焼いた魚なら、大丈夫?|ヒスタミン食中毒と、赤身の魚を冷やし続ける理由
― この記事について ―
島根の給食のニュースをきっかけに、魚のヒスタミンを調べ直しました。焼いても消えないものを、どう作らせないか。店で毎朝していたことと並べて書きます。台所の菌の話の続きです。
こんばんは、ひろしです。
今日は、魚のヒスタミンの話です。
2026年10月29日、松江市の小学校3校で、給食のあとに体調をくずす人が出ました。
児童と教職員の293人が、顔の赤みや口・のどのかゆみなどを訴えたそうです。
ヒスタミン食中毒の疑いがあり、保健所が調べています。
市の説明では、献立にハマチの料理がありました。原因の食品は、10月30日の時点では調査中です。
出雲に住む僕にとっては、同じ島根の話です。
調べてみると、このブログにはヒスタミンだけの記事がありませんでした。熟成魚の記事の中に、一章あるだけ。
だから今日は、ヒスタミンだけで一本書きます。
結論から言うと。
ヒスタミンは、菌ではありません。菌が魚の中で作る物質です。
一度できたら、焼いても煮ても、冷凍しても消えない。
だから、作らせない。
赤身の魚は、買ってから料理するまで冷やし続ける。
説明していきます。
― 先に、結論だけ ―
押すと、その説明に飛びます。

途中の「寄り道」は、たたんであります。気になったところだけ開いてみてください。
- ヒスタミンは、菌ではない|菌が魚の中で作る、物質
- ヒスタミンがたまりやすいのは、赤身の魚|ブリ(ハマチ)・サバ・マグロ・イワシ
- ヒスタミンは、焼いても冷凍しても消えない|火では、取り返せない
- においや見た目では、分からない|ピリッとしなくても、安心はできない
- ヒスタミン食中毒の症状は、食べてすぐから|アレルギーに似た、食中毒
- なぜ、給食で起きやすいのか|一度にたくさん、届くまでにいくつもの手
- 増やさないのは、温度|冷蔵は遅らせる。冷凍は止める。解けたら、また
- 店では、毎朝届いた魚をその日のうちに|冷やしたまま、時間をかけない
- 家でできること|買ってから料理するまで、冷やし続ける
- まとめ|できたら、消せない。だから、作らせない
- 今日の一曲
ヒスタミンは、菌ではない|菌が魚の中で作る、物質

ヒスタミンを作る菌は、もともと海にいます。モルガン菌など、何種類もいます。冷たいところでも増える菌もいます。
生きている魚のエラや皮、内臓にも、普通に付いている菌です。魚が生きているあいだは、身の中では増えません。
魚が死んで温かいところに置かれると、この菌が増えます。
そして、身にあるヒスチジンというアミノ酸を、ヒスタミンに変えていく。
ヒスタミンは、菌ではありません。菌が作った物質です。
菌は、加熱すれば死にます。でも、すでにできたヒスタミンは残ります。
この食中毒は、毎年起きています。2025年は、全国で13件、431人でした。
ヒスタミンがたまりやすいのは、赤身の魚|ブリ(ハマチ)・サバ・マグロ・イワシ
材料のヒスチジンは、赤身の魚の身に多いアミノ酸です。
マグロ・カツオ・ブリ・サバ・イワシ・サンマ・アジ。カジキやシイラも、そうです。青魚と呼ばれる魚も、ここに入ります。
白身の魚に比べると、材料がずっと多い。
僕にとって、サバやイワシは「鮮度が生命の魚」です。
切り身や丸の魚だけではありません。干物やつみれ、タレに漬けた魚でも起きています。
赤身の魚が悪いわけではありません。材料が多いぶん、温度と時間に気をつけたい魚、ということです。

ハマチは、ブリの若いころの呼び名です。
そのブリは、ここ数年の全国の例で、いちばん多い原因の魚でした。
松江の件の原因は、まだ分かっていません。
寄り道どの魚が多い? ハマチとブリは、同じ魚?タップで開きます
国の食中毒の事例の一覧から、2021〜2025年の31件を数えると、こうでした。
- ブリ(ハマチ・フクラギと呼ばれる若いブリを含む)11件、サバ5件、マグロ・カツオ4件、カジキとアジが2件ずつ
- 患者さんの数では、ブリが6割近く
- 1998〜2008年は、マグロ33%、カジキ18%、サバ13%の順でした(国立医薬品食品衛生研究所・2009年)
ブリは、大きくなるにつれて名前が変わります。関西では、ツバス → ハマチ → メジロ → ブリ。養殖をハマチ、天然をブリと呼ぶことも多いそうです(環境省)。富山では、若いブリをフクラギと呼びます。
材料のヒスチジンは100gあたり、白身の魚で数mgから数十mg。赤身の魚では700〜1,800mgです(食品安全委員会)。
ヒスタミンは、焼いても冷凍しても消えない|火では、取り返せない

火を通せば大丈夫。そう考えたくなります。
でも、ヒスタミンには通用しません。
一度できたヒスタミンは、焼いても煮ても、揚げても消えない。冷凍しても、缶詰にしても消えません。
国の資料にも、「調理時に加熱しても分解されません」とあります。
「『多少古くても加熱すれば大丈夫』といった過信は禁物」と書く県もあるほどです。
この食中毒は、刺身より焼き魚や揚げ物で多く起きています。
酢や塩で締めても、同じです。大事なのは、締める前の鮮度と、締めているあいだも冷やしておくことです。
だから、鮮度が落ちたかもしれない魚は食べない。火を通しても、取り返せません。
焼いてもダメなんだね。ほんとに怖いね。ヒスタミン。
菌は火で死にます。でも、菌が作ったものは残る。セレウス菌の毒と、同じ型です。
セレウス菌の記事では、これを「作らせたら負け」と書きました。
寄り道刺身より、焼いた魚で多いのはなぜ? 酢で締めたら?タップで開きます
- 1998〜2008年の国内の例では、焼き物が約6割。生ものは7%でした(国立医薬品食品衛生研究所・2009年)
- 焼く前にタレに漬けておく料理(照り焼きなど)が、約3分の1ありました
- 刺身用の魚は10℃以下で保存する決まりがあり、管理が行き届きやすいから。論文は、そう考えています
酢や塩で締めても、できてしまったヒスタミンは消えません。締めているあいだにも、できることがある、とアメリカの食品の役所(FDA)は書いています。〆鯖そのものを調べた資料は、見つかりませんでした。
燻製にしても、缶詰の加熱でも消えません(FDA)。
においや見た目では、分からない|ピリッとしなくても、安心はできない
傷んだ魚なら、においで分かる。そう思うかもしれません。
でもヒスタミンは、においや見た目が変わる前にできることがあります。
東京の保健所の資料にも、「外見や臭いではわからない!」とあります。

僕にも、感覚で止めた日があります。店で魚を熟成させていたころです。毎日、熟成の具合を確かめていました。
怪しいと感じて提供をやめたことが一度だけある。少し粘つくというか、感覚的にもストップをかけた。
あのときは、粘つきに気づけました。でもヒスタミンの量は、においや見た目と結びつきません。
口に入れて、唇や舌がピリッと変なら、それ以上は食べない。国の資料も、食べずに捨てるように書いています。
ただ、感じないこともあります。辛い味つけだと、分かりにくい。
感覚は、目安です。安全の確認にはなりません。
寄り道唇がピリッとしたら? 辛い料理だと?タップで開きます
国の資料の言葉は、「くちびるや舌先に通常と異なる刺激を感じることがあります」。そのときは食べずに処分を、とあります(厚生労働省)。
- どの資料も「感じることがある」まで。必ず感じるわけではありません
- 給食の施設に向けた東京都の資料は、「香辛料とは異なる『ピリピリ』」と書いています。辛い味つけだと、見分けにくいということです
ピリッとするかどうかを、子どもに見分けさせる話ではありません。
ヒスタミン食中毒の症状は、食べてすぐから|アレルギーに似た、食中毒
症状の多くは、食べてすぐから1時間ほどで出ます。
顔が赤くなる。特に、口のまわりや耳たぶです。
じんましんやかゆみ、頭痛、口や舌のしびれ。吐き気や下痢、腹痛が出ることもあります。

アレルギーに似ていますが、アレルギーではありません。食べたヒスタミンの量で起きる食中毒です。「アレルギー様食中毒」と呼ばれることもあります。
量が多ければ、誰にでも起こりえます。
同じ献立でも、出る人と出ない人がいます。同じ魚の中でも、ヒスタミンの量がばらつくから。人によって、出やすさもちがいます。
重くなることは少なく、日本では亡くなった人の報告はありません。
それでも具合が悪いときは、早めに医療機関に相談してください。
寄り道出るまで何分? 治るまでは? どれくらいの量で?タップで開きます
資料によって、書き方に幅があります。
- 出るまで:数分〜30分くらい(食品安全委員会)。1時間以内、数分〜数時間と書く資料もあります(消費者庁・島根県・FDA)
- 治るまで:たいてい6〜10時間(食品安全委員会)。4〜6時間と書く資料も、12時間から数日と書く資料もあります(FDA)
- 量:一般に、食品100gあたり100mg以上で発症するとされます。ただ、実際は食べた量しだいです(食品安全委員会)
- 健康な人なら1食50mgまでは症状が出ない、と国際的な専門家の会議は考えています(FAO/WHO・2013年)
- 体調や飲んでいる薬、たばこやお酒で出やすくなる、と書く資料もあります
- 日本では1998〜2018年の届け出に、亡くなった人の報告はありません(食品安全委員会)
- 日本には、食品の中のヒスタミンの基準値がありません。EU やアメリカ、国際規格(Codex)にはあります(食品安全委員会・2021年)
時間は、どれも目安です。具合が悪いときは、医療機関へ。
なぜ、給食で起きやすいのか|一度にたくさん、届くまでにいくつもの手
松江の件は、まだ調べている途中です。ここからは、一般の話です。
ここ数年、ヒスタミン食中毒の患者さんの多くは、給食で出ています。島根でも、2025年と2026年に、給食での例が確かめられています。
理由のひとつは、一度にたくさんの人が、同じものを食べること。一件で、患者さんの数が大きくなります。
それに給食の魚は、届くまでに何人もの手を通ります。解凍や下ごしらえ、タレに漬けておく時間も、長くなりやすい。
どこかで一度でも温度が上がれば、そのあいだにできた分は残ります。
手がいくつもあるぶん、どこで増えたのか分からないことも多い。届く前に増えていた疑いのある例も、少なくないそうです。
ヒスタミンの量はばらつきが大きく、同じ業者の魚でも、患者さんが出ない調理場があります。

だから給食の現場では、届いた魚の温度を測って記録します。解凍は、冷蔵庫の中で。
子どもたちより先に大人が食べて確かめ、ピリッとしたら給食を止める。そこまでしています。
ただ、ピリッとしないこともあります。
寄り道給食での例は、どれくらい? 島根でも?タップで開きます
- 2021〜2025年の5年で、全国31件・872人(厚生労働省)
- そのうち給食と分かるものは、少なくとも14件・674人。件数では半分弱、患者さんでは8割近くです(国の事例の一覧から数えました)
- 島根でも、2025年11月に海士町の学校給食で「ヒラマサの焼物」(26人。国の一覧では28人)、2026年7月に安来市のこども園で「いわしのハンバーグ」(8人)の例が確かめられています
1998〜2008年を調べた論文には、原因の施設について「一度に多量の原材料を取り扱う施設が多かった」とあります。
流通には業者がいくつも関わるので、増えた工程を特定するのは難しい、とも書いています。
増やさないのは、温度|冷蔵は遅らせる。冷凍は止める。解けたら、また

守るのは、温度です。
ヒスタミンを作る菌は、温かいほどよく増えます。20℃を超えると速くなり、30℃台では特に速い。
買ってきた魚を、テーブルに置いたまま。暑い日なら、そこはもう温かいところです。

冷蔵庫に入れれば、増え方は大きく遅くなります。でも、止まりはしません。
冷蔵庫の温度でも、ゆっくり作られていくからです。0℃近くでも増える菌がいる、という研究もあります。
冷凍すれば、そのあいだは増えません。ただ、できていた分は消えないし、解けたらまた作られはじめます。解凍を常温でしないのは、このためです。
真空パックにしても、防げません。
ヒスタミンは、たまっていくものです。温かいところにいた時間が、少しずつ足されていく。
いちばん大事なのは、とれてから食べるまで冷やし続けることです。冷蔵庫に入れても、長くは置かない。
寄り道冷蔵庫でも増える? 0℃なら? 真空なら?タップで開きます
- 作る菌は、21℃を超えると、7℃くらいのときよりずっと速く増えます。32℃近くで特に速い(アメリカの食品の役所・FDA の手引き)
- 氷や冷蔵なしだと、6〜12時間足らずで、食中毒を起こす量ができることがあります(FDA・2017年)
- 冷凍のカツオを20℃で解凍すると、20時間で急に増えた、という報告もあります(鹿児島県工業技術センター・2000年)
- ヒスタミンに変える菌の酵素は、4℃の冷蔵でも働きます(食品安全委員会)。10℃で冷やしていても、長く置けば増えることがあります(厚生労働省)
- 0〜2℃でも増えた菌が、2006年の研究で報告されています
- 凍っているあいだ、酵素は働きません。でも壊れていないので、解けるとすぐまた働きます(FDA)
- 真空パックのような酸素の少ない包み方を、ヒスタミンを抑える方法と考えてはいけない、と FDA は書いています
店では、毎朝届いた魚をその日のうちに|冷やしたまま、時間をかけない
北陸の店にいたころ、魚は毎朝、魚屋さんから届きました。
届くのは、氷の入った発泡スチロールの箱です。

届く時間は、こちらでは選べません。すぐ触れないときは、箱ごとバットに載せて、ウォークイン冷蔵庫に入れました。現場では「チャンバー」と呼んでいた冷蔵庫です。
朝のうちに、忙しくても鱗と内臓だけは取っておく。ランチが終わって手が空いたら、三枚におろして、すぐ使える形にする。

毎朝魚が届くから、その日に使い切る。これが基本。
赤身の魚や青魚が届いた日は、最優先で腹出し(内臓を取ること)まで。できれば三枚におろして中骨を取り、真空パックまで済ませていました。
漁が休みの前の日は、翌日の分まで多めに届きます。その魚は、鱗と内臓を取ってラップで包み、翌日まで冷蔵庫へ。三枚におろすのは、使う日です。手を入れるほど、鮮度は落ちやすくなるからです。
いま調べると、国の資料にも「魚のエラや内臓は購入後できるだけ早く除去」とあります。ヒスタミンを作る菌は、エラや内臓に多いからです。
冷蔵でも長くは置かないように、と書く資料もあります。
店の毎朝のくり返しは、資料と同じ方向を向いていました。

魚を冷蔵庫に入れる前の手当ては、こちらにくわしく書きました。
熟成は、白身から
店では、魚の熟成も試していました。
三枚におろして薄塩をし、真空パックにして冷蔵庫へ。業務用の冷蔵庫の、冷気の吹き出し口のそばに置いていました。せめて冷えのいいところに、と思って。
でも、熟成に向く温度の数字までは、意識していませんでした。
旨味は増しました。ただ、身はだんだん柔らかくなっていく。
ヒスタミンのこともあるし、どのタイミングで使い切るのかの判断は難しいと感じていた。
ヒスタミンのことを知ったのも、熟成をしていたころです。
マグロの熟成があるのは、知っていました。でも、いろいろ調べて、白身の魚から始めたはずです。お客さんに出すものを、まぐれで品質管理するわけにはいかないからです。
結果として、ヒスタミンの材料が少ない魚でした。
熟成と、真空パックの中で起きることは、こちらに書きました。
夜中のチャンバーと、扉の外の温度
チャンバーの温度がおかしくなって、夜中に業者さんに来てもらったこともあります。
厨房の冷蔵庫には温度計があって、温度のチェック表もつけていました。
業務用の冷蔵庫は、扉の外に温度が出ています。チラッと見るだけで、いまの温度が分かる。
冷蔵庫は排熱が籠って冷えなくなったりもあったので、気を使ってチェックする癖がついてる。
いまのケータリングでも、同じです。夏に出した鯵のなめろうは、アジを受け取ったらすぐに仕込んで真空にし、盛り付けのぎりぎりまで冷蔵庫に入れておきました。
家でできること|買ってから料理するまで、冷やし続ける

家でも、守るのは温度です。
買ったら、常温に置かない。まっすぐ持ち帰って、すぐ冷蔵庫へ。

家でも、僕が魚を扱うときは店と同じです。家族が扱うときは、そこまではせず、普通に扱っています。
丸の魚なら、エラと内臓を早めに取ります。そのとき、内臓の中身で身を汚さないように。釣った魚は、すぐクーラーボックスへ。
冷蔵庫に入れても、長くは置かない。早めに食べます。
冷凍の魚は、常温ではなく冷蔵庫の中で解かす。解けたら、すぐ料理する。凍らせ直さない。

タレに漬けておくときも、冷蔵庫の中で。漬けたまま常温に置いたり、漬けた残りを次の日に使ったり。食中毒の例では、そうしたことが原因の候補に挙がっています。
冷蔵庫が冷えているかも、ときどき確かめる。詰めすぎないことも大事です。
家庭用の冷蔵庫には、外に温度の表示がありません。それが少し不安なのは、職業病だと思います。
冷蔵庫の中の、どこが何℃なのかは、こちらに書きました。
まとめ|できたら、消せない。だから、作らせない

ヒスタミンは、菌が魚の中で作る物質です。
一度できたら、焼いても冷凍しても消えない。においや見た目でも、分かりません。
だから、作らせない。
赤身の魚は、買ってから料理するまで冷やし続ける。冷蔵庫でも、長くは置かない。解凍は、冷蔵庫の中で。
店の基本は、その日に使い切ることでした。冷やしたまま、時間をかけない。
給食も店も家も、守るのは温度です。
台所の菌の話は、まだ続きます。
おことわり
この記事は、僕の経験と、国や自治体や研究の資料をもとにした記録です。安全を保証するものではありません。
松江市の件は、2026年10月30日時点の報道をもとにしています。
今日の一曲
今日の一曲は、ソニー・クラークの「クール・ストラッティン(Cool Struttin’)」。
1958年にブルーノートから出たアルバムの、1曲目です。トランペットはアート・ファーマー、アルトサックスはジャッキー・マクリーン。
アート・ファーマーは、僕の大好きなトランペット奏者です。特に、音色が好きです。
「クール」は、冷やし続ける、にかけました。急がず、同じ歩幅で歩いていくような曲です。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それでは、おやすみなさい。
























