こんにちは、ひろしです。

今日のテーマは、料理人が20年、現場で使い続けてきた包丁の話。

僕がほぼ全部の仕事を任せてきたのが、Misono(ミソノ)というメーカーの洋包丁です。

本職用に5本、自宅用に2本。

ぜんぶ、いまも現役。

結論から言うと、

家計赤字8万円のシェフが選ぶ「いっしょうもの」の包丁は、Misonoでした。

説明していきます。

3千円のペティナイフから、すべては始まった

20年前、22歳の僕は、料理の世界に飛び込んだばかりでした。

大阪の、イタリアン。

右も左もわからず、給料も安く、貯金も道具もない。

そんな僕に、ある先輩が教えてくれた包丁メーカーがあります。

「Misono、ええで。最初の1本は、ペティから揃えとき」

当時、いちばん安かった Misono のペティナイフが、たしか3千円弱。

その3千円が、いまから振り返ると、20年つかう道具との出会いの始まりでした。

そもそも、Misono とは

Misono(ミソノ刃物)は、岐阜県関市にある、洋包丁の老舗メーカー。

関は、刃物の町。

700年の歴史をもつ、日本の刃物の聖地のひとつです。

その地で、Misono は、とくにプロの料理人に支持されてきたメーカー。

シリーズはいくつかあって、僕が使っているのはおもに2つ。

  • モリブデン鋼(HANDMADE シリーズ)
  • 440(高炭素ステンレス)

どちらも錆びにくく、刃持ちがよく、研げばすぐ切れ味が戻る。

料理人にとって、相棒と呼べる刃物です。

本職用 Misono 包丁4本と高橋鍛冶屋の特注27cmを並べた俯瞰写真
本職用 Misono の4本と、出雲・高橋鍛冶屋に特注した牛刀27cm。これが、毎日の現場を支える刃物たち。

本職用①:ペティナイフ 12cm(モリブデン鋼)

これが、20年前に、3千円から始まった、最初の1本。

ペティナイフは、果物や薬味、細かい食材を扱うための小型ナイフ。

写真のとおり、研ぎ続けたあげく、いまではかなり細くなりました。

新しく買った頃は、もっと幅があったんです。

でも、研いで、研いで、また研いで。

20年たったいまも、毎日仕事で握っています。

包丁は、一本を長く使う方が、自分の手に馴染んでいく。

その実感を、最初に教えてくれた包丁です。

最近は、なんでも高くなって、いろいろ大変ですが——

一生使えると思えば、安いものと、僕は思います。


本職用②:ペティナイフ 15cm(440・HANDMADE)

2本目のペティは、少し大きいサイズ。

こちらは Misono の HANDMADE 440 シリーズ。

ペティといっても、12cm と 15cm では使い心地がまったく違う。

12cm は、果物や仕上げの細工に。

15cm は、ペティと小さい牛刀の中間のような感覚で、玉ねぎを切ったり、肉の脂を取ったり、用途が広い。

2本ある理由は、シンプルです。

1本では足りない場面が、毎日ある。

Misono ペティナイフ 本職用(細い)と家庭用(太い)の刃幅の対比
同じ Misono、同じサイズ、同じ年数。職場(細い)と家(太い)で、使った時間がそのまま、刃の幅にあらわれる。


本職用③:牛刀 18cm(モリブデン鋼)

洋包丁の18cm。

三徳包丁としては、すこし小ぶり。

でも、そのぶん、何にでも使いやすいんです。

家庭用の三徳より、キレがいいから——

軽い力で、すっと入っていく。

正直、これがいちばん、手に馴染んでいる。

魚も、肉も、野菜も、ぜんぶこれ一本でいけてしまう。

「もし1本だけ持っていけ」と言われたら、迷わずこの18cmを選びます。


本職用④:牛刀 27cm(モリブデン鋼)

27cm の牛刀は、肉のブロックや、大きな野菜(白菜、キャベツ、かぼちゃ)を扱うとき。

長い刃は、力を逃しやすく、引いて切る動きが綺麗にきまります。

18cm より、ぐっと「料理人の包丁」感が出る。

家庭ではあまり使わないサイズだけど、業務用としては定番です。


本職用⑤:牛刀 30cm(440)

そして、30cm の大きな牛刀。

こちらは Misono の 440。

切れ味が鋭く、刃持ちがいい。

大きな魚、骨付き肉、塊肉を、一気に切り分けるときに重宝します。

家庭で使うことはまずないサイズだけど、ケータリングで何十人分も同時に仕込むときには、30cm の長さが、本当に効いてくる。


自宅用:本職用と「もとは同じ」を、家にも

家には、ペティ(12cm)と、18cm の Misono を1本ずつ置いています。

本職用と「もとは同じ包丁」。

でも、家で使う頻度は、職場の何分の一。

だから、研ぐ回数も少なくて、いまでも幅広いまま、形が残っています。

同じ Misono の同じサイズが、職場では細く小さくなり、家では幅広いまま——

20年という時間の重みが、刃の太さに、はっきりと刻まれている。

Misono ペティナイフ 本職用と家庭用を重ねた比較写真
重ねてみると、削れた量がはっきりわかる。これが、長い時間の、ひとつの形。

使い続けて、思うこと

包丁は、買って終わりじゃない。

研いで、使って、研いで、また使う。

その繰り返しの中で、刃が少しずつ細くなっていく。

でも、その細くなった姿こそが、自分の仕事の証なんです。

「20年でこんなにすり減るんですか」と、若い料理人に聞かれることがあります。

毎日のように研いでいれば、こうなる。

新品のままピカピカの包丁を持っている料理人より、ボロボロに使い込んでいる料理人を、僕は信じます。

道具は、使い込むためにある。

そして、長く使い込めるものこそが、ほんとうにいい道具です。

これから包丁を買う人へ:最初の1本は、Misono のペティから

「料理が好きで、いい包丁が欲しい」

そう思った人に、僕がいつも勧めているのは、Misono のペティナイフです。

理由は3つ。

  1. 3千円台から手に入る、現実的な価格
  2. 切れ味と扱いやすさが、家庭にも料理人にもちょうどいい
  3. 長く使うことで、研ぎが楽しくなる、教科書みたいな包丁

1本で全部の仕事ができるわけじゃない。

でも、最初の1本としては、これ以上ない選択だと思っています。

そして、もし合わないと感じたら、別のメーカーに行けばいい。

3千円なら、痛くない。

でも、合うと感じたら——たぶん、ずっと使い続けることになります。僕みたいに。

後編予告:和包丁の世界、地域の物語

ここまで読んでくれた人は、もしかしたら気づいているかもしれません。

4本並んだ写真の、いちばん右の、太い刃の包丁。

あれだけ、Misono じゃない。

あれは、いま僕が住んでいる出雲の、高橋鍛冶屋に特注した、両刃の包丁です。

昔ながらの製法で、熱した金属を手で叩いて作る、いまでは全国で数件しかない鍛冶屋。

そして、それだけじゃない。

魚を扱うために手に入れた、出雲の岡田刃物の出刃包丁。

大阪——僕の出身地——の實光刃物に特注した、1尺1寸の刺身包丁(柳刃)。

洋包丁では切れない世界が、和包丁にはあって、

その世界には、地域の物語が、ぴったりと寄り添っていました。

次回、後編で、その世界の話を書きます。

岡田刃物(出雲)の出刃包丁
出雲・岡田刃物の出刃。後編は、こうした和包丁と、地域の物語の話を書きます。

あわせて読みたい

同じ「プロが家で本当に使ってる」シリーズの、過去の2本。

【プロが家で本当に使ってる】20年イタリアンの料理人が、家計赤字8万円でも続けてる「毎日のオリーブオイル」3本

【20年イタリアンの料理人が選んだ】料理写真を逆光で撮るカメラ|FUJIFILM X-H2S と相棒レンズ3本

食材、写真、道具。

3つが揃って、はじめて「料理人の家」になります。


本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それでは、おやすみなさい。

今日の1曲

THE HIGH-LOWS「そばにいるから」

20年使い続けた包丁を握ると、毎日、頼りにしている。

いつもそばにいるから、ありがたみは普段は忘れてしまう。

でも、無くなって初めて、その存在の大きさに気づく。

道具との関係も、人との関係も、似ているのかもしれません。

包丁を研ぎながら、そんなことを、ふと思いました。

[心配はいらないよ 僕がそばにいるから
君のためにいつでも 闘う僕だから
空が曇ってきても 僕がそばにいるから
君だけに青空を 見せてあげる]

— THE HIGH-LOWS「そばにいるから」(作詞・作曲:真島昌利/甲本ヒロト)

📷 La Feniceのケータリング・イベント出店のご依頼は 公式サイト から。Instagram でも料理の写真を、@monocromia__ ではスナップを公開しています。