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肉を買ってきたら、冷蔵庫のどこが正解なのか。料理人が最初に考えるのは、実は「どこへ入れるか」ではなく「いつ使うか」です。チルドか冷凍かの分かれ道から、トレーのまま冷凍していいのかまで。保存シリーズの肉編です。

こんばんは、ひろしです。

今日は、肉の保存の話です。前回の「食材はどこへ入れるか」の続き、肉の深掘り編です。

先に、結論だけ

・買った時点で「いつ使うか」を決める。それで置き場所が決まる
・今日明日ならチルドへ。しばらく使わないなら、迷わず早めに冷凍
・ひき肉だけは特別扱い。その日に使うか、その日に冷凍
・冷凍するならトレーのままは損。小分けして、空気を減らして、平たく、早く

肉の保存ボード(これ1枚で結論)

料理人が最初に考えるのは、「いつ使うか」

置き場所より先に「いつ使うか」を決める(図解)

「肉はチルドに入れましょう」——それ自体は正しいのですが、順番が違うと僕は思っています。置き場所は、結論であって、出発点ではない。

僕がいたワイナリーのレストランでは、肉が届いた瞬間に、すべての肉の行き先が決まっていました。

  • 鶏むね肉——届き次第すぐソミュール(塩水)に漬けて、翌日火入れ
  • 鶏もも肉——その日か翌日に調理
  • 豚肉——ブロックで仕入れて、早めに火入れ
  • 和牛——ランイチという10キロほどのブロックで仕入れて、その日か近いうちに部位ごとに分けて掃除。部位ごとに真空して冷蔵し、注文のたびに開けて切り出す

「とりあえず冷蔵庫」という肉は、一つもありません。いつ、何になるかが決まっているから、置き場所と包み方が決まるんです。

家庭でも、考え方は同じで大丈夫です。買った時点で、ざっくり三択——今日・明日使う/数日中に使う/しばらく使わない。これを決めるだけで、あとの判断はほとんど自動になります。

今日・明日使うなら、チルドへ

生の肉は、法律で「10℃以下で保存」と決められています。パックの消費期限は、その条件で保存した場合の期限です。だから家庭でも、冷蔵庫の中のできるだけ低温のゾーン——チルド(0〜3℃)が定位置。食肉の業界団体も「チルドやパーシャルが肉の鮮度保持に最適。なければ冷蔵室の下段へ」としています。

そして、肉の種類で持ち時間が違います。業界団体の目安を並べると、きれいな階段になります。

肉の持ち時間の階段(冷蔵での目安)
  • 牛ブロック——約5日
  • 牛スライス——約3日
  • 豚肉——2〜3日(豚は見た目から傷みが分かりにくいそうです)
  • 鶏肉——翌日には使い切りたい
  • ひき肉——できればその日のうちに

覚え方はこうです。「牛→豚→鶏」の順に短くなり、「塊→薄切り→ひき肉」の順に短くなる。日数を暗記しなくても、この二つの矢印だけで判断できます。もちろんこれは目安で、最後は見た目と匂い——ただし五感は「捨てる理由」にだけ使ってください。

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鶏肉の扱いの詳しい話はこちら。ちなみに農水省は「鶏肉は洗わないで」と公式に言っています(水はねで菌が飛ぶため)。

ひき肉だけは、特別扱い

同じ肉でも、ひき肉は別物(図解)

同じ肉でも、ひき肉は別物だと思ってください。

挽くということは、空気に触れる面を一気に増やすということです。しかも業界団体の資料にはもうひとつ理由が書いてあります——「電動機械でひくため、多少の熱が加わる」。表面積と、加工時の熱。ひき肉が肉の中でいちばん足が早いのには、ちゃんと理由があるんです。

だから運用はシンプルに。その日に使うか、その日に冷凍するか。僕は家でもこの二択にしています。

しばらく使わないなら、迷わず冷凍

三択の最後、「しばらく使わない」。ここで大事なのは、冷蔵庫の中で数日眠らせてから慌てて冷凍するのではなく、買ったその日に冷凍することです。冷凍は時間を止める技術ですが、止めた時点の鮮度より良くなることは絶対にありません。

で、ここからが実践編です。読者の方が本当に知りたいのは、たぶんこれだと思います。

スーパーのトレーのまま、冷凍していい?

トレーのまま冷凍は損(図解)

正直に言うと、うちの冷凍庫にも、トレーのまま入っていることがあります。僕は挽肉もスライス肉もラップに包み替える派(場所も取らないので)、妻はトレーのまま派。どちらの気持ちも分かります。疲れた日に包み替える気力なんて、ないですから。

そのうえで、事実だけ並べます。冷凍食品協会もラップメーカーも冷凍食品メーカーも、答えは一致しています——トレーのままは、おすすめされていません。理由は三つ。

  • 発泡スチロールのトレーは断熱材——熱を通しにくい容器に入れたまま凍らせるので、凍るのが遅くなる
  • ゆっくり凍ると、肉が傷む——後で説明する氷結晶の話です
  • ドリップ吸収シートがそのまま——肉の下に敷いてあるシートごと凍らせるのは、衛生的にも良くない

ニチレイの資料には、プロらしい指摘もありました。買った時点でドリップ(赤い液体)が多く出ている肉は、一度冷凍・解凍された可能性がある——その肉の再冷凍は避けたほうがいい、と。

だから、結論はこうです。今日明日で使うならトレーのままチルドで何の問題もない。冷凍するなら、ひと手間かけて包み替える価値が確実にある。うちも、冷凍する分だけは僕が包み替えています(笑)。

なぜ「早く凍らせる」と美味しいのか

早く凍らせるが美味しさを守る理由(氷結晶の図解)

包み替えの意味を支えているのが、氷結晶の話です。

水がいちばん凍りにくく、氷の結晶が育ちやすい温度帯があります。-1〜-5℃——「最大氷結晶生成温度帯」です。ここをゆっくり通過すると、肉の中の氷の粒が大きく育って、細胞を内側から壊します。壊れた細胞は水分を抱えていられなくなり、解凍したときにうま味ごとドリップになって流れ出す

冷凍食品の工場は、-30〜-40℃の急速凍結でこの温度帯を一気に駆け抜けます。家庭の冷凍庫は約-18℃なので、どうしてもゆっくりになる。だからこそ、家庭では「薄く、平たく、金属トレーの上で」凍らせるんです。厚みを減らして、熱をよく伝える金属に載せる——家庭にできる範囲で、駆け抜ける速度を上げる工夫です。

形ごとの、冷凍のしかた

薄切り肉——1回で使う量ずつ、ラップでぴったり包んで、平たく。厚い塊にしないこと。

ひき肉——使う量ごとに、薄く平らにして包む。袋に入れて薄くのばし、菜箸で筋を付けておくと、凍ったままパキッと割って使えます。

塊肉・ステーキ肉——表面にラップを密着させて、空気との接触を減らす。そのうえで冷凍用保存袋に入れて空気を抜く。ラップだけだと剥がれたり霜が付いたりするので、袋との二重が基本です。真空パック機があれば理想ですが、なくてもこの二重でかなり守れます。

お店では、和牛の部位ごとの保存も、掃除で出たスジの冷凍も、ぜんぶ真空でした。スジは真空で冷凍して、貯まったらミンサーで挽いてラグーにしたり、焼いて骨と一緒にスーゴ(フォン・ド・ヴォー)にしたり。冷凍は「保存」であると同時に、「貯めて、別の料理にする」ための道具でもあるんです。

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スジを貯めてラグーにする話の原点は、修行時代のまかないでした。

覚えるのは、4つだけ

冷凍で覚えるのは4つだけ(図解)

冷凍のテクニックはいろいろ言われますが、原理はぜんぶ同じです。

  • 小分け——1回で使う量に。解凍のやり直しをしないため
  • 空気を減らす——ラップ密着+袋の二重。乾燥と酸化を防ぐ
  • 平たく——薄いほど早く凍り、早く解ける
  • 早く凍らせる——金属トレーに載せる。急速冷凍室があれば使う

保存できる期間は、出典によって幅があります。農水省は2〜3週間以内を、メーカー各社は長くても1か月・ひき肉は2週間を目安に挙げています。美味しく食べるなら2〜3週間、と覚えておけば間違いありません。

敵は温度より、空気——冷凍焼けの話

冷凍庫の敵は温度より空気(冷凍焼けの図解)

僕の失敗談をひとつ。お店で、骨付き肉の真空袋にいつの間にか空気が入ってしまい、冷凍焼けさせてしまったことがあります。骨の角は袋を傷つけやすいんです。

冷凍焼けの正体は、乾燥と酸化です。冷凍庫の中でも食品の水分は少しずつ抜けていき、そこへ空気が触れると脂が酸化する。色がくすんで、味が確実に落ちる。真空にしていても、袋に穴が開けば同じことが起きる——冷凍庫の中の敵は、温度ではなく空気なんです。「空気を減らす」が4か条に入っている理由が、これです。

解凍は、流水か冷蔵庫

解凍は流水か冷蔵庫(図解)

最後に、解凍を短く。厚労省の家庭向け指針は「解凍は冷蔵庫の中か電子レンジで。自然解凍は避ける」「使う分だけ解凍し、冷凍や解凍を繰り返さない」です。室温に放置する解凍は、菌が増えやすい温度帯に長く置くことになるので、やめてください。

僕の現場のやり方は、圧倒的に流水でした。袋のまま流水に当てて、解けたらすぐ使う。前日から冷蔵庫に移しておくこともありましたが、時間が読めないときは流水がいちばん確実です。薄切りや小分けのひき肉なら、凍ったまま加熱調理に入ってしまうのも立派な手です。

まとめ ― 肉は、温度と時間から考える

日数の数字は、忘れてしまって構いません。持ち帰ってほしいのは、判断軸ひとつです。

「どこへ入れる?」より先に、「いつ使う?」。

今日明日ならチルドへ。しばらく使わないなら、その日のうちに、小分けして、空気を減らして、平たくして、冷凍へ。肉が届いた瞬間に行き先を決める——厨房でやっていたことは、家庭の冷蔵庫でもそのまま使える考え方です。

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今日の1曲

今日の一曲は、映画『アイデン&ティティ』の劇中バンド・スピードウェイで「君がロック」。歌っているのは、峯田和伸さんです。

本当は、同じ映画の「焼肉食いてえ」を貼りたかったんです。「ロースももってこい!」って、肉の記事にこれ以上ない曲なので。でも、配信がありません。「君がロック」も、ありません。サントラCDの中にしか存在しない、幻の曲たちなんです。

この映画、大学生の頃にバンドのメンバー3人で観に行きました。3人とも、号泣(笑)。ギターの子はそのあと一人で2回、映画館に観に行ったそうです。僕はサントラもDVDも即買いして——DVDは先輩に貸したら、返ってこなくなりました。数年前に中古で買い直したのは、また初回限定版です。限定版特典の、公開記念ライブの映像が最高すぎたので。

配信がないので、今日はsong.linkの代わりにサントラCDのリンクを。配信で聴けない曲が、まだ世の中にはあるんですよね。

君が持ってるもので
僕を壊して欲しい
 
僕が欲しいもの
みんな君が持ってる
 
君が持ってるもので
僕を包んで欲しい
 
僕が欲しいもの
みんな君が持ってる
 
君がロックで
君がロックさ
 
僕にとっての
君がロックだ
 
ah

スピードウェイ「君がロック」(映画『アイデン&ティティ』オリジナルサウンドトラックより)

本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それでは、おやすみなさい。