を見ている

家庭のお皿には、それぞれ、家族のストーリーがあります。

ふだん、家族でそのお皿について話すことは、あまりないと思います。ところが僕が盛り付けのために偶然その一枚を選ぶことで、器にまつわる記憶が、食卓でよみがえる。

料理だけではなく、そういう時間ごと届けられるのが、出張ケータリングの面白さだと思っています。

だから僕は、基本的にお皿を持っていきません。

そもそも、ケータリングって何をする仕事か

ここで一度、前提の話をさせてください。「ケータリング」という言葉、人によって思い浮かべるものがけっこう違います。

― よく混ざる3つ ―

デリバリー 店で作った料理を届ける。届けたら、そこで終わり。

ケータリング できあがった料理を会場へ運んで、並べて、サービスまでする。パーティーのビュッフェが分かりやすい形です。

出張料理 その場のキッチンを借りて、その場で仕上げて出す。

僕がやっているのは、言葉としてはケータリングと呼んでいますが、中身は3つ目に近いです。

仕込みは自分の厨房でしておいて、それを持って、お客様のお宅や会場へ行く。向こうのキッチンを借りて、最後の火入れと盛り付けをして、その場で出す。

だから、料理を運ぶだけの仕事ではありません。知らない台所で、料理を完成させる仕事です。

これが、この記事の持ち物すべての理由になっています。

自分の厨房なら、どこに何があるか分かっています。足りなければ取りに行けばいい。でも人の家では、そうはいきません。コンロが何口あるのかも、オーブンがあるのかも、鍋が足りるのかも、行ってみないと分からない。

だから、何を持っていくかを考える。そして、何を持っていかなくていいかも考える

包丁は、自分のものを持っていく

その代わり、と言うのも変ですが、包丁は全部、自分のものを持っていきます。

収納は、丈夫な布でできた、巻くタイプのものです。包丁を並べて、布で巻いて、紐で留める。

ケータリングを始めたころは、料理人が持っているような、かっこいい大型の包丁ケースにも惹かれました。ただ、実際の仕事を考えると、大きなケースはかさばります。それで、コンパクトに巻けるこの形に落ち着きました。

僕が使っているのは、堺一文字光秀のものです。8号帆布の6ポケットで、刃渡り360mmまで入る。一尺一寸の刺身包丁が収まるのは、これのおかげです。色は、えんじ。

選ぶときに、ひとつだけ。市販の包丁ロールは、刃渡り27センチくらいまでを想定したものが多いです。長い包丁を持っていく人は、収納できる長さを必ず確認してください。ここを見落とすと、いちばん入れたい一本が入りません。

それと、刃先のサヤは付いていません。別に用意するか、僕のように紙で包んでから差します。

新聞紙で、鞘をつくる

その包み方も、載せておきます。慣れれば1本30秒です。

新聞紙を広げて包丁を置く
新聞紙を広げて、包丁をとなりに
新聞紙の角を斜めに折る

角を、刃の角度に合わせて折り返します
折り目に刃を沿わせて巻き始める

折り目に刃を沿わせて、巻き始めます。机のへりを使うと巻きやすい
包丁を軸に新聞紙を巻いていく

包丁を軸にして、くるくると
三角に巻き込んでいく

紙の端を折り込みながら、最後まで
完成した新聞紙の鞘

刃先の側を折り込んで、あとはテープで留めるだけ
新聞紙の鞘の完成。テープで留めて、刃だけが包まれ柄は外に出ている

テープで留めて、これで完成。刃だけが包まれて、柄は外に出ます
小さな包丁を新聞紙で柄ごと包んだ例

ペティなら、新聞半面ほどで包めます。包む前と、包んだあと

刃がしっかり隠れて、ロールのポケットにもそのまま差せます。破れたら、また折ればいい。

それと、新聞紙で包むのには、もうひとつ意味があります。

僕の包丁のうち、出刃、刺身包丁、そして高橋鍛冶屋さんの牛刀は、鋼です。鋼はよく切れるかわりに、錆びます。使ったあとにきちんと拭いて、椿油などを薄く塗っておかないと、すぐに赤い点が出てくる。

その油を塗った刃を、新聞紙で包む。これは僕が勝手にやっていることではなくて、老舗の包丁店でも同じ手順が案内されています。乾かして、油を塗って、新聞紙で包んで、湿気の少ないところへ。逆に木の鞘や布に包んだまま長期間しまうのは、湿気がこもるのでよくないとされています。

新聞紙は、油分を含んでいるから錆びにくい、とよく言われます。実際いまの新聞インキは大豆油などの植物油を使ったものが主流です。ただ、それが本当に錆を防いでいるのか、単に紙が湿気をこもらせないからなのかは、僕には分かりません。どちらにしても、油を塗ってから新聞紙で包むと、僕の鋼の包丁は錆びにくい。これは20年やってきた実感です。

ちなみに、ミソノなどのステンレスの包丁は、そこまで気を使わなくても大丈夫です。同じ「包丁」でも、鋼とステンレスでは付き合い方が違います。

ここまで読んで「そんなに包丁を持ち歩かない」と思った方がほとんどだと思います。念のため、家庭用のサイズも書いておきます。

三徳やペティが中心なら、刃渡り27センチまでのものでじゅうぶんです。ふだんは使わなくても、キャンプや、実家に帰って台所を借りるときには、こういうものがあると安心して包丁を持って行けます。

布の包丁ロールを開いた状態

開いたところ。刃は新聞紙で包んでから差しています
包丁ロールを巻いた状態

巻くと、このくらいの大きさになります

中身は、だいたいこの顔ぶれです。

  • 小さめの牛刀
  • 中くらいの牛刀
  • 大きめの牛刀
  • 高橋鍛冶屋さんの記事にも登場した牛刀
  • 出刃包丁
  • 一尺一寸ほどの刺身包丁
  • ペティナイフ
  • 調理用のハサミ
  • サーモンなどに使う、薄刃のスライサー

特注した包丁たちの話和包丁おすすめ|出雲と大阪、3人の鍛冶屋に特注した料理人の話

この巻いた包丁を、さらに外側のケースに入れて運びます。

そのケース、実は包丁用ではありません。楽器のエフェクターを運ぶためのケースです。一尺一寸の刺身包丁まで入る長さのものを探した結果、それがちょうどよかった。

「包丁は包丁専用のケースに」とは考えていません。用途に合うなら、別の世界の道具でもかまわない。

外から見ると、完全に機材です。

閉じたエフェクターケース
これが厨房の道具だとは、たぶん誰も思いません

開けると、こうなっています。

エフェクターケースの中身

巻いた包丁、まな板、ペーパー、計算機、スケール。この一箱で完結します

それと、エフェクターケースなので蓋がかんたんに外れます。これが現場でありがたい。開いた蓋が邪魔にならないし、狭い台所では蓋だけよそに置いておけます。楽器のために作られた仕組みが、そのまま厨房で役に立っている。

ケースに入れた献立表

その日の献立も、いっしょに入れて持っていきます

同じケースに入れている小物

包丁のほかにも、現場ですぐ使いたい小物を、同じケースにまとめています。

  • 小さなまな板
  • オリーブ材の小型まな板
  • 出汁を濾すためのフィルター
  • 出汁パック
  • 計算機
  • デジタルスケール

必要な小物が一か所にまとまっている。それだけで、現場で探す時間が減ります。

消耗品

  • アルミホイル
  • ラップ
  • キッチンペーパー

とくにキッチンペーパーは、濡れても破れにくい、しっかりしたものを。拭く、包む、押さえる。現場では出番がとても多い道具です。

鍋は、自分のものを持っていく

お皿は借りますが、鍋は持っていきます。

使うのは、取っ手が外れるティファールの鍋とフライパンのセット。取っ手が外れるので、重ねればかなりコンパクトになります。基本的には、この持っていったもので料理を組み立てます。

借りるのは、あくまで例外です。数が足りなくなったとき。あるいは、持っていった鍋がその家の熱源で使えなかったとき。

お皿を借りるのは、その家の器で出すことに意味があるからでした。鍋は違います。鍋は、料理を作る側の道具です。だから自分の勝手が分かっているものを持っていく。

ケータリングの道具は、性能だけでは選べません。「車に積めるか」「運びやすいか」。ここが、店の厨房との大きな違いです。

僕が使っているのは、この9点のセットです。

ただし、僕のセットはガス火専用。そのことを、僕は現場で知ることになります。

IHで、失敗した話

そのティファールで、一度失敗しています。

底が平らだから、IHでも使えるだろう。そう思い込んで、持っていきました。

現場でIHのスイッチを入れても、一向に温まらない。確認したら、その鍋はIH非対応でした。

幸い、その家にIH対応の鍋があって、お借りして事なきを得ました。借りるのが例外だと言ったのは、こういう日のことです。

この日から、「鍋があるか」ではなく、「その鍋は、現場の熱源で使えるか」まで考えるようになりました。

最近は、IHしかないご家庭も珍しくありません。逆に古民家では、かまどや囲炉裏で料理してほしい、という依頼もあります。ケータリングは、ふだんの厨房とは違う熱源で料理する仕事でもあるんです。

― 鍋がIHで使えるか、いちばん簡単な確かめ方 ―

磁石を、鍋の底に当ててみてください。ぴたっとくっつけば、まずIHで使えます。IHは磁力で鍋の底そのものを発熱させる仕組みなので、「磁石がつく底」=「IHの火が通る底」。買う前でも、借りる前でも、磁石ひとつで確かめられます。

ちなみにあの日、僕を助けてくれたその家のステンレスの鍋は、ちゃんと磁石がくっつく子でした。

これから予備のセットを持つなら、家のコンロがIHの方は、同じ「取っ手のとれる」シリーズのIH対応を選んでください。ガス火でもIHでも使えます。

できれば下見。無理なら、ひとこと聞いておく

イベント形式などで下見ができる場合は、事前に現場を見せてもらいます。確認するのは、たとえばこんなことです。

― 下見で確認すること ―

  • ガスか、IHか
  • 火口の数
  • オーブンの有無と、サイズ
  • 冷蔵庫を借りられるか。空きはどれくらいか
  • 作業台の広さ
  • シンク
  • コンセントの位置と数
  • 使える鍋や調理器具
  • 使える食器
  • 搬入経路・駐車場・階段やエレベーター

個人のお宅では、下見が難しいことも多いです。それでも、「IHしかありません」「オーブンはありません」。そのひとことを聞いておくだけで、準備は大きく変わります。

一人の現場に、「助手」を連れていく

僕は基本的に、一人で料理をします。

だから道具を選ぶとき、大事にしている視点があります。

自分が別の作業をしているあいだに、仕事を任せられるか。

その代表が、低温調理器です。肉をあらかじめ低温調理しておいて、現場では最後に表面を焼き、切って出す。温度を設定すれば一定に保ってくれるので、そのあいだ僕は別の料理を進められます。

僕が使っているのは、BONIQの3.0というモデルです。

それから、少し前の記事に書いた、プローブ式の温度計。肉や魚に刺しておけば、設定した温度で知らせてくれる。本体と測る部分が離れているので、本体を熱源から離したまま測れます。

これも、一人で複数の作業を同時に進めるための、「もうひとつの目」です。

使っているのは、ThermoProのTP-16というモデルです。

「もうひとつの目」の話料理は、「何度で、何分」|料理人が実際に使う温度計、3タイプ

ひろし

お皿も鍋も借りるのに、「助手」だけは連れていく。僕のケータリングは、そういう形です。

行きは、真空パックで運ぶ

仕込みをした食材は、基本的に真空パックにして持っていきます。肉も、魚も、ソースも、出汁も。

  • 液体がこぼれない
  • 食材が崩れない
  • 車で運びやすい
  • 仕込みごとに整理できて、現場で迷わない

いまのところ、ケータリングで食材を運ぶ方法として、これがいちばん使いやすいと感じています。

真空パックした骨付き肉
骨付き肉も、真空パックにして持っていきます

問題は、「帰り」だった

行きは、いいんです。問題は、帰りでした。

ケータリングでは、食材が足りなくなるのがいちばん怖い。だから、多少余裕を持って持っていきます。当然、ソースや出汁が余ることもあります。

以前は、それをステンレスの容器に移して持ち帰っていました。ところが、車は揺れます。急ブレーキも踏みます。中身が、こぼれる。食材がだめになるだけでなく、車内の掃除までついてくる。

何度かやって、これは変えなければ、と思いました。

そこで一時期は、チャック付きの袋に入れて持ち帰るようにしました。かなり良くなりました。でも、完全ではなかった。チャックがきちんと閉まっていなかったり、何かの拍子に開いたりすると、悲惨です。

「帰りの液体を、どう安全に持ち帰るか」。ずっと、それが課題でした。

現場で、もう一度真空にする

そこで最近導入したのが、持ち運べる小型の真空包装機です。

自宅には、業務用の真空包装機があります。液体を熱いまま真空にできる、頼れる機械です。当時、65万円ほどでした(いま新品を買うと、80万円台からのようです)。ただ、据え置きの機械なので、さすがに現場には持っていけません。

5台ぶんの遍歴を書きました真空パック機を、5台使ってきました|65万円の業務用と、9,000円の家庭用

だから、家庭用のコンセントで動く、車に積めるサイズのものをもう一台。余った食材やソースは、現場で真空にし直してから帰ります。

行きだけでなく、帰りまで、真空パック。これは、こぼれた車内を何度も掃除した過去から生まれた運用です。

使っているのは、低温調理器と同じBONIQの、Vacuumer(バキューマー)というモデルです。

持っていかなくなったもの

タイマー

以前は、パスタの茹で時間などを測るために、専用のタイマーを持っていっていました。

ある日、動かなくなりました。電池を替えても、動かない。壊れていました。

「新しいのを買わないと」と一瞬思って、気づきました。スマホに、タイマーがある。

それきり、専用のタイマーは持っていっていません。「昔から持っているから」という理由だけで荷物を増やさないことも、現場で覚えたことのひとつです。

チャック付きの袋

帰りの持ち帰りに活躍してくれていましたが、現場で真空にし直せるようになってから、出番が減りました。役目を終えたというより、役目を渡した、という感じです。

この記事で紹介したもの

この記事に出てきたものを、まとめておきます。
押すと、その説明のところまで戻ります。買うところではなく、まず説明を読んでもらえたらうれしいです。

まとめ ― 持ち物リストは、変わり続ける

この持ち物は、最初から完成したリストだったわけではありません。

これは必要だった。これは、なくてもよかった。これでは失敗した。もっと安全にできないか。一人でやるには、どうすればいいか。

現場でそう考えるたびに、少しずつ形を変えて、いまの姿になりました。

道具選びでいちばん大切なのは、価格でもブランドでもないと思っています。何のために使うのかを自分で理解して、その目的に合ったものを選ぶこと。

65万円の業務用の機械が必要な場面もあれば、スマホのタイマーで十分な場面もある。

道具は目的ではなく、料理と仕事を成立させるための、手段です。

ケータリングを続ける限り、このリストも、きっとまた変わっていきます。

今日の1曲

今日の一曲は、奥田民生の「さすらい」

ケータリングは、道具を積んで、知らない台所へ行く仕事です。着いてみるまで、コンロが何口あるかも分からない。

店を持っていたころは、毎日同じ厨房に立っていました。いまは、毎回ちがう台所に立っています。どちらが良いという話ではなくて、ただ、いまはこういう働き方をしている。

荷物を車に積むたび、この歌を思い出します。

さすらおう、この世界中を
ころがり続けてうたうよ、旅路の歌を
周りはさすらわむ人ばっか少し気になった
風の先の終わりを見ていたらこうなった
雲の形をまにうけてしまった
さすらいの道の途中で
会いたくなったらうたうよ、昔の歌を
人影見あたらぬ終列車一人飛び乗った
海の波の続きを見ていたらこうなった
胸のすきまに入り込まれてしまった
誰のための道しるべなんだった
それをもしも無視したらどうなった
さすらいもしないで
このまま死なねえぞ
さすらおう

奥田民生「さすらい」(作詞・作曲 奥田民生)より

本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それでは、おやすみなさい。