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― この記事について ―

手が荒れて絆創膏だらけだったころのやり方で、食べものを守れていたのか。20年たって、黄色ブドウ球菌を調べ直して答え合わせをしました。台所の菌の話の続きです。

こんばんは、ひろしです。

今日は、黄色ブドウ球菌の話です。

人の皮膚にふつうについている、身近な菌です。傷口にも多い。

結論から言うと。

この菌は、熱で死にます。

でも、食べものの中でできた毒は、ふつうの加熱では壊れません。

あとから温め直しても、取り返せない。

だから、守り方は二つです。

つけない。増やさない。

説明していきます。

黄色ブドウ球菌、これ1枚で結論。すみか:健康な人の鼻・のど・皮膚にも。膿んだ傷には、特に多い。菌と毒:菌は熱で死ぬ。でも、食べものの中でできた毒は、ふつうの加熱では壊れない。傷のある手:できれば作らない。作るなら、水に強いもので覆って、手袋。膿んでいたら、作らない。顔:調理中は、鼻や顔を触らない。手袋をしていても。器具:洗う → 消毒 → 乾かす → 清潔にしまう。温度:10℃以下では、ほとんど増えない。真空パックでは止まらない。ゼロにはできない。だから、つけない。増やさない。各段に水彩の小さな絵つき
黄色ブドウ球菌、これ1枚で。

途中の「寄り道」は、たたんであります。気になったところだけ開いてみてください。

絆創膏だらけの手で、料理をしていた|あのやり方で、合っていたのか

2005年に飲食の世界に入り、少しずつ手が荒れはじめました。

いちばんひどかったのは、たぶん2006年ごろ。あかぎれとひび割れだらけで、手を開いたり閉じたりもできないくらいでした。

営業中は、絆創膏でなんとか防いでいました。片手に10枚以上は貼っていたと思います。両手なら、もっと。

ステンレスのカウンターに置いたパスタの白い皿。皿のふちに添えた両手の指に、絆創膏がいくつも巻いてある手元を描いた水彩画

カウンターで、絆創膏だらけの手を見たお客さんに聞かれたこともあります。

「手ボロボロやけど、何仕込んだ?」

何を仕込んだというか、日々の仕込みでこうなりました。

手は、ほんとうに痛かったんです。

料理の勉強をするうちに、黄色ブドウ球菌が傷についている菌だと知って、いろいろ悩みました。

だから、傷は絆創膏で覆う。仕込みと洗い物のときは、できるだけ手袋をする。手はこまめに洗う。

それくらいしかできなかったと思います。

ひろし

そのやり方で合ってたのかどうかは、今となっては疑問。そん時、必死にやってたんやけど。

果たして、あれで防げていたのか。今回は、その答え合わせをしてみます。

手荒れそのものの話と、手袋を20年試してきた話はこちらに書きました。

黄色ブドウ球菌は、人の体にいる|鼻・のど・皮膚、そして傷

黄色ブドウ球菌の、すみか。人の上半身のシルエットに丸印4つ。①鼻(特に入り口)②のど ③皮膚 ④膿んだ傷(特に多い)。持っている人は、資料によって、5人に1人から、2人に1人以上まで。荒れた手にも、つきやすい(手湿疹の患者さんや、病院で働く人の研究)。原因になりやすいのは、加熱のあと手で触れる食べもの。おにぎり、寿司、弁当、お菓子の水彩つき
黄色ブドウ球菌の、すみか。

健康な人の鼻やのど、皮膚にもふつうにいる菌です。

持っている人は、資料によって5人に1人から2人に1人以上まで。

そして、膿(う)んだ傷には、特にたくさんいます。

食中毒の原因になりやすいのは、おにぎりや寿司、弁当やお菓子など。加熱したあと、手で触れる食べものです。

いまも毎年起きていて、2025年は全国で15件、305人でした。

黄色ブドウ球菌の毒は、ふつうの加熱では壊れない|菌は死んでも、毒は残る

菌は死んでも、毒は残る。菌は熱に弱い、62℃で30分あれば死ぬ。毒(エンテロトキシン)は熱に強い、ふつうの加熱調理では壊れない。①手から、つく ②あたたかいところで増えて、毒ができる ③温め直す ④菌は死ぬ。毒は残る。温め直しでは、取り返せない。各段に水彩の小さな絵つき
菌は死んでも、毒は残る。

少しついただけでは、食中毒にはなりません。食べものの中で菌が増えると、エンテロトキシンという毒ができます。

菌そのものは熱に弱く、62℃で30分あれば死にます。

でも、できてしまった毒は熱に強く、ふつうの加熱調理では壊れません。

だから、「あとで、しっかり温め直せば大丈夫」は通用しない。

菌は死にます。でも、毒は残る。

加熱で消えない毒の話は、セレウス菌の記事にも書きました。あちらはご飯やパスタの菌です。

赤身の魚のヒスタミンも、一度できると焼いても消えません。

寄り道毒は、何度で何分なら壊れるの?タップで開きます

資料によって、書き方が少しずつちがいます。

  • 東京都:100℃で20分の加熱でも分解されない
  • 農林水産省・大阪府:100℃で30分の加熱でも壊れない
  • 食品安全委員会の文献調査(2009年度):100℃で20分でも完全には壊れない。毒の型によって、120℃で20分から40分で壊れる

胃や腸の消化酵素でも、ほとんど分解されないそうです(農林水産省・FDA)。

症状が出る毒の量はごく少しで、食べもの1グラムの中に菌が10万個を超えると届くそうです(FDA・農林水産省)。

だから、この記事では「ふつうの加熱では、壊れない」と書きました。

この毒を食べてから早いと30分、多くは数時間で、吐き気や嘔吐やおなかの痛みが急に出るとされています。

具合が悪いときは、医療機関に相談してください。

菌は見つからず、毒だけが見つかった

「菌は死んでも、毒は残る」。それがそのまま起きた事件があります。

2000年の夏、近畿で約1万3千人が食中毒になったとされる、乳製品の事件です。

製品から見つかったのは、菌ではなく、毒だけでした。

さかのぼると、その春に北海道の工場で停電があり、温められた乳がラインで止まっていました。そこで菌が増えて毒ができ、その乳から作った粉が大阪の工場で使われたのです。

菌はそのあと死んだと考えられています。でも、毒は残った。

菌は見つからず、毒だけが見つかった(2000年)。①春、北海道の工場で、停電(約3時間)②温められた乳がラインで止まり、菌が増えて、毒ができる ③粉になる。菌は、もう見つからない ④6月、その乳から作った粉が、大阪の工場で使われる。製品から見つかったのは、毒だけ。菌は死んでも、毒は残る。各段に水彩の小さな絵つき
菌は見つからず、毒だけが見つかった(2000年)。
寄り道2000年の事件を、もう少しくわしくタップで開きます

国(当時の厚生省)と大阪市の専門家会議が、2000年12月に最終報告をまとめています。

  • 原因は、大阪の工場で作られた低脂肪乳など
  • 人数は数え方で3つある(14,780人/13,420人/4,852人)。この記事の「約1万3千人」は、食べたことと発症の関係が推定される人の数
  • 停電は3月31日。つららが落ちて屋根を壊し、しみこんだ雪どけ水で配線がショートした。約3時間
  • 温められた乳(20〜50℃)が3時間半から4時間、ラインに止まった。9時間以上冷やされなかったタンクも、毒ができた場所の候補
  • 6月に大阪で使われたのは、その脱脂粉乳を溶かして作り直した粉
  • 粉にする工程には130℃・4秒の殺菌がある。粉から黄色ブドウ球菌が見つからなかったのは、殺菌の前に増えて殺菌されたか、少なくて検査までに死んだか、と考えられた

手に傷があるときの料理|絆創膏だらけの手の、答え合わせ

いまの手引きでは、こうです。

手に傷があるとき(いまの手引き)

  • いちばんの原則は、調理しないこと
  • するなら、傷を水に強いもので覆って、使い捨ての手袋をつける
  • 膿んでいたら、調理しない
寄り道どの手引きに、何と書いてある?タップで開きます

資料ごとに、書き方が少しずつちがいます。

  • 国の決まり(食品衛生法施行規則):皮膚に傷がある人に作業をさせるときは、水に強いもの(耐水性のあるもの)で覆う
  • 国のマニュアル(大量調理施設衛生管理マニュアル):手や指に膿んだ傷があるときは、調理の作業をしない。手袋も、手を洗うのと同じ場面で替える
  • 仕出し弁当の手引書(2025年):傷があるときは調理しない。するなら、水に強いもので覆って、使い捨ての手袋をつける
  • 家庭向け(農林水産省):けがのときは調理しない。ほかに作る人がいないなら、手袋をしたり、傷が食べものにふれないよう十分に注意する

当時の僕と、並べてみます。

絆創膏は水に強いものでしたが、大事にしていたのは枚数。取れないように、テーピングする勢いで貼っていました。

取れたことはありません。怪しいときは、早めに替えていました。

覆うことと手を洗うことは、手引きのやり方に近いものでした。

でも、営業中はちがいました。

サービスも僕の仕事で、営業中はキッチンとお客さんの前を出たり入ったり。だから、なかなか手袋ができず、絆創膏でした。

当時、個人の店で手袋をつけて料理をすることには、あまりいいイメージがなかった。世の中も、まだそういう時代ではなかったと思います。

手が荒れているときに素手でさわるのは、お皿の縁やグラスの足。食材には、基本的に手袋なしではさわらないようにしていました。

カウンターで、絆創膏を巻いた指で白いお皿の縁とワイングラスの足を持っている手元を描いた水彩画
絆創膏だらけの手の、答え合わせ。当時の僕(2006年ごろ):傷は水に強い絆創膏で覆う(何枚も)。仕込みと洗い物は、できるだけ手袋。営業中は出入りが多く、手袋ができなかった。素手でさわるのは、お皿の縁やグラスの足。手はこまめに洗う。いまの手引き:いちばんの原則は、調理しないこと。するなら、水に強いもので覆って、使い捨ての手袋。膿んだ傷があれば、調理しない。半分は、近い(覆う・洗う)。いま足すなら、二つ。①手袋は、こまめに替える。替えるとき、手も洗う ②膿んでいたら、調理しない。絆創膏の指、青いニトリル手袋、手を洗う手元の水彩つき
絆創膏だらけの手の、答え合わせ。

いま足すなら、二つ

  1. 手袋はこまめに替える。替えるときは、手も洗う
  2. 膿んでいるときは調理しない
寄り道荒れた手には、つきやすい? 手袋の中では?タップで開きます

荒れた手にもつきやすい、という研究があります。デンマークの病院の話が中心で、料理人の研究は見つかりませんでした。

  • 手湿疹の患者50人と健康な人50人:手から見つかったのは、患者の54%、健康な人の2%(2020年)
  • 病院で働く人77人ずつ:手湿疹のある人の10%、ない人の1%(2022年)

手袋の中で増えたという実験もあります。手湿疹のある30人が片手に4時間手袋をしたら、湿疹の上の黄色ブドウ球菌は1.72倍になっていました(2021年)。

仕出し弁当の手引書も、長くつけていると汚れがたまるので、定期的に替えるようにと書いています。

調理中は、顔を触らない|手袋をしていても

もうひとつ、大事にしていることがあります。

調理中に顔を触らない。

調理師の勉強をしていたころに、本で知ったのだと思います。

ひろし

顔にもおるんやと思って。

僕には鼻を触る癖があるので、それからは意識するようになりました。

手袋をしていても同じです。手袋で鼻を触れば、その手袋で食材を触ることになる。

厨房で、青い手袋の手が鼻の近くまで上がっている料理人の影絵と、手前のまな板の野菜を描いた水彩画

調理中に髪や顔を触らないことは、手引きにも書かれています。

複数の人が入る現場

この菌の食中毒を、身近で見聞きしたことはあまりありません。

それでも、いちばん怖いと思う場面はあります。

ひろし

複数の人がその現場で作業する場合が、一番怖いかな。

衛生への感度は、人によってちがいます。

たとえば、傷を隠して食材を触る。体のいろんなところを触ったまま料理をする。そうなると、危険度は上がります。

朝の光の厨房で、ひとつのステンレスの調理台を何人かの手が囲んで仕込みをしている様子を描いた水彩画。青い手袋の手と素手、ボウルやざる、まな板

食洗機の85℃で、菌は死ぬと思っていた|真っ赤っ赤だった、ボウルとざる

ここからは、手ではなく道具の話です。

北陸のナポリピッツァの店では、毎年、自主的に衛生検査を受けていました。業者の人が、作業台や手などを拭き取って調べます。

結果は、真っ赤っ赤。

そう言われて紙を見ると、確かに。びっくりして、やばいなと思いました。

青い手袋の手が綿棒でステンレスのボウルの内側を拭き取り、そばに赤い印が並んだ検査の結果の紙がある様子を描いた水彩画

大腸菌の検査があったのは、覚えています。ただ、どの項目が真っ赤だったのかまでは、いまとなっては分かりません。黄色ブドウ球菌に限らない、衛生の管理ぜんたいの話です。

棚のいちばん下に、しまっていた

赤かったのは、ボウルとざるでした。

一回下洗いをして食洗機にかけ、乾かして、しまう。それで、よしとなっていました。

業務用の食洗機は、すごく熱いお湯と洗剤で洗います。85℃くらいだったはずです。

扉が上がって湯気の立つ業務用の食洗機と、ラックに並んだステンレスのボウルとざるを描いた水彩画
ひろし

まあ、そんぐらいだったら菌は死ぬだろう、と思ってた。

でも、しまっていた場所は棚のいちばん下。床に近いところでした。

直したこと

考えるように言われて、今のやり方ではだめだと思いました。

まず、ボウルとざるを床から60センチは上の段に移しました。いろんなところで聞いていた高さで、たぶん検査の結果でも指摘されていたのだと思います。

結構高いな、と思いました。衛生的には確かにいいけれど、空間がもったいないくらいです。

空いた下の段には、アルコールの予備など、直接食べものに触れないものを置きました。床を磨くときの水よけには、透明なシートをカーテンのように下げました。

棚の、いちばん下だった。前:床に近い、いちばん下の段にボウルとざる。あと:床から60センチは上に。下の段は、直接食べものに触れないもの。透明なシートで、床磨きの水よけ。次の年は、劇的に良くなった(一部、黄色も)。「真っ赤っ赤」が何の検査の数字かは、分からない。棚の前とあとの水彩2枚
棚の、いちばん下だった。

ほかにも、いろいろ直しました。

  • しっかり乾かしてから、しまう
  • アルコールの使い方
  • 手洗い。特に店に入る前

次の年の検査は劇的に良くなりました。一部、黄色もありましたが。

あのとき直したことは、いまの仕事にもずっとつながっています。

寄り道あの検査は、何を調べていた? 60センチは、何の高さ?タップで開きます

拭き取りの検査には、いくつか種類があります。

  • 綿棒で拭いて菌を育てる方法:生きた菌の数が分かる。結果は1〜2日
  • 寒天を押し当てる方法:菌が多いか少ないかの目安。結果は1〜2日
  • ATP検査:汚れの量を光で測る。数十秒から数分で分かるが、汚れと菌を区別できない

床から60センチは、国のマニュアルでは、食べものや器具を扱う場所の高さ。床からの跳ね水で汚れないように、です。

このマニュアルは大きな施設向けですが、小さな施設にもその考え方をふまえるよう求めています。

床磨きの水よけのシートも、跳ね水よけという同じ考えでした。

85℃は、半分正しかった|洗ったあと、乾かして、清潔にしまう

食洗機のすすぎの温度がほんとうに出ていれば、この菌は大きく減ります。

そこまでは、当時の僕の考えで合っていました。でも、ゼロにはならない。

濡れたまま重ねたり床の近くに置いたりすれば、また汚れて増える。

国のマニュアルでは、器具はこうです。

洗う → 消毒する → 乾かす → 清潔にしまう。

器具は、4つの順番。①洗う ②消毒する ③乾かす ④清潔にしまう。①と②は、食洗機の85℃は、ここ。菌は大きく減る(ゼロではない)。③と④は、あの店で直したのは、ここ。濡れたまま重ねない/床の近くに置かない/使う前に、もう一度。各コマに水彩の小さな絵つき
器具は、4つの順番。

あの店で直したのは、この後ろ半分です。

食洗機も完璧ではないのに、しまう場所までは考えていなかった。それが反省点です。

いまも、使う前に、もう一度

ボウルや調理器具は、使う前に一回アルコールをスプレーします。もう癖になっています。

ひろし

それで全ての菌を追い払えるとは、思ってないけど。

ケータリングでは、ダスターを汚れてもいい用と清潔にしておきたい用に分けます。その清潔なほうが、だんだんキッチンペーパーに替わってきました。少しコストはかかりますが、そのほうが安心だと思っています。

ステンレスの台の上の、アルコールのスプレーボトルと、ピンク・青・緑のダスターと、厚手のキッチンペーパーを描いた水彩画
寄り道食洗機は、何℃? アルコールは、何%?タップで開きます

まず、業務用の食洗機。

  • メーカーの説明では、60℃以上で洗い、80℃以上ですすぐ(ドアタイプは85℃)。ただ、お湯が設定の温度に届かなくても洗えるのがふつうだそうです
  • 国のマニュアルは、器具を80℃で5分以上加熱するか、同じ効き目のある方法で殺菌する。食洗機のすすぎがそれと同じ効き目なのかは、資料に書かれていませんでした

次に、アルコール。

  • 体積で60〜90%がいちばんよく効き、50%より薄いと急に落ちる(アメリカ疾病予防管理センター)
  • 国のマニュアルは、調理台を乾かしてから70%のアルコールを吹きつける。水で薄まると効き目が落ちるから、と考えられます
  • 学校給食のマニュアルにも、扉のない棚に置いた入れものは、使う前にアルコールで消毒する、とありました
  • 塩素系の漂白剤とは混ぜないこと。火の近くでも気をつける

黄色ブドウ球菌を増やさないのは、温度|塩でも、真空パックでも、止まらない

黄色ブドウ球菌の、温度の地図。0〜100℃の縦の温度計。100℃で20〜30分でも、毒は残る(資料で書き方がちがう)。65℃以上=保存・運ぶときの温かいほう(国のマニュアル)。62℃・30分=菌は死ぬ。47.8℃=増える上限。毒ができる温度は10〜46℃、よく増えるのは30〜37℃。10℃以下=ほとんど増えない(冷蔵庫の目安)。5℃=増える下限(資料によっては6.7℃・7℃)。塩にも、酸素がないのにも強い。止めるのは、温度。出典は食品安全委員会(2021年のファクトシート・2009年度の文献調査)、農林水産省(2026)、FDA(2012)、大量調理施設衛生管理マニュアル
黄色ブドウ球菌の、温度の地図。

もうひとつの守り方は、増やさないことです。

この菌がいちばんよく増えるのは、人肌くらいの温かさ。10℃以下では、ほとんど増えません。

ほとんど、です。ゼロではありません。

塩にも強く、酸素がなくても増えます。塩をしても、真空にしても止まらない。

止めるのは、温度です。

冷蔵庫の目安は10℃以下。ただ、冷蔵庫の中も場所によって温度がちがいます。

家庭の例もあります。夜中に握って朝まで台所に置き、暑い中を持ち歩いて約12時間後に食べたおにぎりで、5人のうち3人が発症しました(東京都)。

夜の台所のテーブルに、ラップで包んだおにぎりがお皿にのせたまま置いてある様子を描いた水彩画

手で握って、温かいところに長く置く。この菌の条件がそろってしまいます。

寄り道作ってから食べるまで、何時間なら?タップで開きます

資料によって、2時間から4時間(暑いところでは1時間)とちがいます。

  • 国のマニュアル(2017年):調理が終わってから、2時間以内に食べるのが望ましい。すぐに出さないものは、10℃以下か65℃以上で
  • 仕出し弁当の手引書(2025年):盛り付けてから、できる限り4時間以内に食べてもらう
  • アメリカ疾病予防管理センター(2024年):傷みやすい食べものは、2時間以内に冷蔵庫へ。32℃以上の暑いところなら、1時間

ケータリングでは、すぐ真空にして、冷やす

仕込みは前日から。温かい料理は熱々のうちに真空パックにして(ホットパック)、袋ごと氷水で一気に冷やします。冷たいものは、冷たいうちに真空にして冷蔵か冷凍へ。

ただ、この菌に効いているのは真空ではなく、冷やしているほうです。熱々のうちに閉じて一気に冷やすと、菌が増えて毒ができる温かい時間が短くなります。

熱いまま真空にできる機械のことは、こちらに書きました。

ホットパックは、レトルトのような殺菌ではありません。常温には置けないので、冷やすところまでがひと続きです。

クーラーボックスの中に、真空パックにした料理と保冷剤が並んでいる様子を描いた水彩画

会場では、冷蔵庫を借りられるものは借りて、入らないものはクーラーボックスに入れておきます。

寄り道ケータリングでは、手袋? 素手?タップで開きます

盛り付けは、基本的に素手です。ただ、食材にはほとんど手でさわりません。

調理に使うボウルやトング、お玉は、アルコールで消毒してから使います。真空パックを開けたら、消毒したトングやスプーンで盛り付けます。

手でさわるかもしれないのは、メインの肉くらい。そのときも手をアルコールで消毒して、なるべくトングで。

手袋をまったくしないわけではありません。できるときは、しています。

国の決まりは、手袋を必ずとまでは決めていません。

ただ、盛り付けやおにぎりには、手袋やラップをすすめる資料もあります。加熱のあと手でさわり、時間をおいて食べるものほど、そのすすめは強くなります。

僕の素手も、手に傷がないことが前提です。

家の台所では、どこまで|濡れたまま、しまわない

家の台所で、同じにしていること。店でも、家でも:濡れたまま、しまわない。フックで乾かすなら、乾かす。布もスポンジも、蛇口で乾かす。家では、やったり、やらなかったり:アルコール。ただし子どもと生地をのばすときは、拭く → アルコール → もう一度拭く。乾かしても、菌は死なない。乾かすのは、増やさないため。水彩の絵4つ
家の台所で、同じにしていること。

僕は、家でもキッチンまわりは清潔にしておきたいタイプです。

でも、家の台所は家族みんなの場所。店と同じことを全部はしていません。

店と同じにしていること

濡れた状態ではしまわない。フックで乾かすなら、乾かす。

家では、スポンジではなく網のような布を使っています。使ったら絞って、蛇口に引っ掛けておけば乾きます。

台所の蛇口に、網のような布を引っ掛けて乾かしている様子を描いた水彩画

店でも、蛇口に引っ掛けてスポンジを乾かすホルダーを買いました。

ただ、この菌は乾燥にも強い。乾かすのは殺すためではなく、増やさないためです。

寄り道スポンジは、いつ替えればいい?タップで開きます

僕の替えどきは、ちょっとボロくなってきたら。はっきり決めているわけではありません。

スポンジなら、裏の硬いほう。鍋を洗うときによく使うので、そちらが先に傷みます。ざらざらがなくなってきたら替えていました。

  • 何日で替えるという公的な数字は、見つかりませんでした
  • ドイツの研究では、家庭で使われたスポンジ14個に、場所によって1立方センチあたり最大540億個の菌がいました(2017年)。ただ、数の少ない研究で、死んだ菌も数える方法です
  • 東京都の島しょ保健所は、変形や毛羽立ちを目安にこまめに交換を、と書いています。僕の「ボロくなったら」と近い考えでした

アルコールは、やったり、やらなかったり

ただ、子どもたちとテーブルで生地をのばすときは別。拭いて、アルコールをして、もう一度拭き取ります。

木のテーブルに、丸めた生地がいくつも間をあけて並んでいる様子をななめ上から写した写真
生地をのばす前の、テーブル。

家のアルコールは、気になる人だけでもいいのではと思います。

ひろし

まあ、やっといた方が安心ではあるんやけどね。

この記事で紹介したもの

この記事に出てきた、僕がいま使っている道具です。書いたのは、僕がどう使っているかだけです。

ボウルや作業台に使うアルコールは、ドーバーのパストリーゼ77。仕込みにもケータリングにも、必ずこれを使っています。

仕込みでは大きなボトルを、現場には半分くらいのボトルを使っています。

手袋は、粉なしの薄いニトリル。仕込みのときに使っています。

キッチンペーパーは、業務用の厚手のものです。

ダスターは、業務用のカウンタークロス。ホテルなどでもよく使われている、ピンクや青や緑の布です。銘柄までは分からないので、同じ種類の業務用のものを載せておきます。

蛇口に引っ掛けるホルダーは、いまも使っています。

まとめ|つけない。増やさない。火では、取り返せないから

持ち帰ってほしい、ひとつ。菌は死んでも、毒は残る。だから、つけない。増やさない。つけない:傷は水に強いもので覆う・膿んでいたら作らない・手を洗う・顔を触らない・器具は洗って、消毒して、乾かして、清潔にしまう。増やさない:冷やす・10℃以下・温かいところに長く置かない。ゼロにはできない:でも、増やさないことはできる。手を洗う手元と保存容器の水彩つき
持ち帰ってほしい、ひとつ。

菌は死んでも、毒は残る。

だから、つけない。そして、増やさない。

あのころは、必死でした。

いまなら、足すことがあります。手袋はこまめに替える。膿んでいたら作らない。

台所の菌の話は、まだ続きます。書いていて、僕自身の勉強にもなっています。

おことわり

この記事は、僕の経験と、国や自治体や研究の資料をもとにした記録です。安全を保証するものではありません。

今日の一曲

今日の一曲は、Mr.Childrenの「掌」。

2003年のシングル『掌/くるみ』の曲です。

絆創膏だらけだった手の話なので、手のひらの歌にしました。

本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それでは、おやすみなさい。