おろし金と、グレーター|「おろす」と「削る」は、別の道具です
こんばんは、ひろしです。
今日のテーマは、おろす道具。
おろし金と、グレーターの話です。
結論から言うと。
このふたつは、同じ「おろす道具」に見えて、まったく別の仕事をします。
おろし金は、おろす(潰す)。
グレーターは、削る。
そして、その使い分けを知ると、料理はもっと美味しくなります。
説明していきます。
皮が、雪のように落ちた
まず、僕がマイクロプレーンに出会った日の話を。
あれは、知り合いのお店に、ヘルプで手伝いに行ったときのことです。
厨房で、そのシェフが、細長い道具でレモンの皮をおろしていました。
「、、、何それ?」
見たことのない道具でした。
使わせてもらって、僕は衝撃を受けました。
それまで、レモンやオレンジの皮は、普通のアルミのおろし金で、必死に削っていたんです。
力を入れて、時間をかけて。
それが、その細長い道具だと——皮が、雪のように、ふわっと落ちる。
体感で、10分の1以下。
あの苦行のような皮おろしが、あっという間に、終わってしまう。
その日のうちに、僕は買いました。
そして、自宅用にも、もう一本。
それくらい、衝撃的だったんです。
道具ひとつで、こんなに変わるのか、と。
マイクロプレーンにたどり着くまで
その道具が、マイクロプレーンでした。
そこにたどり着くまで、僕もいろいろな「削る道具」を使ってきました。
- 四角錐のボックスグレーター(多くの飲食店が使っている、あの箱型)
- 半円筒形の、小型のもの
- イタリア人が教えてくれた、回転式(ハンドルをクルクル回して、上の口からチーズの塊を入れる)
回転式は便利でした。
でも、チーズを小さめに切らないと、入り口に入らない。
そこが、少しだけ、微妙でした。
マイクロプレーンは、それらと比べて——
- コンパクトで
- 切れ味が良く
- 目詰まりしない
圧倒的に、使いやすかった。
だから、知ってすぐに買って、今も使っています。

なぜ、こんなに切れるのか——道具の秘密
これには、理由があります。
マイクロプレーンは、もともと木を削るヤスリでした。
作っているのは、アメリカの会社。
もともとは、印刷業界向けの精密部品を、「エッチング」という技術で作っていた会社です。
その技術で、木工用のヤスリを作っていた。
転機は、1994年。
カナダのある主婦が、オレンジケーキを焼こうとして、手持ちのおろし器では皮が引きちぎれてばかりで、うまくいかなかった。
そこで、旦那さんが持っていた木工用のヤスリを、工具箱から借りてきて、オレンジをすべらせてみた。
すると——皮が、雪のように舞い落ちた。
(僕が厨房で見た、あの光景と、同じですね)
こうして、木を削る道具は、料理の道具に生まれ変わりました。

エッチングの刃と、プレスの刃
なぜ、そんなに切れるのか。
刃の作り方が、違うんです。
- マイクロプレーン(エッチング):薬品で、刃の形を化学的に溶かし出す。ひとつひとつの刃先が、最初から鋭い。無数の小さな包丁が並んでいるようなもの。だから、食材を「切る」
- 普通のおろし金(プレス):金型で、金属を打ち抜く。刃は板と同じ厚みで、最初から鈍い。だから、食材を「引きちぎる・すりつぶす」
この違いが、そのまま——「削る」と「おろす」の違いになります。

何を、何で削るか
僕がマイクロプレーンで削っているものを、いくつか。
- パルミジャーノ(チーズ) — 細かく切らなくても、塊のまま削れる
- レモンやオレンジの皮(ゼスト) — 出会いの、あの感動の作業
- にんにく・しょうが — 厳密には「おろす」とは違う形になるけれど、力が要らず、早い
- ナツメグ — これは、小さいタイプが使いやすい
僕は、大きいゼスターと、小さいスパイス用の、2本を使い分けています。
形や大きさが違うので、削るものに合わせて持ち替える。
それだけで、仕事が速くなります。
柑橘の皮の、たったひとつのコツ
レモンやオレンジの皮を削るとき、大事なことがひとつ。
白いワタは、削らない。
香りのいい、色のついた表面だけを、かなり薄く削る。
白いところは、苦いからです。
使うのは、香りのある表面だけ。
ここだけは、気をつけてください。ワタまでいくと、苦くなります。
ちなみに、例外もあります。
カンディータ(砂糖漬けの皮)は、あの白いワタごと甘く煮るから、美味しい。

でも、料理に「香り」として使うときは、表面だけ。
そして、チーズも同じ発想で——使う直前に、削る。
削ってから時間が経つと、香りが飛んでしまいます。
* * *
「おろす」と「削る」は、別物
ここまで、マイクロプレーンの話をしてきました。
でも、正直に書きます。
マイクロプレーンは、万能ではありません。
さっき言った通り、マイクロプレーンは食材を「削る」道具。
おろし金は、食材を「おろす」——つまり、潰す道具です。
そして、潰したほうがいい料理も、あるんです。
たとえば、しょうがの搾り汁が欲しいとき。
マイクロプレーンで削ると、繊維が残って、汁が取りにくい。
こういうときは、おろし金でおろしたほうが、潰れる分、汁がよく取れます。
わさびも、そうです。
刺身を、お醤油で食べるとき。
あのわさびは、マイクロプレーンで削るよりも、おろし金——それも、鮫皮のおろしでおろすほうが、ずっと合う。
鮫皮は、金属よりも、もっと細かい。
空気を含んで、ふわっと、香りと辛みが立つんです。
- おろし金 = おろす(潰す):しょうがの搾り汁、大根おろし、わさび。潰れて出る水分や食感が主役のとき
- マイクロプレーン等 = 削る:チーズ、柑橘の皮。繊維を潰さず、香りをふわっと立てたいとき
道具に、ひとつの正解はありません。
「何をしたいか」で、選ぶ。
* * *
家庭では、どう揃えるか
そんなにたくさんは、要りません。
まず一本、と言われたら——マイクロプレーンのゼスターです。
チーズ、柑橘、にんにく、しょうが。
これ一本で、料理の香りが、ぐっと立つようになります。
それに、マイクロプレーンは、軽い力で削れます。
うちの幼児でも、簡単に削れるくらいに。
出来たてのパスタに、自分で、好きなだけチーズを削って食べる。
この上ない贅沢です。
(かけすぎて、お母さんに怒られていますが。笑)
そのうえで、和食もよくやるなら、おろし金を一枚。
しょうがの汁や、大根おろしのために。
ちなみに、僕が家で使っているのは、地元・島根の石見焼のおろし器「もとしげ」です。
陶器の目がしっかり立っていて、金属のおろし金より、早くおろせる。
底には滑り止めがついていて、片手で器を押さえなくても、ずれません。
焼物の産地に住んでいると、こういう道具に、ふつうに出会えます。

回転式のチーズグレーターは、食卓で「自分で削る楽しさ」がある道具。
パルミジャーノを、みんなで削りながら食べるのは、楽しいものです。
マイクロプレーンが活躍するチーズとスパイスの話、それから包丁まわりの話は、こちらで書いています。
チーズは、料理の世界を広げてくれた|イタリア料理人と、9つのチーズ
スパイスは、料理に立体感をつけるために使う
包丁研ぎは、失敗しても、やり直せる
まとめ
おろし金は、おろす。
グレーターは、削る。
同じように見えて、生まれも、仕事も、違う道具です。
潰して汁を出すのか。
繊維を切って、香りを立てるのか。
その違いを知っているだけで、いつもの料理が、少し変わります。
そして、マイクロプレーンのゼスターは——
もし一本も持っていないなら、いちど使ってみてほしい。
あの、皮が雪のように落ちる感覚を、味わってほしいんです。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それでは、おやすみなさい。
今日の1曲
今日の1曲は、Mr.Childrenの「終わりなき旅」。
この歌には、鉋(かんな)で命を削っていく、というたとえが出てきます。
鉋は、木を削る道具です。
木を削るヤスリから生まれた道具の話を書いた日に、ふと浮かんだ曲でした。
息を切らしてさ
駆け抜けた道を
振り返りはしないのさ
ただ未来だけを見据えながら
放つ願い
カンナみたいにね
命を削ってさ
情熱を灯しては
また光と影を連れて進むんだ

