冷蔵庫は、ひとつの温度ではない|チルド・野菜室・冷凍室は、何℃なのか
― この記事について ―
冷蔵室、チルド、野菜室、冷凍室。冷蔵庫の中には、温度の違う部屋がいくつもあります。20年以上、業務用冷蔵庫の温度をチェックしてきた僕が、家の冷蔵庫のことは意外と知らなかった——という話から始めます。保存の話の、土台になる一本です。
こんばんは、ひろしです。
今日は、冷蔵庫の話をします。それぞれの部屋が何℃で、なぜ温度が違うのか、という土台の話です。
先に、結論だけ
・冷蔵庫は「ひとつの温度の箱」ではない。温度の違う部屋の集合
・目安は——冷蔵室2〜6℃/チルド0〜3℃/野菜室3〜8℃/冷凍室-20〜-18℃
・ただしこの数字は「食品なし・扉を閉めた状態」の目安。実際の庫内は、もっと動く
葉物野菜が、凍っていた
まず、僕の失敗談から。
あるとき、冷蔵庫の設定を強くしすぎて、葉物野菜を凍らせてしまったことがあります。シャキッとさせたい葉物が、解凍するとくたっとしてしまう、あれです。
業務用の冷蔵庫なら、僕は温度に気を使う人間です。でも家の冷蔵庫については、どの場所が何℃なのか、ちゃんと知らなかった。知っていれば、防げた失敗でした。
熟成魚の記事で「冷蔵室の5℃とチルド室の1℃は、安全のうえでは別物」と書きました。じゃあ実際、それぞれの部屋は何℃なのか。今日はそこを、メーカーの公式情報で一度きちんと整理します。
現場では、温度をチェックし続けていた
先に、僕の背景を少しだけ。厨房の冷蔵庫には温度計が付いていて、温度チェック表に毎日記録します。ピッツァ生地の発酵に使う冷蔵庫は、進めたくないときは4℃、ゆっくり進めたいときは12℃——その日の生地に合わせて、設定を変えていました。
プレハブ冷蔵庫の温度がおかしくなって、夜中に業者さんに来てもらったこともあります。排熱がこもって冷えなくなることもある。だから、冷蔵庫の温度を気にする癖は、体に染みついているんです。
それでも——同じ冷蔵庫の中の「どこが何℃か」までは、調べたことがありませんでした。今回調べてみて、面白いことだらけでした。
まず一覧|部屋ごとの温度の目安

| 部屋 | 目安の温度 | 役割 |
|---|---|---|
| 冷蔵室(棚) | 約2〜6℃ | 日常の保存の主戦場 |
| ドアポケット | 棚より1〜2℃高め | 調味料・飲み物。開けるたび外気に触れる場所 |
| チルド | 約0〜3℃ | 肉・魚・凍らせたくない生鮮 |
| パーシャル | 約-3℃前後 | 微凍結。肉・魚をもう少し長く |
| 野菜室 | 約3〜8℃ | 冷やしすぎない・乾かさない |
| 冷凍室 | 約-20〜-18℃ | 長期保存 |
(東芝・パナソニック・日立・シャープ各社の公式公表値をもとに帯で整理。機種・設定で異なります)
大事なのはこの表の数字より、「温度が違うのは、役割が違うから」ということです。ひと部屋ずつ見ていきます。
チルドは「凍る寸前」、パーシャルは「凍りかけ」
チルドは約0〜3℃。パナソニックの説明を借りると「凍り始める寸前の温度」です。肉や魚など、傷みやすいけれど凍らせたくないものの場所。熟成魚の記事で書いた「3.3℃ライン」の下に潜り込める、冷蔵庫の中でいちばん冷たい非凍結ゾーンです。
パーシャルは約-3℃前後。こちらは表面がわずかに凍る「微凍結」で、酸化を抑えながらチルドより長く保存する設計です。凍る寸前で止めるのがチルド、少しだけ凍らせるのがパーシャル——名前は似ていますが、0℃をはさんで別の世界です。
正直に言うと、僕も家のパナソニックのチルドがどこなのか、あやふやでした。たぶん、製氷用の水タンクの横のケースがそれです。プロでもこのレベルなので、一度、取扱説明書を開いて確認する価値があります(笑)。
野菜室が「少しぬるい」のは、わざとです

野菜室は約3〜8℃で、冷蔵室より少し高め。手抜きではなくて、わざとです。
野菜には、冷やしすぎると傷む「低温障害」を起こすものがあります(ナスが代表です)。それに、野菜がいちばん嫌うのは乾燥。だから野菜室は、少し高めの温度と高めの湿度で、「冷やす部屋」ではなく「野菜が休める部屋」として設計されています。
僕が凍らせてしまった葉物野菜も、冷蔵室の冷気の吹き出し口の近くに置いていたのが原因でした。野菜は、野菜のための部屋へ。単純なことを、僕は失敗してから覚えました。
冷凍室の「-18℃」には、二段構えの理由がある

冷凍室は約-20〜-18℃。この「-18℃」という数字、調べてみたら面白い構造になっていました。
- 法律のライン=-15℃以下。食品衛生法の冷凍食品の保存基準です。ここまで冷やせば、微生物は増殖できません。つまり「安全」はここで足りる
- 品質のライン=-18℃以下。日本冷凍食品協会の自主基準で、国際基準(Codex)とも一致します。酸化や酵素による変化まで抑えて、おいしさを約1年保つための温度です
安全は-15℃で足りる。でも世界は、おいしさのために3℃余分に冷やしている。——冷凍室の設定ひとつに、安全と美味しさの二段構えが入っているんです。
メーカー独自の部屋は、「温度帯の名前」だと思えばいい
カタログには、独自の名前が並びます。日立の「まるごとチルド」は冷蔵室全体を約2℃に。三菱の「氷点下ストッカー」は約-3〜0℃で凍らせずに保存。同じく三菱の「切れちゃう瞬冷凍」は約-7℃で、凍っているのに包丁が入る。
名前は違っても、やっていることは「どの温度帯を、どこに作るか」です。0℃前後(チルド帯)、-3℃前後(微凍結帯)、-7℃(半冷凍帯)——名前に惑わされず温度帯で見ると、自分の冷蔵庫に何ができて何ができないかが、すっと分かります。
ただし——この数字、「食品なし」の目安です
ここまでの数字には、実は全メーカー共通の注意書きが付いています。「周囲温度32℃・食品を入れず・扉を閉めて安定した状態での目安」——つまり、実際に使っている冷蔵庫の中は、この通りではないんです。
庫内の温度を動かす要因は、たくさんあります。
- 扉の開け閉め——開けるたびに外気が入ります。ドアポケットが「棚より高め」なのもこのため
- 詰めすぎ——冷蔵室は冷気の通り道が要るので7割までが目安。逆に冷凍室は隙間なく詰めた方がいい。凍った食材同士が保冷剤の役割をするからです
- 省エネ機能——東芝の公式情報では、エコ機能の作動中は通常より約2〜3℃高めで運転されます
- 霜取り運転——自動霜取りの間、庫内温度は一時的に上がります

厨房で排熱がこもって冷えなくなった冷蔵庫を見てきた身としては、この「表示と実際は違う」が、いちばん伝えたいところです。設定は「中」でも、真夏の詰め込んだ庫内は、思ったより冷えていないかもしれない。
知る方法は、ふたつ
じゃあ、自分の冷蔵庫の本当のところを知るには。方法はふたつです。
ひとつは、取扱説明書を読むこと。自分の機種のどの引き出しがチルドで、何℃設定なのか。僕のように「たぶんここ」で使っている人は、まずここからです。
もうひとつは、測ること。ここで、僕の職業病の話をさせてください。
業務用の冷蔵庫や冷凍庫には、必ず外側に温度表示が付いています。扉を開けなくても、通りすがりにチラッと見るだけで、いまの庫内温度が分かる。あの「チラッと見て、安心する」という感覚が体に染みついているので、何も表示のない家庭用の冷蔵庫が、僕は少し不安なんです(笑)。
その不安を埋めてくれるのが、冷蔵庫用の温度計です。庫内に置いておくだけのアナログのもので、数百円から。厨房の温度チェック表と同じことが、家庭でもできます。凍った葉物野菜の失敗は、これで防げるし、真夏に「なんだかぬるい気がする」というときの答え合わせもできます。
料理用の芯温計とは別の道具です。芯温計は「食材の中の温度」、庫内温度計は「置き場所の温度」。役割が違います。
まとめ ― 冷蔵庫は、温度の違う部屋の集合
整理します。
冷蔵庫は、ひとつの温度の箱ではありません。凍る寸前のチルド、野菜が休める野菜室、おいしさまで守る-18℃の冷凍室——役割の違う部屋の集合です。
そして公式の数字は「食品なし・扉を閉めた状態」の目安。実際の庫内は、開け閉めと詰め方と季節で、いつも動いています。
厨房で毎日温度チェック表を付けていた僕が、家の冷蔵庫のチルドの場所をあやふやにしていたくらいです。まずは取扱説明書から。それだけで、葉物野菜を凍らせるような失敗は、ぐっと減るはずです。
今日の1曲
温度の記事の最後に、「もっと冷たく」というタイトルの曲を。スコットランドのバンド、トラヴィスの『The Boy With No Name』の後半に、静かに置かれている一曲です。冷蔵庫の低い運転音の隣で流れていてほしい音楽です。
公式の音源です。
I’m in love with everything
With every face I’ve ever seen
And every place I’ve ever been
Has left its mark upon my worries
I colour in the world I see
I pick apart the melody
‘Cause maybe there’s a symphony
Caught inside but there’s no way out
And the sky is falling down
And there’s an angel on the ground, it’s getting colder
I’m standing looking down
There’s not a sound around the town, it’s getting colder
ColderTravis「Colder」(Words & Music by Fran Healy)より
本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それでは、おやすみなさい。
