キッチンペーパーは、二種類あればいい|料理人が厚手を手放せない理由
― この記事について ―
キッチンペーパーは、安いエンボスタイプと、厚手の布のようなタイプ。この二種類を使い分けるのが、いちばん合理的だと思っています。厚手のほうは、さらしの代わりに出汁まで濾せます。20年以上現場で使ってきた、料理人の使い分けです。
先に、結論だけ
- まずはこれ ── リード クッキングペーパー(厚手のフェルトタイプ)
- たくさん使うなら ── 業務用リードペーパー 超厚手
- 安いほうも要る ── エリエール 超吸収キッチンタオル(薄いエンボス)
- 考え方 ── 二種類あれば足ります。ちょっとした水分は薄いほう、濡れる仕事は厚手
こんばんは、ひろしです。
料理人になって驚いたことのひとつが、キッチンペーパーをとんでもない量使うということでした。
食材の水気を取る。揚げ物の油を切る。皿を拭く。台を拭く。出汁を濾す。一日でどれだけ使うんだろう、と最初は思ったものです。
家庭でよく見るのは、薄いタイプ
家庭でよく使われているのは、エンボス加工の、比較的薄いタイプだと思います。パルプを二枚重ねたやつです。
これは安いし、気軽に使えるし、ちょっとした水分を拭くには十分です。薄いタイプを下に見る必要は、まったくありません。

薄い紙を2枚、エンボスで貼り合わせた作り。くぼみの間に空気のポケットができます
そのうえで、僕が現場で強く評価しているのは、もう一種類のほうです。
厚手の、布に近いタイプ
リードのクッキングペーパーのような、厚手で、布やタオルに近いタイプです。パルプの紙ではなく、不織布でできています。
何がいいかというと、一枚でできる仕事の幅が広い。
- 食材の水分を取る
- 野菜や肉、魚の水気を拭く
- 皿を拭く
- 作業台まわりを拭く
- 清潔な布巾の代わりにする
- 水切りに使う
丈夫で、破れにくくて、水をしっかり吸って、濡れた状態でも扱える。ここが薄いタイプとの決定的な違いです。料理をするなら、このタイプはあって損はないと思います。

長い繊維が立体的に絡んでいます。濡れても、引っぱっても破れません
なぜ厚手は、濡れても破れないのか
ラップの記事で素材の話をしたので、ペーパーでも少しだけ材料の話をさせてください。薄いタイプと厚手タイプは、実は「作り」からして別物です。
紙は、水で「ほどける」ようにできている
ふつうの紙は、パルプの繊維どうしが水素結合という力でくっついてできています。そしてこの結合は、水に触れると切れます。紙が濡れると破れるのは、繊維をつないでいた手が、水でほどけてしまうからです。
キッチンタオルは、これを湿潤紙力増強剤という樹脂で補強しています。繊維のあいだに、水では切れない橋を架けておく。だからティッシュと違って、濡れてもすぐには破れません。それでも、土台はあくまで「補強した紙」です。

繊維どうしの手が、水でほどける。補強した紙は、水で切れない橋を架けてあります
厚手タイプは、紙ではなく「布の親戚」
一方、リードのような厚手タイプは不織布です。繊維を糊で固めるのではなく、長い繊維を立体的に絡み合わせて、シートにしています。織らずに作った布——だから「布の親戚」です。
リードの場合、メーカーの説明では水流で繊維を絡ませる製法で、接着剤のような添加物を使っていません。構造は3層で、表と裏は丈夫で毛羽が出にくい層、真ん中が水と油を抱え込む層。パルプが立体的に絡んで隙間が広いので、たっぷり吸って、抱えていられるわけです。
濡れても破れないのは、そもそも水で切れる結合に頼っていないから。出汁を濾せるのも、落とし蓋にできるのも、アクを取れるのも、この作りのおかげです。メーカー自身が、用途として水切り・油切り・落とし蓋・アク取り・だしこしを挙げています。
ひとつだけ注意です。リードはオーブン・トースター・直火は不可(紙なので燃えます)。電子レンジはレンジ機能のみ対応です。また、他社の厚手不織布にはポリプロピレン入りのものもあります(例:スコッティファインの「洗って使える」タイプ)。こちらは丈夫で便利ですが、樹脂が熱に弱いためレンジもオーブンも、揚げ物の油切りにも使えません。同じ「厚手」でも中身が違うので、材質表示を見てから使ってください。
正直に言うと、「洗って使えるペーパー」というのは、すごい商品だと思います。ただ、「熱には使えない」を覚えたまま使い続けられるかが分かれ目です。調理の流れの中で、手はペーパーに勝手に伸びます。そのたびに「これはPP入りだから油切りはダメ」と考えていられるか。家庭でも現場でも、正直微妙だと思います。
道具の良し悪しではなく、扱いきれるかどうか。これも、いつもの話です。
まとめると、こうなります。
- 薄いエンボスタイプ ── 補強した紙。安く、気軽で、ちょっとした水分には十分
- 厚手のフェルトタイプ ── 布の親戚(不織布)。濡れても強く、一枚で何役もこなす
値段が違うのは、作りが違うからでした。ラップと同じで、どちらが上ではなく、別の道具なんです。
だから、二種類の併用がいい
とはいえ、全部を厚手にする必要はありません。単価がまるで違うからです。
薄いタイプは一枚あたり1円から2円ほど。厚手のタイプは一枚あたり10円を超えるものもあります。
だから、こう分けています。
- ちょっとした水滴を拭く → 安いエンボスタイプ
- 肉や魚の水分をしっかり取る/水切り/濡れた状態で使う/破れては困る → 厚手タイプ
これで、コストを抑えながら、必要なところだけ性能を上げられます。

ちょっとした水分と、濡れる仕事。分けるだけで十分です
ここも家庭と業務で違いが出るところで、家庭では「一枚あたりが安い」が効く場面があり、業務では「作業が止まらない」ほうが大事になる場面がある。同じ紙を選ぶ話なのに、見ているものが違うんです。
メーカーにこだわっているわけではありません。「リードのような、厚手で丈夫なタイプ」というカテゴリーの話です。業務用の食品店や業務スーパー系でも、似た厚手タイプが安く売られていることがあります。
この記事で紹介したもの
厚手のフェルトタイプ。まずはこれを一箱。箱に「厚手のフェルトタイプ」と書いてあります。
もっと使う人へ、業務用の超厚手。一枚が大きく、ロールで来ます。
そして、薄いほう。ちょっとした水分はこれで十分です。一枚あたりの安さが効きます。
ケータリングには、必ず持っていく
出張のケータリングでも、この厚手のペーパーは必ず持っていきます。
そもそも僕は、タオルやダスターも自分で持っていきます。ゴミも、基本は持ち帰ります。よその台所を借りる仕事なので、それが当たり前だと思っているからです。
ただ、持っていけるタオルやダスターの数には限りがあります。足りるとは限らない。
そしてお皿を拭くのは、衛生的に考えてペーパーがいちばんいいと思っています。使い回しの布より、その場で使い切る紙。だから、丈夫なペーパーを必ず持っていくんです。
もうひとつ。厚手のペーパーはさらしの代わりにもなります。出汁を濾せるんです。ケータリング先でさらしを洗って干すわけにはいかないので、これが効きます。
ひとつの用途にしか使えない道具より、いろいろな用途に使えるもののほうが、荷物としての価値が高い。厚手のペーパーは、その代表です。
まとめ ― 全部を、いいものにしなくていい
薄いエンボスタイプには、安くて気軽な良さがある。厚手には、一枚で何役もこなす良さがある。
ちょっとした水滴は安いほうで、肉や魚の水分と、濡れた場面と、破れては困る仕事は厚手で。
全部をいいものにする必要はありません。必要なところだけ、少し性能を上げる。ペーパーは、その考え方がいちばん分かりやすい道具だと思います。
今日の1曲
中島みゆき「糸」です。
キッチンペーパーの記事に「糸」はどうかと思ったのですが、書き終えてみると、そんなに遠くありませんでした。
この記事でいちばん書きたかったのは、厚手のペーパーは紙ではなく、布の親戚だということです。繊維が立体的に絡み合って、シートになっている。織らずに作った布です。
そして「糸」は、縦の糸と横の糸が出会って布になる歌でした。
台所の隅で毎日使われて、汚れを拭いて、そのまま捨てられていく紙の話です。でも、あの一枚も、たくさんの繊維が絡み合ってできている。そう思うと、少しだけ見え方が変わります。
なぜ生きてゆくのかを迷った日の跡のささくれ
夢追いかけ走ってころんだ日の跡のささくれ
こんな糸が何になるの心もとなくて震えてた風の中
縦の糸はあなた横の糸は私
織りなす布はいつか誰かの傷をかばうかもしれない
縦の糸はあなた横の糸は私
逢うべき糸に出逢えることを人は幸せと呼びます中島みゆき「糸」(作詞・作曲 中島みゆき)より
「こんな糸が何になるの」
一本では、たしかに何にもなりません。でも絡み合えば、水を受けとめて、油を抱えて、出汁を濾せるだけの強さになる。厚手のペーパーは、そういう作りをしています。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それでは、おやすみなさい。
