十六年手回しだった僕が、電動ミルにあっさり陥落した話|いま選ぶなら、カリタ ネクストG2
コーヒーの話の、第6回です。
第4回で、母が送ってくれた手回しミルを十六年回した話を書きました。そのとき、こう予告しています。——次回は電動ミルの話。十六年手回しだった人間が、一台の機械にあっさり陥落した話と、いま選ぶとしたら何を選ぶか。道具の話として、ちゃんと書きます、と。
今日が、その回です。
先に、断っておきます。この記事で「これがいい」と書くのは、僕が八年使った一台だけです。使っていないものを勧めることは、しません。

先に、結論だけ
八年使って、不満は静電気だけ。いま選ぶなら、僕は同じ機械の現行機、カリタ ネクストG2を選びます。使っていない機械は、勧めません。理由は、この先で。
陥落の朝
十六年、毎朝ハンドルを回していました。それが習慣で、それが朝でした。
結婚したとき、妻の提案で、お祝いに電動ミルをもらいました。カリタのネクストG。スモーキーブルーという、少しくすんだ紺色の機械です。
初めて使った朝。いつも通り先にガスをつけて、お湯を沸かしはじめて、豆を入れて、スイッチを入れる。——もう、終わってしまった。お湯は、まだ沸く気配もない。
ええええ? 電動ミルって、こんなに早いの。
それ以来、手回しミルは休憩に入ったまま、いまも戻ってきていません。ここまでは、第4回に書いたとおりです。
速さより、淹れやすさ
電動にして何がよかったか。速いことだと思われそうですが、少し違います。
朝の一杯は、必ず淹れます。そこは天秤にかかりません。問題は、その先です。僕は一日に何杯も飲むので、飲みたくなるたびに、ガリガリしなければならない。手回しの頃は、そのたびに天秤にかけていました。コーヒーの飲みたさと、ガリガリする大変さ。飲みたさが勝ったときだけ、回す。負けたときは、飲まない。そういう昼や午後が、確かにありました。

電動になって、その天秤が要らなくなりました。飲みたいときに、飲む。速さが大事なのではなくて、コーヒーが、より淹れやすくなった。僕にとっての変化は、そちらです。
挽くところは、機械に任せました。でもペーパードリップは、いまも手でやっています。そこはこだわりでもあるし、一種の楽しみでもある。もし僕が求めているレベルのコーヒーを淹れてくれる機械があるなら、そこも任せていいのかもしれません。ただ、本当にそのレベルのものができるなら、という条件つきです。
唯一の不満は、静電気
八年使って、不満はひとつだけです。静電気。
ネクストGには、静電気を取る仕組みがついています。それでも、挽いた粉が落ちる粉受けの内側に、粉が付着する。毎回きれいに拭かないと、取れないレベルです。

これが何を意味するかというと、多少なりとも古い粉が、そこに残っているということです。気にする人は、気にすると思います。僕も最初は気になりました。昔の僕なら、だいぶ気にしていたはずです。いまは、そこまでは気にしていません。
この記事を書くのに調べて、はじめて知ったことがあります。海外のミルには、挽く前に豆へ霧吹きで水を一、二滴かけることを前提に設計されたものがある、ということ。粉が帯電しにくくなるのだそうです。うちのネクストGでも効くのか、これから試してみます。結果は、この記事に追記します。
カッター式を、避けてきた理由
電動ミルには、大きく分けて二つあります。フードプロセッサーのように刃が高速で回って豆を砕くカッター式と、二枚の刃の間で豆をすりつぶす方式。
カッター式は、コンパクトで、邪魔にならない。実家にあったのも、たしかそういう機種だったと思います。でも僕は、避けてきました。
理由は二つ。粒が揃わないこと。それと、熱が出やすいこと。豆を挽くときに熱が加わると、風味が飛ぶというか、変わってしまう。そう思っているので、手回しのときと同じ、すりつぶす方式を選びました。

粒が揃わないと、何が起きるか。細かい粉と粗い粒が混ざったまま、お湯をかけることになります。細かい粉は出すぎて苦くなり、粗い粒は出きらずに薄い。ひとつのカップの中で、濃いところと薄いところが同居する。味がぼやける、というのは、だいたいこれです。
熱のほうは、香りの問題です。豆を挽くと、香りがいちばん立つ。あの瞬間に熱が加わると、香りが先に逃げてしまう。手回しの頃、ハンドルを回しながら立ちのぼっていた香りを、機械でも残したかった。
店で見分けるなら、蓋を開けてみてください。底に飛行機のプロペラのような羽根が一枚見えたら、カッター式です。「臼式」「コニカル」「フラット」「カット刃」と書いてあれば、すりつぶす側です。値段の差は、だいたい、刃とモーターの差です。すりつぶす式は、刃を精密に作って、ゆっくり強く回すモーターが要る。だから大きくて、高い。
この名前は、ややこしいです。「臼式」が、すりつぶす式全体の呼び名。その中に、円錐の刃を筒の中で回す「コニカル」と、二枚の平たい円盤で挟む「フラット」があって、これは刃の形の違いです。
さらに、刃の作りで二つに分かれます。台所の道具でいうと、すり鉢か、千切りか。「グラインド臼」は、すり鉢です。ざらざらした面と面で、豆を押しつぶす。粒は丸っこくなって、細かい粉も混ざります。「カット臼」は、千切りの刃です。刃の角で豆を切り分けるので、粒は角ばって揃い、細かい粉が少ない。カット臼のほうが、すっきりした味になりやすいと言われます。
つまり「カット」とついていても、プロペラのカッター式とは別物で、すりつぶす側の仲間です。白状すると、カリタの「ナイスカットミル」を最初に見たとき、僕も切る式だと勘違いしていました。どちらも、豆と豆のすき間ではなく、刃と刃のすき間で粒の大きさが決まる。そこがカッター式との違いで、名前より、そこを見てください。

ネクストGは、刃の回転をわざと遅くしてあります。摩擦の熱で香りが飛ぶのを防ぐためです。十六年、手でゆっくり回していた人間には、この考え方がしっくりきました。
カッター式が悪いわけではありません。たまにしか挽かない人や、置き場所がない人には、小さくて安いほうがいい。毎日挽いて、毎日同じ味にしたい人には、すりつぶす式がいい。それだけの違いです。
うちの挽き目
挽き目は、感覚でやっています。厳密なルールはありません。

マキネッタのときは、一番細かく。水出しのアイスコーヒーも、一番細かく。ペーパードリップは、だいたい真ん中です。
水出しについては、正直に書いておきます。定石は粗挽きです。冷たい水に一晩漬けるので、粗くても十分に出るし、細かくすると濁ります。うちが一番細かくしているのは、深く考えていたわけではなく、アイスコーヒーはしっかり濃いめが好きだったから。確かに、濁りはありました。フィルターが詰まったことはありません。今度、粗めでも試してみます。
いま思えば、深煎りは苦味を楽しみたいから、少し細かくしていたのかもしれません。僕は苦めが好きで、酸味はあまり好きではないので。浅煎りは、豆の中のフルーティーな香りを楽しむものだと勝手に思っているので、少し粗めに。どちらも、感覚です。
いま選ぶなら
買い替えるなら何を選ぶか。答えは、ネクストGの現行機、ネクストG2です。
理由は単純で、八年使って、静電気以外に不満がないからです。粒は揃う。音は静か。刃は減っていない。壊れていない。すりつぶす方式で、回転が遅い。僕が道具に求めることを、全部満たしています。

ネクストGとネクストG2は、ほとんど同じ機械です。型式も同じKCG-17。何かが進化して2になったわけではなく、ロゴなどの意匠が変わった、と理解しています。だから、僕が八年使った感想は、そのままG2にあてはまります。
ひとつ、正直に書いておきます。この記事を書くのに値段を調べて、驚きました。定価で七万七千円。実売でも四万円台です。八年前、結婚祝いにこれを選んでくれた人の目は、確かでした。そして僕は、それを毎朝、当たり前のように使っていた。
高い、と思います。でも十六年の手回しの次に来た機械が八年壊れずに動いていて、この先も動きそうだと思うと、一日あたりの値段は、たいしたことがありません。
使っていないけれど、気になる一台
ここは、勧めではありません。使っていないので。
ただ、調べているうちに、ひとつ気になる機械がありました。Fellowという会社の、Opus 2。三万円台で、静電気を取る仕組みがついていて、エスプレッソの極細から粗挽きまで一台で挽ける。今年の夏に日本で発売されたばかりの機種です。
エスプレッソまで対応、というところが気になりました。ネクストGは、一番細かくしても細挽き止まりで、エスプレッソには届きません。マキネッタなら使えますが、エスプレッソマシンの粉は挽けない。そこだけは、八年使ってきた機械にない守備範囲です。
実は、家にエスプレッソマシンが欲しいと、ずっと思っています。本当にエスプレッソを淹れるなら、いまのミルでは足りない。そう分かっていたので、ミルごと考え直す必要がありました。エスプレッソまで挽ける一台なら、僕には検討の余地があります。
いまの僕には、二台目のミルを買う余裕はありません。お金が貯まったら、これを試して、正直に書きます。それまでは、ネクストG一本です。
母はいま、自動マシン
最後に、母の話を。
二〇〇一年に手回しミルを送ってくれた母は、いま七十を超えて、まだ仕事をしています。実家に帰ると、いまも毎朝コーヒーを淹れている。
ただ、いまは挽いた豆を買ってきて、昔ながらの自動のコーヒーマシンで淹れています。フィルターに粉を入れて、水を入れて、スイッチを押す。朝にそんなに余裕はないから、そこに落ち着いたのだそうです。
手回しミルを送ってくれた人が、いちばん手のかからない方式に落ち着いている。それでいいと思います。道具は、その人の朝に合っていれば、それでいい。
僕の朝には、電動ミルがちょうどよかった。それを選んでくれた人に、あらためて、ありがとう。
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今日の一曲
ミルの記事なので、この曲しかないと思いました。
日本では1961年に西田佐知子さんが歌って、大ヒットしました。もとはベネズエラの曲で、原題は「Moliendo Café」。意味は、コーヒーを挽きながら。ハープ奏者のウーゴ・ブランコが1958年につくった曲で、彼のおじにあたるホセ・マンソ・ペローニの名前で発表されました。ウーゴが当時まだ未成年だったからだそうです。
日本語の歌詞は原曲とは別の物語になっていますが、原題のほうは、まさにこの記事そのものです。十六年、手で挽きながら。いまは、機械が挽きながら。
下の埋め込みは、原曲のウーゴ・ブランコ版です。ハープの音で、コーヒーを挽く歌。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。












