― この記事について ―

約80万円の減圧調理機・ガストロバックの話です。なぜ買ったのか。買う前に想像していた使い方と、いまの使い方がどう違うのか。魚のアラの出汁を身へ戻す、塩味を中まで均一に入れる——買ったときには想像していなかった使い方ばかりでした。

こんばんは、ひろしです。

約80万円する調理機器を、買いました。

でも、最初から欲しかったわけでは、ありません。

今日はその機械——ガストロバックという減圧調理器の話をします。なぜ買ったのか。買う前に想像していた使い方と、いまの使い方がどう違うのか。この機械で、僕の料理がどう変わったのか。

ガストロバックの鍋の中で、網かごに入った白身魚とラディッシュが出汁に浸かっている

仕込み中のガストロバック。網かごで押さえた食材が、冷たい出汁に沈んでいます

ガストロバックという機械

スペインで生まれた、減圧しながら調理できる機械です。

鍋の中の気圧を下げられる。気圧が下がると、水は100℃よりずっと低い温度で沸きます。50℃くらいで沸かせます。そして、減圧した状態から圧力を戻すとき、食材のまわりの液体が、食材の中へ入っていく。

つまり、大ざっぱに言えば「低い温度で火を入れられて、味を中まで含ませられる機械」。僕のは単相200Vで、鍋の容量は10リットルほど。家庭のキッチンに置くようなものではありません。

中がどうなっているかは、写真で見てもらうのが早いと思います。

圧力鍋の、ちょうど逆です

「減圧」と言われてもピンと来ないと思うので、圧力鍋にたとえさせてください。

圧力鍋は、鍋を密閉して加熱します。水が沸いて蒸気が出るのに、逃げ場がない。だから中の圧力が上がります。そして圧力が上がると、水の沸点も上がる。家庭用のものだと、高圧で約120℃、低圧で約113℃です。

100℃で頭打ちだったところに、120℃という上の温度が使えるようになる。すじ肉のコラーゲンがゼラチンに変わるのも、豆が柔らかくなるのも、温度が高いほど速く進みます。だから、短い時間で煮込める。

ガストロバックは、その逆をやります。空気を抜いて圧力を下げるので、沸点も下がる。50℃くらいで沸きます。

圧力鍋は圧力を上げて120℃、ガストロバックは圧力を下げて50℃で沸くことを比べた図

片方は圧力を上げ、もう片方は下げます。向きが正反対です

ただ、違いは向きだけではありません。

圧力鍋は、時間を縮める道具です。やっていることは普通の煮込みと同じで、それを速く終わらせている。時間さえかければ、圧力鍋がなくても同じものは作れます。

ガストロバックは、時間を縮めません。むしろ、あとで書くように三日かけます。これは、普通に加熱していては起きないこと——食材の中の空気を抜いて、そこへ別の液体を入れる——をやるための道具です。こちらは、時間をかけても代わりがききません。

速さの道具と、別のことをするための道具。同じ「圧力をいじる鍋」でも、向いている方向がまるで違います。

ふつうの鍋と、空気を抜いた鍋の沸点を比べた図

ふつうの鍋では100℃で沸く水が、空気を抜いた鍋では50℃くらいで沸きます

食材の中の空気が減圧で抜けていく様子の図

虫眼鏡の中が、食材の内部です。すきまの空気が、泡になって出ていきます

ガストロバックを分解した状態。本体・透明の蓋・網かご・ホース

洗ったあとの状態です。透明の蓋、網かご2枚、それに真空用のホース。中はこうなっています

欲しかったから、買ったのではない

存在は、前から知っていました。ただ、知った瞬間に欲しくなったわけではなくて、「こういう機械があるんだな」くらいの認識でした。低温調理器のときも、そうでした。

僕の場合、まず作りたい料理があって、方法を考えて、必要になった段階で道具を入れることが多いです。

ガストロバックも、その順番でした。作りたい料理を考えていくうちに、「これをやるなら、この機械が必要なのではないか」に行き着いた。当時、自分で調べた範囲では、同じことができる別の機械を見つけられませんでした。

約80万円です。当然、かなり悩みました。

それでも買ったのは、高価な調理器具が欲しかったからではなく、その先に作りたい料理があったからです。

最初に想像していた使い方

買った当初、強くイメージしていたのは「低温で火を入れながら、同時に味を含ませる」でした。

肉や魚を調味液や出汁に浸して、減圧する。低めの温度で火を入れる。同時に、味が中まで入っていく。最後に表面を焼く。

実際、それはできます。肉でも魚でも、低温で火を入れながら味を含ませることは可能です。

でも、使い続けていくうちに、自分にとってのこの機械の価値は、そこではないと思うようになりました。

使ってみて分かったこと ― 魚が、暴れる

実際に使って、最初に分かったことがあります。

温かい状態で減圧すると、沸点が下がるぶん、液体がかなり激しく沸騰することがあるんです。

言葉のとおり、鍋の中で魚が暴れます。身が持ち上がって、ゆれて、繊細なものだと形が崩れていく。

僕は最初、「減圧しながら加熱するのが基本だろう」と思っていました。でも、あの激しい沸騰は、魚の食感にはっきり影響します。

温かいまま減圧すると魚の身が崩れ、冷たい状態から減圧すると静かに抜けることを比べた図

温かいまま抜くと、身が動いてしまいます。冷たい状態から抜けば、静かです

だからいまは、旨味を含ませる用途では、加熱の機能をほとんど使っていません。

むしろ逆で、食材も液体も、十分に冷たい状態で減圧する。出汁なら、10℃以下くらいまでしっかり冷やしてから使うことが多いです。

機械を買えば、自動的にうまくいくわけではない。使いながら、素材ごとの扱いを覚えていく必要がある。ここが、この機械のいちばん面白いところかもしれません。

いまの使い方 ― 水分を抜いて、その分の旨味を入れる

いまの僕の使い方は、こうです。

まず、食材の余分な水分を抜く。脱水シートを使うこともあります。完全に乾かすのではなく、余分な分だけ。塩やトレハロースで、さらに水分を調整することもあります。

一度、水分を抜く。そして、その抜いた分に、別の旨味を入れる。

そのあと、冷たい出汁と一緒にガストロバックへ入れて、減圧する。僕の頭の中にあるのは、このイメージです。

魚 ― アラの旨味を、身へ戻す

魚を捌くと、頭、骨、アラが出ます。

僕は以前から、これを捨てずに出汁を取って、ソースに使ってきました。

ガストロバックを使うようになって、その使い方が変わりました。

アラや骨から取った出汁を、冷やす。その出汁に魚の身を浸して、減圧する。そして、圧力を戻す。すると、出汁が身の内部へ入っていきます。

見た目はシンプルな切り身なのに、その中に、魚全体から取った旨味が入っている。

魚を身とアラに分け、アラの出汁を取り、その出汁を身の中へ戻す3コマの図

捨てるところから取った出汁が、身の中へ戻っていきます

ソースとして外から添えるのではなく、魚のエッセンスを、魚の身へ戻す。「魚を丸ごと食べてもらう」ような感覚に近いです。

肉 ― 筋と端材の出汁を、肉へ戻す

肉をブロックで仕入れて掃除すると、筋や端材が出ます。ものによっては骨も。

これを焼いたり煮たりして、出汁を取る。以前なら、その出汁はソースに使うことが多かった。いまは、その出汁を肉の中へ戻すことがあります。

焼いた筋の香り。端材から取った旨味。それが、肉本体の内部にある。

肉から筋と端材を取り分け、出汁を取り、その出汁を肉の中へ戻す3コマの図

肉も同じです。掃除して出た筋と端材から取った出汁を、肉本体へ戻します

出来上がりは見た目にはかなりシンプルなのに、食べると、噛んだ奥に複雑な旨味がある。ソースで味を足すのではなく、肉自体に味を持たせる。いまの僕にとって、この機械のいちばん重要な使い方です。

塩味が、中まで均一に入る

これまで、肉の塊はこう焼いてきました。冷蔵庫から出して常温に戻し、焼く直前に表面へ塩こしょうをして、焼く。いいところで火から下ろして、アルミホイルで包んで休ませる。よく言われるのは、焼いた時間と同じだけ休ませてから切る、というやり方です。

肉を常温に戻し、表面に塩こしょうをして焼き、アルミホイルで休ませて切るまでの5コマの図

これまでずっと、この順番で焼いてきました

このやり方が悪いわけではありません。ずっとこうしてきましたし、いまもそうすることはあります。

ただ、この順番だと、塩味はどうしても表面にしかつきません。表面はしっかり塩気があるのに、中心は薄い。だから食べるときに、塩を添えたりする。

では、先に塩をして寝かせてから焼けばいいのでは——と思うかもしれません。実際、塊肉を前日から塩をして冷蔵庫に置くやり方は、よく知られています。塩がいったん水を引き出して、時間をかけてその水が戻るときに、塩も一緒に中へ入っていく、という理屈です。

僕も試したことがあります。でも、うまくいきませんでした。

水が出たまま戻りきらなかったのか、塩の量が多すぎたのか、正直なところ記憶がはっきりしません。ドリップが出て、焼き上がりがパサついた、という印象だけが残っています。

一般に言われているのは、塩をするなら焼く直前か、少なくとも45分以上前か、そのどちらかということです。中途半端な時間だと、引き出された水がまだ表面に残っていて、焼き色がつきにくい。

いまのやり方は、そこを機械で解いています。下処理の段階で、液体と一緒に塩味や旨味を内部へ入れておく。出るに任せるのではなく、こちらから抜いて、こちらから入れる。そうすれば、中心まで比較的均一に味を作れます。

ふつうに焼いた肉の断面と、減圧して塩味を入れた肉の断面を比べた図

外側だけしょっぱいのか、どこを食べても同じ塩味なのか。その差です

圧力の戻し方まで、素材で変える

使い始めたころは、「減圧して、戻せば味が入る」くらいに考えていました。

実際には、素材によって、圧力を戻す速度も大事でした。魚のように繊細な素材は、急激に戻すと食感に影響することがある。だからいまは、魚は特にゆっくり。肉も、必要以上に急激には戻しません。

圧力をゆっくり戻した場合と急に戻した場合で、出汁の入り方が変わることを比べた図

ゆっくり戻すと奥まで入り、急に戻すと入口で止まってしまいます

このあたりは、科学的に説明し切れる自信はありません。何度も使って、失敗して、僕の中でそうなっている、という話です。

野菜にも使える

肉と魚だけではありません。

ミニトマトやナスに、ピクルス液や調味液を含ませる。普通の漬け込みと違って、短時間で中まで入ります。

印象に残っているのは、葉物に水分を限界近くまで含ませる使い方です。見た目が少し透き通ったようになって、食べると、普通ではありえないくらいパリッとした食感になる。

これは僕もやってきたことですが、のちほど書く京都のカイノヤというお店でも、同じことをしていました。ただ、出てきたのはレタスでした。

僕は、レタスで試したことがなかったんです。食べてみると、自分がやっていたものよりずっと水分が多くて、まずそこに驚きました。

でも、もっと驚いたのは、そのあとです。

塩もオイルも、何もしていないんです。水を含ませただけ。それだけで、一皿として成立していました。

僕なら、たぶん何か足してしまう。足さずに出す、という判断ができることに驚きました。この機械をここまで潔く使える人は、日本でも——たぶん世界でも、そう多くないと思います。

赤い漆の器と雪の結晶の台に置かれたガラスの器に、透き通ったレタスが一枚立ててある

カイノヤで出てきたレタスです。水を含ませただけで、塩もオイルもしていません

味を含ませるだけではなく、水を含ませて、食感そのものを変える。これを見たとき、この機械の可能性が、いちばん分かりやすかった。

低温調理器と組み合わせる ― ケータリングの和牛ランプ

先日のケータリングで、ガストロバックと低温調理器を組み合わせました。和牛のランプです。

事前の仕込みで、余分な水分を抜いて、塩で下味を作って、牛の筋などから取った出汁をガストロバックで内部へ含ませる。その状態で、現場へ持っていきました。

現場では、低温調理器で中心部まで温度を整えます。試作では52℃も試しましたが、僕には少し生っぽく感じられたので、本番は54℃を狙って、2時間ほど。そのあいだ、僕は他の料理を進められます。

仕上げは、当初は熾火で表面を焼く予定でした。ただ、現場の熾火が想定より弱かったので、フライパンに変更。中心の温度を上げないよう、強めの火で表面だけ短時間焼いて、香ばしさをつけました。

― 温度と時間について、ひとつだけ ―

ここに書いた温度と時間は、今回の僕の一例です。低温調理の安全は、肉の厚さ、最初の温度、中心まで温度が届くのにかかる時間、そのあと保つ時間で全部変わるので、「この温度で何分なら大丈夫」と一言では書けません。プロ用の設備と経験のうえでやっている、という前提で読んでください。低温調理の安全の話は、いつか一本、丁寧に書きます。

和牛ランプを54℃で2時間火入れし、最後にフライパンで表面だけ焼く工程の図

中は静かに、表面だけ強く。時間のほとんどは54℃です

このやり方は、ケータリングと相性がいいです。

  • 仕上がりが安定する ― 現場の火力や鍋に左右されにくい
  • 失敗が減る ― 中心の火入れが終わっているので、現場の設備に合わせて仕上げ方を変えられる
  • 一人で回せる ― 機械が火入れしているあいだ、僕は別の料理を進められる

ちなみにこの日は、比較的早く切り分けましたが、肉汁が流れ出すことはありませんでした。低温調理で中心まで温度をそろえてあると、強火でゼロから焼いた肉ほど、長く休ませる必要がなくなるように感じます。

京都・カイノヤで見たもの

ガストロバックについて調べていくと、何度も同じ料理人の名前に行き着きました。当時、京都の四条河原町にあった「CAINOYA(カイノヤ)」の塩澤シェフです。

この機械を深く使っている料理人として、僕が調べた範囲ではいちばん目立つ存在でした。それで、勉強するつもりで、実際に食べに行きました。

お店は、カウンター数席の小さな空間。でも厨房には、ガストロバックのほかにも、スチームコンベクションオーブンや、急速に冷やすための機械が並んでいました。少人数の厨房で、機械を組み合わせながら、非常に複雑な料理を作っていた。

赤い漆の器と箸が置かれたカウンターの席

席のしつらえ。器も料理も、とても美しいお店です

銀色の器に野菜と食用花を敷き詰めた一皿

野菜と花を敷き詰めた一皿

特に印象的だったのは、火入れでした。

冷凍のまま、熾火で焼きはじめる。焼いてはブラストチラー——業務用の急速冷却機——に入れて一気に冷やし、また熾火へ戻す。それを繰り返していました。

聞いたことのないやり方でした。冷凍のものを、解凍せずに焼きはじめるという発想が、そもそも僕にはありません。

でも、目的から逆算すれば筋が通っています。魚なら、皮はパリパリに焼きたいけれど、身には火を入れたくない。肉なら、表面にはしっかりした香ばしさをまとわせたいけれど、中は均一なままにしたい。表面と中で、やりたいことが違う。

だから、表面だけを強く焼いて、熱が中へ届く前に止める。冷凍から始めるのも、中心が冷たいほど、その猶予が長くなるからだと思います。

冷凍の魚を熾火で焼き、ブラストチラーで急冷することを繰り返す4コマの図

魚は、皮だけを焼きます。焼いては冷やし、また焼く

魚と肉で違うのは、焼く面でした。魚は皮だけ。肉は全面を焼いて、ブラストチラーへ入れます。

冷凍の肉を熾火で全面焼き、ブラストチラーで急冷することを繰り返す4コマの図

肉は全面を焼きます。周りはしっかり、中は均一

石の皿に盛られた和牛の一皿

出てきた和牛です。周りはしっかり焼けていました

切っても、肉汁が流れ出しませんでした。中まで均一に火が入っている、ということだと思います。

これは僕が食べて、見て、そう理解した範囲の話です。それでも、自分では思いつかなかった組み立てを見られたことが、いちばんの勉強でした。食事のあと、厨房も見せていただいて、シェフともいろいろ話すことができました。

白い皿に苺と食用花、チョコレートを組み合わせたデザート

最後に出てきたデザートです。器の使い方も、ひとつずつ違いました

(カイノヤはその後、場所を京都・御室に移して、いまも営業されています)

不満も、ある

持っているからこそ言える使いにくさも、書いておきます。

まず、電源。海外製で、日本に入っているものは単相200Vです。設置場所を選びます。

それから、減圧しながら加熱すると、排気の側に水分が回ることがあります。「この内部や配管は、どうやって掃除するんだろう」と、いまでも思います。構造上、メンテナンスしづらいところがある。

そしてもうひとつ。この機械、いまは国内の正規の流通が終わっていて、新品で手に入れるのは難しくなっています。業務用厨房の資料には税抜99万円という定価が残っていますが、僕が買ったころとは状況が変わりました。

いま買うなら ― 国産という選択肢

僕が買った当時にはなかったのですが、その後、日本のメーカーから似たコンセプトの機械が出ています。

エスペッククリヤラボの「Vide Pro(ヴィードプロ)」という減圧低温加熱調理器です。

家庭にもある100Vの電源で動く。減圧できて、低温の加熱もできる。価格は97.5万円(税別)なので、金額としてはガストロバックと同じくらいです。

ただ、性能は一長一短で、どちらが上という話ではありません。真空度と100V対応はVide Proのほう、温度の上限と鍋の大きさはガストロバックのほう。役割と条件が違う、いつもの話です。

それでも、もし僕がいまゼロから選ぶなら、この国産機をかなり真剣に検討すると思います。理由は単純で、200Vの工事なしで置けるからです。

減圧低温加熱調理器 Vide Pro(エスペッククリヤラボ EVC-221)の本体公式サイト減圧低温加熱調理器 Vide Pro(ヴィードプロ)エスペッククリヤラボ。仕様のほか、昆布出汁の抽出などのレシピも載っていますvidepro-espec.jp

誰にでも必要な機械では、ない

約80万円。200V。大きい。メンテナンスに癖がある。

だから、「料理人なら買うべき」とは、まったく思いません。

僕自身、ガストロバックが欲しかったから買ったわけではありません。作りたい料理があって、そのために必要だったから買った。もし他の方法で同じ料理が作れるなら、この機械である必要は、ないんです。

これは、パスタ鍋でも、温度計でも、真空パック機でも、いつも書いてきたことと同じです。道具は目的ではなく、手段。

三台そろって、はじめてできる

この記事を書きながら、あらためて気づいたことがあります。

いま僕が求めているのは、均一な味付けと、均質な火入れです。どこを食べても同じ塩味で、どこを切っても同じ火の入り方。

たとえば和牛の場合、やっていることを順番に並べるとこうなります。

  1. 脱水シートで巻いて、真空にする。そのまま1〜2日
  2. 袋を開けて、出てきた水分を拭く。塩とトレハロースをして、また真空。さらに1日
  3. もう一度開けて、水分を拭く。ガストロバックで、牛骨・牛すじ・昆布からとった出汁を含ませて、真空
  4. 低温調理器で、中心まで同じ温度にそろえる
  5. 表面だけを焼く
  6. 切って、出す

仕込みだけで、三日かかります。そして真空パック機は、この間に三回登場します。抜く、入れる、そのあいだを保つ。ぜんぶ真空の袋の中で進みます。

どれか一台では、成立しません。三台そろって、はじめてできる料理です。

ひとつずつ、必要になったときに入れてきた道具でした。それぞれ別の理由で買ったものが、いつのまにか一本の線につながっていた。

あまり意識していなかったのですが、これはたぶん、僕なりの料理の、いまのところの最先端です。書いていて、はじめて気づきました。

まとめ ― 答えではなく、問いが増えた

買う前の僕は、この機械を「低温で火を入れながら味を入れる機械」だと思っていました。

いまは、水分を抜いて、食材自身の出汁を作って、それを内部へ戻して、塩味を均一にして、野菜に液体を含ませて、食感まで変える。買う前には想像していなかった使い方ばかりです。

機械を買うことで答えが見つかったのではなくて、使い続ける中で、新しい問いが増えていった。

それがこの機械を買って、いちばん面白かったことだと思います。

だからこの記事の結論は、「80万円の機械は買う価値があります」では、ありません。

何を作りたいのかが先にあって、そのために必要なら、道具を選ぶ。

ガストロバックは、僕にとって、その一例でした。

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この機械を買った理由の、もうひとつ奥の話です。「作りたい料理が先にあって、道具はあとから来る」という考え方について書きました。

今日の1曲

井上陽水「夢の中へ」です。

80万円の機械を買って、いちばんはっきり分かったのは、分からないことが増えた、ということでした。

使い方は増えたし、できることも増えました。でもそのぶん、「この素材ならどうなる」「ここをこう変えたら」という問いも増えている。答えを買ったつもりが、問いを買っていた。

この曲は、そういう人に向かって「まだまだ探す気ですか」と歌います。

はい、まだ探しています。

探しものはなんですか?
見つけにくいものですか?
かばんの中も机の中も探したけれど見つからないのに
まだまだ探す気ですか?
それより僕と踊りませんか?
夢の中へ 夢の中へ行ってみたいと思いませんか?

井上陽水「夢の中へ」(作詞・作曲 井上陽水)より

本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それでは、おやすみなさい。