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― この記事について ―

業務用の平袋を家庭用の真空パック機に入れたら、まったく空気が抜けない。機械が壊れたと思いました。原因は、袋でした。真空袋は、何でも使えるわけではありません。機械によって、使える袋が違います。

先に、結論だけ

こんばんは、ひろしです。

今日は、真空袋の話をします。真空パック機の記事の続きにあたる、実用編です。

親記事はこちら

真空パック機を、5台使ってきました|65万円と9千円の使い分け

機械そのものの選び方は、こちらに書きました。今日はその「袋」の話です。

機械が壊れたと、本気で思った

独立してすぐのころの話です。

業界では長くチャンバー式(業務用)を使ってきたのですが、独立後すぐには買えず、家庭用のFoodSaverを使っていました。そこで、業務用の平袋をそのまま入れたんです。袋なんてどれも同じだと思っていたので。

結果——まったく空気が抜けない。

何度やってもダメで、僕は機械が壊れたと思いました。買ったばかりなのに、と。

原因は、機械ではありませんでした。袋でした。

外から吸う機械には、「通り道」のある袋が要る

外吸い式の真空パック機の断面図。袋の口から空気を吸うため、エンボス加工の通り道が要る

外吸い式は、袋の口から吸います。だから内側に通り道(エンボス)が要る

家庭用の真空パック機の多くは、袋の口から空気を吸い出す方式です(外吸い式)。

ここで、袋の内側がつるつるの平袋だと何が起こるか。吸い始めた瞬間に袋の内面どうしがぴったり密着して、空気の通り道がふさがってしまうんです。入り口だけ潰れて、奥の空気は残ったまま。僕の「壊れた」の正体はこれでした。

だから外吸い式の袋には、内側に細かい凹凸(エンボス加工)が付いています。この凹凸が空気の通り道になって、奥の空気まで吸い出せる。

いっぽう業務用のチャンバー式は、袋ごと機械の槽に入れて、槽全体を減圧する方式です。袋の中と外が同時に減圧されるので、通り道は要らない。だから、つるつるの平袋が使えるんです。平袋のほうが安いので、業務ではこれが標準です。

ちなみに、チャンバー式でエンボス袋を使うのは問題ありません。槽ごと減圧するので、袋の種類を選ばないんです。ダメなのは逆の組み合わせ——外吸い式に平袋——だけ。ここが一方通行になっています。

チャンバー式の真空パック機の断面図。袋ごと減圧するため、平袋が使える

チャンバー式は、袋ごと減圧します。吸う場所が違うだけで、袋の条件が変わります

⚠️ 買うときは、「真空袋」とだけ書いてある商品をそのまま買わないでください。「エンボス加工」「外吸い式(吸引式)対応」の表記と、お使いの機種に対応しているかを確認。ここを飛ばすと、僕と同じ「壊れた?」をやることになります。

ロール式は、あると神

エンボス袋には、カット済みの袋と、ロール(筒状の長いシート)があります。

ロールは、好きな長さに切ってその場で袋を作れます。本体にロール収納とカッターが付いている機種なら、引き出して、切って、片側をシールするだけ。長いもの、変な形のもの、少量のもの、全部に対応できます。

収納やカッターの無い機種だと、採寸してハサミで切ることになって、地味に面倒です。機種選びのとき、ここは見ておいて損がありません。

エンボスの弱点=食材に模様がつく

エンボス袋にも、弱点があります。凹凸の模様が、食材の表面にうっすら写るんです。

味には関係ありません。でも、たとえばテリーヌのような「表面が命」のものだと気になります。実物がこちらです。

真空パックしたイカの表面に、専用袋のエンボス加工の網目模様がくっきり転写されている

イカの表面に、袋の網目がくっきり。味は変わりませんが、見た目は変わります

袋の正体は、ナイロンとポリエチレンの二人組

真空袋の層構造の図。外側のナイロンは守る役、内側のポリエチレンは熱で貼り付く役

外側のナイロンは守る役、内側のポリエチレンは貼り付く役。二人組です

真空袋の材質は、多くがナイロンとポリエチレンを貼り合わせた多層構造です。ラップの記事で「素材にはそれぞれ性格がある」と書きましたが、袋も同じです。

ナイロン(外側):強度と、酸素を通しにくい性質の担当。
ポリエチレン(内側・食品に触れる面):熱で溶けて貼り付く性質の担当。シールできるのはこの層のおかげです。

一枚の袋の中で、役割分担している。ラップと同じで、「どれが偉い」ではなく組み合わせです。

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ポリエチレン、PVDC、PVC。素材の性格から使い分けを書きました。袋の二人組と、同じ考え方です。

選ぶ基準は、銘柄より「厚み」と「大きさ」

骨付き肉・タラバガニ脚・エビと、厚手または二重の真空袋の図。尖ったものは厚手か二重に

骨・殻・トゲは、内側から袋を突き破ります。厚手か、二重で

じゃあどの袋を買えばいいのか。僕の答えは、銘柄ではなく厚みと大きさです。

厚み:骨付き肉、殻付きの貝、トゲのある魚——尖ったものは袋に穴を開けます。しかもその場では気づかず、冷蔵・冷凍している間に後から開くことがある。気づいたら真空が解けていた、というやつです。尖ったものは厚手の袋にするか、二重にする。

大きさ:大きすぎる袋は無駄なだけですが、小さすぎる袋は失敗のもとです。食材を入れるときに袋の口(シールする部分)が汚れて、シールが甘くなる。口を折り返して入れる余裕のある大きさを選びます。

汁物は、機械に吸わせない

失敗が多いのが、汁物です。

外吸い式で汁気のあるものを引くと、空気と一緒に汁が機械へ吸い込まれていきます。汁物モードやパルス(手動で吸引を止められる機能)のある機種なら、汁が上がってくる手前で止める。

「モードがあれば汁物も完全真空にできる」わけではありません。汁を吸わせない位置で止める、が正解です。完全な真空が欲しい汁物は、チャンバー式の世界です。

ポタージュのような粘度のあるものは、さらに気難しい。昔、旧型のチャンバー式で引いたら噴き出したことがあります。機種によって得意不得意があるので、少量で試してから。

入れすぎない

飲食あるあるを、ひとつ。欲張って入れすぎない。

袋に目一杯詰めると、減圧したとき中身が口へ向かって上がってきます。シール部を汚して失敗するか、あふれるか。余白は、安全装置です。

基本は、冷やしてから真空

もうひとつ基本を。温かいものは、冷ましてから真空にします。

気圧が下がると、沸点が下がります。ガストロバックの記事で書いた、あの現象です。温かい液体を減圧すると、減圧の強さによっては60℃くらいでも沸騰が始まって、袋の中で暴れます。調理→急冷→真空。この順番が基本です。

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約80万円の、圧力鍋の逆をやる機械|ガストロバック

「気圧が下がると沸点が下がる」を料理に使う機械の話。減圧沸騰の現象そのものを、丁寧に書いています。

例外=ホットパックという方法

ホットパックの流れの図。熱いまま袋に詰めて、平らにシールし、袋ごと氷水で急冷する

熱いまま詰めて、平らにして、袋ごと氷水へ。急冷までがホットパックです

ただし、例外があります。ホットパックです。

熱いまま袋に小分けして、シールして、袋ごと氷水に沈めて急冷する。大鍋いっぱいのカレーやソースを鍋ごと冷やすのは大変ですが、袋に分けてしまえば、薄く平らになって一気に冷える。真空パック機の記事で「これが便利」と書いた方法です。

⚠️ ここで、必ず言っておきたいことがあります。ホットパックは、レトルトではありません。市販のレトルト食品は、密封したあとに専用の装置で高温高圧の殺菌をしています。ホットパックにその工程はありません。常温で保存できるようにはならないので、急冷して、冷蔵か冷凍で。ここを混同すると危険です。

まとめ ― 袋は、機械とセットで考える

機械と袋の相性図。ダメな組み合わせは外吸い式と平袋のひとつだけで、チャンバー式はどちらの袋も使える

ダメな組み合わせは、ひとつだけ。この1枚だけ覚えて帰ってください

整理します。

外吸い式なら、エンボス袋。チャンバー式なら、平袋。選ぶ基準は銘柄より厚みと大きさ。尖ったものは厚手か二重。汁物は吸わせない。入れすぎない。冷やしてから。例外のホットパックは、レトルトではない。

袋は消耗品ですが、「どれでも同じ」ではありません。機械とセットで考える。それだけで、僕の「壊れたと思った」は防げます。

僕の条件に合う、外吸い式用のエンボス袋。20×30cmはいちばん使いやすい大きさです。カット済みなので、ロール収納のない機種でもそのまま使えます。

ロール式の替え。好きな長さに切って使えます。カットボックス付きなので、本体にカッターの無い機種でも困りません。

チャンバー式をお使いの方へ、業務の定番の平袋。クリロン化成の彊美人(きょうびじん)です。⚠️エンボス加工ではないので、外吸い式の機械では使えません。

今日の1曲

ポラリス「真空」です。

真空袋の記事なので、「真空」。そのままじゃないか、と思われるかもしれません。でも、この曲を選んだのはタイトルだけが理由ではありません。

ポラリスを知ったのは、フィッシュマンズ繋がりでした。ベースの柏原譲さんは、フィッシュマンズで弾いていた人です。あの浮遊感の血筋が、この曲にも流れています。

lush / hush / gash / wash lash / mash / dash / rush
bush / wish / dish / ash fish / brush / mosh / hash
feelin’ your sound feelin’ your sight feelin’ your smile
always/ all the way / for days / oh daze
lush / hush / gash / wash lash / mash / dash / rush
feelin’ your sound feelin’ your sight feelin’ your smile
always/ all the way / for days / oh daze

ポラリス「真空」より

歌詞を見てください。lush、hush、wash、rush——意味より先に、音が並んでいます。言葉が意味を運ぶ前の、音そのものの気持ちよさ。

真空って、本当は「音のない場所」です。空気がなければ、音は伝わらない。その名前を持った曲が、こんなに音の気持ちよさでできているのが、なんだかいいなと思うんです。

袋の中の静かな真空と、その外側で鳴っている音楽。今日の記事は、地味な袋の話でした。でも、あの静かな袋の中で、食材はちゃんと守られています。

本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それでは、おやすみなさい。